『太陽物理学』 太陽は人類にとって一番身近な恒星であり、根源的な興味の対象として有史以来 さまざまな観測がなされてきました。特に17世紀の科学革命を機に発展してきた 太陽物理学は、太陽の組成や活動現象のダイナミクスを解明してきました。 そして太陽物理学は、現代においてもなお未解明の問題が残る現代物理学の フロンティアを担っています。また、人類が宇宙に進出するに伴い、その重要性 が明らかになってきた宇宙環境の変化を予測する研究(宇宙天気予報)の観点 からも太陽研究には高い関心が持たれています。 2006年9月23日に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」は、これまでにない 驚くべき太陽の姿を明らかにしています。その一つの例として、太陽彩層の いたるところにある微細なジェット状の爆発現象が挙げられます。黒点のまわり には図1にみられるようにたくさんの微小なジェットが常時存在し、中でも アネモネ型ジェットと呼ばれる足元の明るいジェットは、大きなフレアと同じく 磁気リコネクション機構により発生していることが明らかになりました。 この成果は「ひので」衛星の他の成果と共に、米国サイエンス誌に掲載され ました(Shibata et al., Science, vol.318, p.1591, 2007。)詳しくは以下の 京大ニュースリリースを参照ください。 http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/documents/071207_1.htm
ムービー1(M1V):「ひので」衛星搭載の可視光望遠鏡にカルシウム・フィルタをつけて撮られた太陽の縁の近くにある黒点周辺の彩層の様子(2006年12月17日20時〜21時UT)の動画です。これを見ると彩層は無数の微小なジェット(細長い高速の流れ)に満ち満ちていることがわかります。
「ひので」衛星から驚くべきデータが得られる一方で、 京大飛騨天文台の地上望遠鏡は、「ひので」衛星と連携し、 互いのデータを補うような観測を行っています。 図2左は、飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡垂直分光器で取得された 太陽フレアのカルシウム輝線です(図2右は同時刻のHα像。 中央に縦にスリットの影が写っています)。 分光観測から得られるスペクトルをもとに、衛星では得られない、 温度や密度、速度などの物理量の導出が可能となります。 太陽活動は、我々の日常生活にも影響を及ぼします。 地球近傍の磁気擾乱は、電離層を乱し電波通信を阻害したり、 変電所のトランスを焼き切ってしまったりします。 磁気擾乱のほとんどは太陽を起源としており、太陽フレアに伴って X線や高エネルギーの粒子が地球に飛来し、人工衛星を破壊したり、 宇宙飛行士を被爆させたりすることもあります。 このような太陽活動の脅威に備えて、宇宙環境の変化を予測する、 宇宙天気予報と呼ばれる研究が発展しつつあります。 図3に示すモートン波と呼ばれる衝撃波は、太陽フレアから 発生したもので、宇宙空間に広がっていく嵐の先端部分を 示しています。注目すべきことに、これまで世界で観測された モートン波の約半分は飛騨天文台フレア監視望遠鏡で 発見されたものです。 さらに、2003年には飛騨天文台に新たに太陽磁場活動望遠鏡 (SMART)が建設され、太陽全面を常時高空間分解能で観測することで、 太陽の活動現象を見逃さない体制をとっています。 大きな活動現象の予兆をいち早く発見し、 宇宙天気予報に貢献することが期待されています。 図4は、SMARTで観測されたプロミネンスと呼ばれる 太陽上空のガスが噴出する現象の一例です。 |