第二の地球の直接撮像
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太陽系外惑星の姿
太陽系の外にある太陽と同じ恒星を周回する惑星を太陽系外惑星と呼びます。1995年にペガスス座51番星の周りで太陽系外惑星が発見され、年間100を超えるペースで新たな惑星が報告されています。そして、2012年に惑星の数はついに1000を超えました。その惑星系の多くは、太陽系とは全く異なるものであり、実に多様性富んでいることが分かってきました。
太陽系惑星は、太陽から近い順に、地球のような岩石惑星、木星のようなガスでできた巨大ガス惑星、天王星のような氷でできた氷巨大惑星が並んでおり、8つの惑星はほぼ円軌道を描いています。一方の太陽系外の惑星系には、巨大ガス惑星が恒星のすぐ傍を数日で周回する「灼熱の巨大ガス惑星」や、楕円軌道で周回する「エキセントリックプラネット」など、太陽系惑星からは全く異なるものでした。また、その惑星の重さも地球から木星の10倍以上の重さまで連続的に分布していることが分かりました。
惑星の発見方法:間接法と直接法
惑星の発見方法は、大きく分けて、惑星の影響を捉えて間接的に検出する「間接法」と惑星からの光を捉える「直接法」があります。
間接法には、惑星の重力による恒星のふらつきを視線方向の速度変化として捉える「視線速度法(ドップラー法)」や、恒星の前面を惑星が通過することによる恒星の減光を捉える「食(トランジット)法」があります。これまでに発見された惑星は、前者のドップラー法やトランジット法によるものです。
一方の直接法は、後述のように間接法に比べて技術的に困難であるため、いまだ確実な検出には至っていませんが、2008年に若い恒星(HR8799)の周りで3つの巨大ガス惑星候補が発見されました。この成功に続いて、現在までに10の候補が報告されています。図1は、すばる望遠鏡で発見された日本初の惑星候補天体の画像です。
図1. GJ504の周りで発見された惑星候補。
惑星は重さで定義されます。その上限は木星の重さの13倍で、それより重くなると、中心部で核融合反応が起こり、自らエネルギーを生成する褐色矮星と呼ばれる天体になります。これまでに直接法で発見された天体は、その明るさからモデルを介して惑星の重さを推定するためにその不定性は大きく、モデルによって褐色矮星に分類されるためにいまだ候補のままです。これらの惑星候補が真の惑星であることを確認するには、惑星の重さを計測できる間接法で
惑星候補を追観測する必要があります。しかし、図2に示すように、直接法は10AU以遠を探査できるのに対して、間接法は10AU以内の惑星しか発見できないので、追観測は困難です。そこで、直接法の次のステップは、10AU以内にある重さの分かっている「真」の惑星からの光を捉えることです。
図2. これまでに発見された惑星(候補)の分布。青、赤、橙で塗りつぶされた領域が各検出法の検出範囲。
直接法の科学的意義
そもそも、直接法が必要な理由は何なのでしょうか?なぜ、間接法だけでは不十分なのでしょうか?間接法は、惑星が周囲に与える影響から間接的に惑星の存在を確認するもので、惑星の重さ・大きさ・軌道を調べることができますが、惑星の光を捉えることができません。惑星の光には、惑星大気に含まれる分子の吸収や惑星表層(陸、海、森など)の色の情報が含まれています。
例えば、天王星や海王星が青いのは、大気中に含まれるメタンという分子が赤い光を選択的に吸収するからです。また、地球の光を分析すれば、酸素発生型の光合成生物が長年蓄積した豊富な酸素分子による吸収が見られます。このように惑星大気の組成を調べることによって、惑星の環境だけでなく、生命の残す痕跡(バイオマーカー)まで明らかにすることができます。
直接法による惑星探査は、太陽系外で生命の有無を調べることができるので、天文学や惑星科学という学問の枠を超えて、「地球生命は唯一無二の存在なのか、あるいは普遍的な存在なのか」という古代ギリシャから抱いてきた人類の問いに答えることができるかもしれません。
京大3.8m望遠鏡で狙う惑星
京大3.8m望遠鏡に搭載する惑星探査装置は、恒星の1から5AUまでの巨大ガス惑星が検出できる高いコントラストを実現し、世界で初めて間接法で発見された惑星の追観測を行ないます。しかし、そのためには惑星からの光を直接捉えるには工夫が必要です。惑星の直接観測は、図3に示すように、灯台(恒星)の周りを飛ぶほたる(惑星)に例えられます。遠くにあるほたるの光を捉えるにはどうすればよいでしょうか?まず、暗いほたるの光を捉えるための「高い集光力(感度)」が必要です。また、遠くから見ると、灯台とほたるは重なって見えるので、灯台とほたるを空間的に分解できる「高い解像力」が必要です。最後に、ほたるに比べて眩しすぎる灯台の光だけを打ち消すための「高いコントラスト」が必要です。例えば、太陽系を33光年離れたところから観察すると、その明るさは基準となるベガ(0等星)に比べて1兆倍暗く、太陽と地球の角度距離は1度の4万分の1、太陽と地球の明るさの比は100億倍にもなるため、このような天文学的数字を達成できる観測装置が必要となります。
