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(8) 太陽・恒星フレアのHR図: EM-Tダイアグラム

太陽・恒星フレアのエミッションメジャー()は温度() とともに増大することが知 られている(図1)。 (ただし、は電子密度、はフレアサイズ、また、、 は、フレア時のそれぞれ のピーク値をとる。)これはマイクロフレアや、原始星フレアに 対しても成り立っており、6106 < T < 108 K 、1044 < EM < 1056 cm-3という広いパラメータ領域で成り 立つ(統計的な)相関関係である。 一昨年、Shibata and Yokoyama (1999, ApJ 526, L49-L52) は、熱伝導と彩層蒸発を含む磁気リコネクションの 数値シミュレーションと理論に基づいて、 この相関関係を良く説明する次のようなスケーリング則を発見した:


ただし、は磁場強度、はプリフレア電子密度である。 観測からがわかりさえすれば、フレアを分 解して観測できなくても、このスケーリング則より、 磁場強度がわかり、さらにはフレアルー プのサイズもわかる。 これは星を分解して観測できなくても星の光度と表面温度だけ(HR 図上の位置)から星のサイズがわかるというのに似ている。 フレアのEM-T関係は、いわ ば、フレアのHR図とも言えよう。このようなEM-T関係の重要性に鑑 み、このダイアグラムの物理的意味と理論的予言を詳しく調べた結果、 以下のことが判明した(Shibata and Yokoyama 2001, in preparation)。

1)EM-Tダイアグラムには禁止領域(磁気ループによるプラズマの閉じ込め ができない領域)が存在する。

2)フレアはピーク温度がリコネクション加熱熱伝導冷却で 決まる系列であり、放射冷却は効いていない。 密度は圧力平衡(磁気圧ガス圧)または 熱伝導エンタルピーフラックス(彩層蒸発)から決まる。 これに対して、加熱時間が長引い て定常的になると加熱熱伝導放射冷却が成り立ち、 密度は放射冷却熱伝導で決まる。これは、コロナの系列であり、


となる(図1)。 太陽コロナ活動領域のEM-T関係(Yashiro 1999, Thesis) は、 この理論的予測とほぼ合っている。



 
図1: 太陽フレア(右下のハッチ領域)、恒星フレア(右上の記号) および太陽コロナ(左下のハッチ領域)の エミッション・メジャー(EM)ー温度(T)関係。 実線は理論的に予測されたフレアの系列((1)式で一定の線)、 1点鎖線がコロナの系列((2)式、 加熱フラックス一定の線)を表す。

 
 

(柴田 一成 記)


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