前ページ 目次 次ページ

(7) 矮新星WZ Sgeの23年ぶりのスーパーアウトバースト

白色矮星(主星)と晩期型主系列星(伴星)からなる近接連星系で、ロッシュローブ を満たした伴星から表面のガスが流れ込み降着円盤が作られているものを、激変 星といいます。激変星の中でも主として降着円盤起原のはげしい変動現象を起こ すものを矮新星と言います。この矮新星の中で、軌道周期が80分程度と非常に短 く、10年以上の非常に長い間隔で6等以上の大きなアウトバーストを起こす一群 の天体があり、WZ Sge型矮新星と呼ばれています。観測的にも理論的にも、こう した特異な挙動は大きな注目を集めています。

WZ Sge自身は普段は15.3等程度の星ですが、8等に達するアウトバーストが1913, 1946, 1978年に観測されており、33年周期で次回は2011年あたりと予想されてい ました。しかしその予想より10年も早い2001年7月23日に、岐阜県の大島誠人さ んが9.7等に増光していることを発見し、国際変光星ネットワークVSNETに報告さ れました。この報告を受けて世界中で観測がなされましたが、我々もイタリア・ アジアゴ天文台の飯島孝さんと協力し、報告のあった日の夜から分光観測を開始 しました(図1)。

このアウトバーストの極初期に撮られたスペクトルの一部を図2に示します。静 穏期では白色矮星起原の非常に幅の広い吸収線に、降着円盤起原の強いダブルピー クの吸収線が乗っかった形をしているBalmer線が、鋭く強い吸収線となっている のがわかります。これは降着円盤が光学的に厚い状態に変化していることを示し ます。またHeIIやCIII/NIIIの高励起輝線が強く出 ており、さらに図には出ていませんが、CIV 5801/5812の輝線も観測さ れました。特に後者は矮新星では史上初めて観測された輝線で、よりエネルギー の高いX線連星の増光時などに見られる輝線です。これらから増光初期の降着円 盤が他の矮新星では実現されない程の高温になっていることがわかります。 HeIIはダブルピークの輝線ですが、このピークの間隔がアウトバース トが進むとともに広がっていきましたが、これは高温領域が徐々に降着円盤の内 側に集中してきている直接の証拠です。このように矮新星の増光機構に大きな情 報をもたらす、スペクトルの時間変化の解析を進めています。

[


(野上 大作 記)