大学院時代から宇宙物理学、特に太陽物理学と関係する宇宙プラズマの物理過程の研究をしています。 また2008年に京大の宇宙総合学研究ユニットに着任してからは、 宇宙に関する新しい学際的な研究を開拓するというミッションを受け、 特に人文社会学系を中心に様々な分野の研究者と協同して 宇宙人類学や宇宙倫理学などの研究に関わっています。
太陽フレアなどの太陽の活動現象、及びその原因となる 磁気プラズマの物理素過程(磁気リコネクション、磁気浮力不安定性、磁気対流、 部分電離の効果、粒子加速等)に関心を持って研究しています。 磁場とプラズマの相互作用に起因する類似の活動現象は、 恒星、降着円盤、惑星磁気圏など宇宙の様々な天体で起きていることが 分かっており、詳細な観測のできる太陽の知見を活かして 宇宙の様々な活動現象の理解につなげたいと考えています。
手法としては、大型計算機を用いた磁気流体シミュレーションに基づく 理論的研究と観測データの解析の両方を用いています。 理論と観測の両面から、太陽や天体で起きている現象の背後にある 物理過程を明らかにするというのが研究のスタイルです。 また地球・惑星磁気圏の研究者や核融合など実験室プラズマの研究者との 交流や共同研究も積極的に行っています。 太陽活動の地球周辺の宇宙環境及び人類社会への影響、 すなわち「宇宙天気」にも関心があり、 最近はIT系の民間企業との共同研究で実用を意識した 宇宙天気予報アルゴリズムの開発にも携わっています。
また、下に書いてある学際的研究の一部ですが、最近は古文献中の太陽黒点やオーロラの 記録を用いて過去の太陽活動を探る研究や、市民が撮ったオーロラ写真をサイエンスに使うという 市民参加型の研究プロジェクトにも携わっています。詳細は AURORA 4D PROJECT
宇宙は我々と因果関係を持ちうる全てを包含する存在ですから、 なんでも宇宙とつながります。 そういうわけで 2008年に京都大学宇宙総合学研究ユニットに 着任して以来、新しくて面白そうなことならなんでもやってみよう、という精神のもとに 様々な分野の専門家にお声かけして、学際的な研究の開拓に取り組んできました。
また科学コミュニケーションや教育にも関心があり、 お寺、落語、アート、お茶、書道、香り、陶芸などとコラボした企画を色々と手がけたり、 京大の研究者や小中高の先生方と連携して 宇宙箱舟ワークショップなどの 教材・教育プログラムを開発したりしています。
2015年4月に着任した 総合生存学館も、学際的アプローチで人類の生存のための学問と実践を行うところであり、「宇宙」を重要なキーワードにしつつ、既存の学問の枠組みに捕らわれない新しい挑戦に、学生さんと共に取り組んで行きたいと考えています。
神戸大学の文化人類学者、岡田浩樹先生との出会いがきっかけで始まったプロジェクトです。大きく言えば、人類と宇宙の関わりや将来的な宇宙進出について人類学的視点から考えようというものです。
参考:宇宙人類学研究会
初期の成果はこちらの書籍に載っています。私は第一章の執筆を担当しています。
「宇宙人類学の挑戦」岡田浩樹・木村大治・大村敬一編(昭和堂、2014)
この書籍の内容にいくつか新しい論文も加えて英語化した論文集
"Challenges of Space Anthropology"が
JAXAレポートから2015年春に出版されました。JAXAのレポジトリから
ダウンロードできます。
初期は哲学的、思考実験的な検討が中心でしたが、それだけに留まらずフィールドワークを 重視する文化人類学的な研究もということで、宇宙人類学研究会としては、 現在宇宙開発、宇宙産業関係者のオーラルヒストリーの研究に取り組みつつあります。
私自身は、宇宙総合学研究ユニットの教員や学生と協力して、 かつて京都大学花山天文台の初代台長・山本一清博士の協力により建設された 国立第一号のハンセン病療養施設・長島愛生園の天文台における 活動の調査を天文台を行っています。その調査のことは 2015年に出版された スピリチュアリティと環境(鎌田東二編)という本で私が執筆した「宇宙環境とスピリチュアリティ」にも書いてあります。
宇宙開発利用には所謂ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)と呼ばれるような、 倫理的、法的、社会的課題が伴います。宇宙開発利用に関わるこれらの問題群の検討という 社会的要請があることももちろんですが、一方で生命科学の例を見ても分かるように、 科学技術の進展がもたらす人類に取っての未知の状況、体験は ー宇宙進出はまさにそのような例の一つですがー 既存の価値観や倫理、社会のあり方そのものに疑問を投げかけます。 その意味で宇宙は人文社会学にとっても新たな発見をもたらしうるフィールドと 言うことができるでしょう。
現在は特に倫理学的な問題に着目し、宇宙総合学研究ユニットや 文学研究科・応用哲学応用倫理学研究センター 等の研究者と協力して、宇宙倫理学の研究を進めています。
ガリレオらによる望遠鏡を用いた近代的な天体観測が始まったのは17世紀初頭ですが、 古来から人々は天体現象を記録してきました。 特に歴史的文献中にあるオーロラや肉眼黒点の記述は、過去の太陽活動の 情報を持っています。歴史学や天文学の大学院生と協力して、 過去の歴史的文献中の記述から過去の太陽活動の変遷を探る研究を行っています。 (大学院生が主著の最初の論文が現在査読中で、文献からサーベイしたデータは ウェブから誰でも参照できるようにする予定です)
また、科学と宗教の関係というのはキリスト教圏を中心に膨大な 思索と研究の蓄積がある領域ですが、日本を始めとした東アジアや 仏教圏のコンテクストではあまり研究が無いように思います。 (まだ少しずつ勉強し始めているところなのでよい文献等あれば 教えて下さい。)特に、現代に生きる、科学者でもなければ特別信仰深いわけでもない普通の人にとって、 科学と宗教がどのような役割を果たしうるのかということに関心を持っています。
このために、古代〜近代以前のアジアの宇宙観を研究している研究者たちと ワークショップを開催したり (詳細はこちら)、 若手の僧侶グループと連携して、お寺で科学者とお坊さんと市民が語る会 「お寺で宇宙学」 を継続的に開催したりしています。