Kwasan and Hida Observatories, Graduate School of Schience, Kyoto University English Home page

『太陽・宇宙プラズマ物理学』

1.太陽電磁流体力学
 太陽ではフレア、コロナ質量放出などといった 活発な活動現象が発生しています。太陽での活動現象は 強い非線形性を持つ磁場とプラズマの相互作用により 発生していますが、そのスケールの大きさから 地上で実験を行うことができません。そこで、 コンピュータを用いて、太陽の状況を擬似的に再現し、 磁気流体(MHD)方程式などに従って時間発展させることで、 太陽プラズマの振る舞いを調べるという、 数値シミュレーションによる研究がさかんに行われています。
 また、太陽は我々にもっとも近い恒星であるため、 時間・空間ともに高分解能の観測を行うことができます。 フレア、ジェットなど、太陽と類似したプラズマ活動現象は 恒星、原始星、活動銀河核など宇宙のあらゆる天体で見られるため、 太陽を研究することにより確立された普遍的・基本的な物理法則は 宇宙の他の天体の現象にも応用できると考えられます。 つまり太陽は「プラズマ物理学の実験場」と言えるでしょう。 ここでは、本グループで行っている 太陽MHDシミュレーションに関連した最近の研究成果のうち、 カルシウムジェットについての研究を紹介します。

2006年に打ち上げられた「ひので」衛星のカルシウム吸収線 (波長396.8nm)による観測から、多数の小さなジェット (カルシウムジェットと呼ばれる)が見つかりました(図1左)。 かつて「ようこう」X線望遠鏡で発見されたX線ジェットと同様に、 磁気リコネクションモデルに基づくシミュレーションを行い、 カルシウムジェットの再現に成功しました(図1右)。



X線ジェットとカルシウムジェットは、 ともに太陽内部から浮上してきた磁束管が周囲の磁場と 磁気リコネクションを起こすことにより発生すると考えられています。 しかし、この2種類のジェットは形がよく似ているものの、 X線ジェットはコロナで発生し大きさは10万km、 カルシウムジェットは彩層で発生し大きさは1000kmと、 発生場所・スケールに大きな違いがあります。 このことから、カルシウムジェットの発見は、 かつてのX線ジェットの発見とあわせて、 様々な場所・スケールで磁気リコネクションが起こること (ユビキタス・リコネクション)の重要な証拠であると考えています。



2.天体電磁流体力学
 天体MHDグループでは、宇宙の様々な天体における磁気流体現象を 理論解析・シミュレーションを駆使して精力的に研究しています。 ここでは我々の研究の3本柱についてここで紹介します。

(1) 宇宙ジェット
 宇宙ジェットとは、中心天体から双方向に吹き出す、 細く絞られたプラズマの噴流です。宇宙ジェットは 宇宙の様々な階層で見つかっており、中心天体の周辺で生じる 激しい磁気的活動現象に伴って形成されると考えられています。 我々のグループでは、原始星や、コンパクト星、活動銀河中心核、 ガンマ線バースト等で見られるジェットを、 統一的に理解するために、多次元非線形磁気流体シミュレーションを 駆使して研究を進めており、世界トップクラスの研究成果を 挙げています。図2は降着円盤から噴出するジェットの 3次元MHDシミュレーションによる結果です。



(2) 超新星・ガンマ線バースト
 ガンマ線バーストは宇宙で最も明るい爆発現象であり、 超新星と密接に関係していると考えられています。これらは、 中性子星やブラックホールなど高密度天体の起源としてだけではなく、 次世代天文学を担うニュートリノや重力波の放射源としても重要です。 しかしながら、恒星核の重力崩壊がトリガーとなって 生じると考えられているこれらの爆発現象の物理は、 完全には解明されておらず、宇宙物理学最大の問題となっています。 我々は、重力崩壊起源の爆発でも磁場が重要な役割を担っている と考えており、シミューションと解析的手法を組み合わせた 幅広い研究を進めています。近年、我々は、ガンマ線バーストでは、 磁気流体的な不安定性の結果、非定常なエネルギー解放が起こることを 明らかにしました。磁場の効果をさらに詳しく解析していくことで、 宇宙最大の爆発現象の謎を解き明かすことが 我々のグループの最終的な目標です。

(3) 強磁場中性子星”マグネター”
 最近の天文学の大きなトピックスの一つが、 強磁場中性子星”マグネター”からの巨大フレアの発見です。 この天体は、通常の中性子星の1000倍の磁場強度を持つ天体で、 理論的には1992年に初めてThompson & Duncanによって その存在が予言されました。2004年には、銀河内のマグネターから 1046ergものエネルギーを持つフレアが観測され、 大きな話題となりました。我々のグループでは、 このマグネターフレアと太陽フレアとのアナロジーに注目し、 太陽グループとの協力の下、マグネターフレアの新しい理論モデルを 構築しました。両者のエネルギースケールには 大きな違いが存在しますが、驚くべきことに、 本質を担う物理機構はほとんど同じであることがわかってきました。 今後は、非線形シミュレーションを駆使して、 マグネターの物理機構をさらに詳しく研究していく予定です (図3:マグネターフレアの概念図)。