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火星北半球夏季に発生する低緯度氷晶雲帯の衰退期の振る舞いについての研究
惑星気候学および気象学的に見て、 火星の北半球夏季に最も特徴的な現象は、低緯度帯を覆う雲の帯 (低緯度氷晶雲帯)です。 火星と地球の会合周期は約2年2ヶ月なので、 火星観測も1年おきに行われますが、 私たちは、この低緯度氷晶雲帯をテーマにした観測を 1997年、1999年、並びに2001年に、 飛騨天文台65cm屈折望遠鏡、 アリゾナ大学附属Steward天文台Mt.Bigelow基地の61インチ反射望遠鏡、 同じくMt.Lemmon基地の60インチ反射望遠鏡を用いて行い、 雲帯の盛衰の様子を研究してきました。 今回報告する研究成果は、未だかつて大々的に扱われたことのない、 この低緯度氷晶雲帯の衰退期の様子を明らかにしたものです。 私たちは、 2001年の北半球秋分付近 (Ls=174度、Lsは季節を表す火心太陽黄経で、Ls=0度が北半球春分、90度 が夏至) に於ける氷晶雲の光学的厚さの日変化を独自の解析手法により導き、 その値として 0.1 ( 4400) を得ました(図1)。 このような季節 (北半球秋分付近) に於いてこの厚さの雲帯が存在することは稀であり、 私たちは、 このあと起こった惑星規模の大砂嵐と何らかの関係があるのではないかと指摘しました。
この雲帯は、低緯度に於ける大気大循環 (ハドレー循環) の様子を体現していると言われています。 そこで、雲帯の緯度方向の存在範囲と季節 (特に消失の時期) との関係を調べたところ、 その範囲は、 南限についてはやや規模の増大も見られるものの、 少なくともその最小規模、および北限については、 消失の直前まで、おおむね季節には無関係でした(図2)。
このことから、北半球夏季に於ける、低緯度のハドレー循環は、 秋季という遷移期を迎える直前までその規模を変えないという結論を得ました。
衰退期の様子をより具体的に調べるために、 1999年の観測データを詳細に検討したところ、 雲帯は、最盛期を過ぎ衰退期に入っていく頃 (時期はLs100-110度、 即ち夏至を過ぎた頃) に、 低緯度帯を半周する程度の大規模な雲のバンドと、 いくつかの中規模な雲の塊に分裂してしまうことがわかりました(図3)。 私たちは、この「雲帯の分裂」が、 赤道をまたいで存在するハドレー循環の局在化を示唆しているのではないか、 と結論づけました。
(中串 孝志 記)
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