日本人アマチュアが発見した新星から新星爆発に伴なうガンマ線を初めて検出サイエンス誌 2010年8月13日号に掲載 日・米・欧共同開発の「フェルミ」ガンマ線宇宙望遠鏡チームと、京都大学花山天文台、広島大学宇宙科学センターの「かなた」望遠鏡をはじめとする可視光観測チームの共同観測研究(論文責任者Teddy Cheung氏(米海軍研究所)ら)により、日本のアマチュア天文家の福岡県久留米市の西山浩一氏と佐賀県みやき町の椛島冨士夫氏が2010年3月に発見したはくちょう座新星から、新星爆発に伴い1億電子ボルト以上(最高で100億電子ボルト)のエネルギーをもつガンマ線が放射されていることが初めて明らかになりました。新星爆発の際にこれほど高いエネルギーのガンマ線が放射されるとは以前の研究では考えられておらず、今回の研究によりガンマ線を放射する新種の天体が発見されたことになります。この研究成果は平成22年8月13日(金)発行の科学誌「Science」で発表されました。
■研究の概要と成果「新星」はそれまで暗かった星が数日のうちに1万倍以上も明るく輝き始める現象で、我々の銀河系の中では年間10個程度の新星が発見されています。西山氏と椛島氏は、2010年3月11日明け方に、はくちょう座を撮影した画像から、およそ7等級の明るさの天体を発見しました。この天体の位置には、1940年に発見された「はくちょう座V407」という共生星として知られている天体がありました。二人から連絡を受けた京都大学花山天文台では、直ちに確認観測を行うとともに、VSNETや国際天文学連合の天文電報中央局を通じて世界中の研究者に連絡を行いました。 はくちょう座V407はおよそ9000光年先にある天体で、白色矮星と赤色巨星の2つの星が、お互いの周りを回り合っている共生星と呼ばれる天体です。赤色巨星の表面からは水素ガスがゆっくりと放出されており、その一部は白色矮星の表面に降り積もってゆきます。今年3月に観測された新星爆発とは、白色矮星の表面に降り積もった大量のガスが、温度や密度が十分に高くなったため、核融合反応を爆発的に起こした現象です。降り積ったガスはこの爆発によって秒速数千kmの速さで吹き飛びますが、白色矮星や赤色巨星そのものは爆発後も残り、しばらくすると再びガスが白色矮星に積もり始めます。 この研究により、新星爆発に付随してガンマ線の放出が起こることが発見されたことで、高エネルギーガンマ線を放つ天体の一種として新たに新星が加わったことになります。この発見は超新星残骸で起きている粒子加速現象が、新星爆発でも起きていることを示唆しており、これまで高エネルギーのガンマ線を放たないと考えられてきた新星爆発についての常識を覆すものであるといえます。 本研究の観測対象である新星はくちょう座V407は西山氏と椛島氏の発見により多くの研究者の注目を浴び、上述のような今回の新たな科学的発見につながりました。この研究成果は、アマチュア天文家の発見と様々な観測手法を駆使するプロの研究者の連携が非常にうまくいったことで、得られたものということができるでしょう。なお、この新星は西山氏と椛島氏の発見の翌日(3月12日明け方)に、群馬県吾妻郡嬬恋村の小嶋 正(こじま ただし)氏、長野県東筑摩郡の坂庭和夫(さかにわ かずお)氏、岡山県津山市の多胡昭彦(たご あきひこ)氏によってもそれぞれ独立に発見されました。このことは新天体の発見における日本のアマチュア天文家のレベルの高さを物語っています。 ※1 「フェルミ」ガンマ線宇宙望遠鏡は、日米欧が共同で開発し2008年に打ち上げられたガンマ線観測衛星であり、観測主要部には日本が開発した半導体センサーが使われています。検出器の広い視野と大きな有効面積により感度の高いサーベイ観測を毎日行っており、これが今回の発見につながりました。日本からは広島大学、東京工業大学、ISAS/JAXA、早稲田大学などが衛星の運用やデータ解析に参加しています。 ※2 爆発によって物質が速い速度で膨張し衝撃波が生じると、衝撃波付近の粒子は光の速さに近い速度まで加速され、極めて高いエネルギーを持つようになります。新星爆発よりもずっと大規模な爆発である超新星爆発によって生じた高速で膨張する物質(超新星残骸)の中では、このような粒子を非常に速い速度まで加速する現象が起きていることが既に知られていましたが、新星爆発でも同じような現象が起きることはこれまで知られていませんでした。 参考リンク |