すばる望遠鏡を始めとした現状の惑星探査装置では、恒星のすぐ傍で高いコントラストを実現することができないため、恒星から10AU以遠での惑星探査に限定されています。そこで、次のステップは、恒星のすぐ傍で高いコントラストを実現し、図1に示すように1から10AUの惑星の光を直接捉えることです。このように内側の惑星に迫ることができれば、ドップラー法などの間接法で発見された、重さの分かっている惑星の追観測ができるので、惑星の力学的性質と化学的性質の両方に迫ることが可能になります。
図3. 遠くから眺めた灯台とほたるの想像図。左は灯台が灯った時、右は灯台の灯りが消えている時。
太陽型星のスーパーフレア
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私たちの太陽では、フレアという爆発現象が毎日のように起こっています。
この爆発現象は太陽表面の黒点付近に蓄えられた磁場のエネルギーが突発的に解放される現象です。フレアが起こると、プラズマ(電離したガス)の塊が太陽から放出され、通信障害や人工衛星の故障、さらには宇宙飛行士の被曝など、地球へも大きな影響が及ぶことがあります。過去数百年の太陽観測の歴史を振り返ると、1859年に発生したキャリントンフレアが過去最大の大きさです。一方、若くて自転の速い星などでは、このキャリントンフレアの10~1万倍にも達するような規模の「スーパーフレア」という現象が頻繁におきていることが知られてきました。では、このようなスーパーフレアが太陽で起こる可能性はあるのでしょうか?そしてもしスーパーフレアが起きた場合、地球にどんな影響が及びうるのでしょうか?2012年、京都大学チームではケプラー宇宙望遠鏡の取得した8万個もの太陽型星の明るさを観測し続けたデータを用いて、太陽とそっくりな星々でスーパーフレア現象を多数(1000例以上)捉えることに成功しました。
ケプラーの宇宙望遠鏡のデータに注意深く見ると、フレアによる増光とは別に、数日から数十日の準周期的な変動が多くの星で見られます(図1の左図)。この明るさ変動は、表面に黒点を持つ星の自転によって引き起こされていると解釈でき、明るさの変動の周期は星の自転周期、変動の振幅は黒点の大きさに対応します。このデータから、スーパーフレアを起こす星の多くは、図1の右図のように太陽よりも大きな黒点を持ち、その磁場のエネルギーでスーパーフレアに必要な巨大なエネルギーを説明可能だと分かりました。
図1. 左図:太陽型星のスーパーフレアの明るさの時間変化(ケプラー衛星の観測データ)。フレアでの突発的な増光の他に、周期15日程度のゆっくりとした明るさの変化が見られる。これから黒点のサイズと自転の周期が推定できる。 右図:太陽型星のスーパーフレアの想像図。巨大な黒点群でスーパーフレア(白色)が起こっている。
この結果から、自転周期の遅い太陽のような星でも、巨大な黒点が生じれば、頻度は低いものの巨大なスーパーフレアが発生するという描像が見えてきました。この事実は、数千年から数万年に1回という時間スケールの中で、我々の太陽でもスーパーフレアが起こる可能性を示唆していると言えます。
しかし、「太陽でスーハーフレアが起こるのか?」という問いに迫るには、まだまだ明らかにすべき点がたくさん残されています。例えば、スーパーフレアに必要な巨大な黒点はどのようにできるのか ? そのような黒点の寿命はどれくらいの長さなのか ? そしてそもそも、スーパーフレアの発生機構は太陽フレアと同じと考えて良いのか? スーパーフレアが発生した時に、どれくらい巨大なプラズマ噴出が発生し、周囲を回る惑星にはどのような影響が及ぶのか?(図2)
図2. 地球を襲う巨大太陽フレア
これらの重要な問いに対して、単に星の明るさだけを測定する、ケプラー宇宙望遠鏡の観測だけでは答えを出すことは出来ません。私たち京都大学のチームでは3.8m望遠鏡を用いた「分光観測」によってこれらの重要問題に挑みたいと考えています。この研究で太陽型星を詳細に探査することで、私たちの太陽が誕生から現在に至るまでどのような磁気活動を経験し地球へ影響を及ぼしてきたのか、今後地球に影響を及ぼすスーパーフレアは生じるのか、といった謎を解明していきたいと考えています。
関連サイト
太陽型星におけるスーパーフレアの発見(2012年)
スーパーフレアを起こす太陽とよく似た恒星の発見(2014年)
すばる望遠鏡で迫るスーパーフレア星の正体 〜巨大な黒点を持つ星だった〜(2015年)