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(16) フィラメント噴出現象とCMEについて

太陽をフランホッファー線の一つ線で観測すると、彩層と 呼ばれる太陽大気が見えます。 この彩層は白色光で見るのっぺりとした表面とは異なり、無数の模様が あります。 その中にあって、プロミネンス(紅炎)とフィラメントは、活動領域で見られる 黒点や明るいプラージュとは大きく異なる構造です。 フィラメントプロミネンスは、名前は違いますが全く 同じ構造を指しており、プロミネンスが太陽のリムの外で観測され暗い宇宙を 背景にするので明るく輝いて見えるのに対し、フィラメントはプロミネンスが 太陽自転によりディスク内に移動して来る時に見える黒く細長い筋模様を 示しています。 これらが黒点などと異なる大きな点に、フィラメント(プロミネンス)が 太陽大気中(コロナ)に浮いている存在であることが挙げられます。 フィラメントは水素のプラズマが、太陽の強い磁場の力により大気中で 支えられていると考えられ、これが太陽表面からの強力な光を散乱することで、 黒い筋模様のように観測されます。

さて、このフィラメントは通常数日から数ヵ月に渡り比較的安定にその姿を保つ ことが知られています。 しかしながら、時折、非常に短時間(数10分から数時間)の間に突如として 消失する現象(DBと呼ばれている)が、古くから観測されてきました。 そして他の波長を用いた観測により、DBが起こると、ほぼ時を同じくして フレアやCME(Coronal Mass Ejection:コロナ質量放出現象)が 伴うことが知られています。 この中でもCMEはその名の通り、太陽のプラズマを大量に惑星間空間に噴出する 現象であり、これが地球に飛来すると、地磁気嵐と呼ばれる現象を誘発して、ま れに地上送電線に異常電流を誘導しこれを壊すなどの悪影響があります。 このような太陽からのプラズマ噴出現象を研究は、現在「宇宙天気予報」と して盛んになりつつあります。

CMEと深く関わりのあるDBにはは以下の2通りの解釈が出来るでしょう。 一つに、フィラメントが何らかの力を受けて重力に抗して上方に加速され、 ついには惑星間空間に噴出されるもの(Eruptive Type)と 太陽表面に落ちてしまうもの(Not-Eruptive Type)です。 しかし、ディスク上のフィラメントはリムに見えるプロミネンスとは異なり、 噴出したか否かが線中心の観測だけでは分かりません。 私は、地球に影響を及ぼす恐れのあるEruptive TypeのDBが Not-Eruptive Typeと観測的に如何なる差異があるのかを調べる目的で、 京都大学飛騨天文台で観測された約30のDBについてEruptive/Not-Eruptiveに 分類し、かつYohkoh衛星の軟X線コロナの画像を用いてそれぞれに 特徴的なコロナ活動を解析研究しました。

その結果、フィラメントがEruptiveである場合は、軟X線コロナでアーケイドと 呼ばれるループ集合体が出現するなど、大規模な変化が伴うが、Not-Eruptiveで ある場合は、軟X線コロナは殆どないし全く変化を示さないことをつきとめました。 また、Eruptiveな現象ではフィラメントの位置する領域の磁場の強さが大きな程、 アーケイド形成に於いて開放される単位時間単位体積当たりの熱エネル ギー開放量が大きく、それは噴出フィラメントの速度に対し指数関数的に増加す る結果も得ました。 すなわち、軟X線画像と線像を解析することにより、フィラメントが 噴出したかどうかの判別がある程度可能となったのです。

(森本 太郎 記)



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