ドームレス太陽望遠鏡
私たちの太陽はその表面で起こる様々な高エネルギー爆発現象について、そのダイナミックに変動する物理構造を詳細に解析できる唯一の天体です。そしてこの太陽での研究が、宇宙の天体活動を理解する基盤となります。
昭和54年に完成したドームレス太陽望遠鏡(DST)は、地上観測で望み得る最高の空間分解能が得られるように設計されており、高分解単色太陽像の撮影などを通して太陽活動現象のメカニズムを解明すると共に、宇宙電磁プラズマ現象の謎に迫ろうとしています。
|
ドームレス太陽望遠鏡の外観
|
水平分光器
|
ドームレス太陽望遠鏡には、世界第一級の高い波長分解能を持つ真空垂直分光器と、全波長域同時高分解撮影が可能な水平分光器があり、太陽大気の基本的微細構造と、いろいろな表面活動現象の物理状態を詳しく分析する研究が行われています。
[垂直分光器の詳細]
[水平分光器の詳細]
|
ドームレス太陽望遠鏡の焦点面には、0.25Åという非常に狭い透過幅を持つHαリオフィルターが設置されており、水素のHα線輪郭に沿って透過波長を変えることにより、太陽表面の三次元構造とプラズマ流の速度分布を調べることが出来ます。また、連続撮影によって、太陽活動現象のダイナミックな変動を目の当たりに見ることができます。
|
垂直分光器焦点面での観測
|
スペックルマスキング法で処理され、分解能が向上する太陽像
|
また、近年導入された高速読み出し可能な撮像カメラを用いれば、1秒の間に撮影された約100枚の画像を用いて、観測終了後、ソフト的に地球大気揺らぎによるボケを除去し、よりクリアな太陽像を得る事も可能となりました。
|
さらに、現在 水平分光器室では大気ゆらぎをリアルタイムに補償して
クリアな太陽像を定常的に観測できるようにすることを目的とした、
常設型補償光学装置の開発も行なっています。
[補償光学装置開発の詳細 ]
|
Hαリオフィルタを用いて撮影された太陽黒点領域 1
|
|
Hαリオフィルタを用いて撮影された太陽黒点領域 2
|
|
Hαリオフィルタを用いて得られた太陽黒点領域の、高分解三次元構造
|
|
噴出型紅炎。秒速約300kmの高速で、太陽表面から約25万km(地球の直径の約20倍)の高さに達しています
|
|
|
いわゆるツーリボンフレア。2本の明るいリボンと、2個の黒点が見えます [ ムービー]
|
|
フレア(上記F)の高分解スペクトル(水素Hα輝線、カルシウムK輝線、ヘリウムD3輝線など:水平分光器)。Hα輝線の広い幅と大きな赤方偏移は、秒速約100kmの高速ガス下降運動の存在を示しています
|
|
近年はひので衛星によるCa II H 線撮像データで見えているものを理解するために、Ca II K, H 線を中心に、スペクトロヘリオグラフを用いた分光観測にも重点を置いています。
|
|
垂直分光器焦点面には偏光測定装置を取り付けることができ、可視光から近赤外線までの様々な吸収線での磁場偏光分光観測が可能です。
|
○
|
彩層の様々な高さで形成される吸収線の分光データから描いたダークフィラメント&黒点領域のマップ(スペクトロヘリオグラム)
|
|
水平分光器を用いて撮影された可視光全波長域太陽スペクトル
|
|
装置開発の場としてのDST
|
ドームレス太陽望遠鏡は、将来の人工衛星や地上大型望遠鏡に搭載することを意識した装置の開発や試験観測の場としても利用されています。
- 例1:ニオブ酸リチウム近赤外狭帯域フィルターの開発
(Suematsu et al., 2022, Proceedings of the SPIE, 12235, 07)
|
将来的にDKISTなどの地上大型望遠鏡への搭載も視野に入れ、He I 1083 nm 及び Fe I 1564.9 nm での撮像偏光観測により光球~彩層磁場活動の観測研究を可能とする タンデム式のニオブ酸リチウム・エタロンフィルタの開発が進められています。 |
|
- 例2:液晶遅延素子内蔵リオフィルタの開発と試験観測
(Hagino et al., 2014, Proceedings of the SPIE, 9151, 5)
|
旧来の光学素子を機械的に回転させる方式のリオフィルタから回転駆動部を除去し、電気的に遅延量を変えることのできる素子を内蔵して、より高速での透過波長シフトが可能で故障発生率も低いフィルタの開発と、それを用いた2色同時撮像観測、偏光撮像観測の試験を進めています。 |
|
- 例3:2次元同時分光観測装置の開発と試験観測
(Suematsu et al., 1999, ASP Conference Series, 183, 303)
|
分光スリットの代わりに、焦点面近傍にマイクロレンズアレイを配置することにより太陽面上の2次元の地点でのスペクトルを同時に撮影することができる装置を導入し、試験的な観測が行なわれてきています。今後、マイクロレンズではなく、2次元イメージを1次元に変換できる特殊な鏡を搭載した新型装置の開発・試験も予定されています。 |
|
- 例4:時間相関カメラの太陽観測への応用
(Ando & Kimachi, 2003, IEEE Trans. Electron Devices, 50, 2059)
|
元々工学的目的で開発された時間相関カメラですが、センサー1画素当たりに3つの電子蓄積層が備えられ、任意のタイミングで光子を各層に振り分けられる機能を生かし、太陽面の磁場偏光成分の測定や、大気揺らぎによる太陽画像の歪の検出とその補償、と言った分野に応用する試みが行なわれてきています。 |
|
|
太陽以外の観測
|
ドームレス太陽望遠鏡は、月・惑星のような太陽系内天体など、太陽以外の比較的明るい天体の観測に使用することも可能です。
|
DSTで観測された木星の多波長画像
|
|
DSTで行なわれた金星の分光観測の様子
|
|
観測公募と年間スケジュール
|
ドームレス太陽望遠鏡共同利用観測公募と過去の年間スケジュール
|
ドームレス太陽望遠鏡性能
|
|
型式 | ドームレス型真空式塔望遠鏡 |
光学形式 | グレゴリー式反射望遠鏡 |
有効口径 | 600mm |
主鏡焦点距離 | 3,150mm |
副鏡との合成焦点距離 | 32.19m |
副鏡との組合せによる明るさ | F/53.7 |
分解能 | 0″18 |
二次太陽像直径 | 299.95 mm = 1922 arcsec (1arcsec = 0.1561 mm) |
日周追尾方式 | コンピュータ制御光電案内装置付 |
望遠鏡鏡筒内真空度 | 2〜5mmHg |
架台 | 高度方位式 |
望遠鏡総重量 | 21トン |
|
ドームレス太陽望遠鏡の断面図
|
| 水平分光器 | 垂直分光器 |
光学形式 | ツェルニー・ターナ型 | ツェルニー・ターナ型真空分光器 |
焦点距離 | 10m | 14m |
分散能 | 0.33Å/mm (2次スペクトル) | 0.14Å/mm (5次スペクトル) |
有効波長域 | 3600〜11000Å | 3600〜11000Å |
総重量 | 3トン | 10トン |
特徴 | 全波長同時撮影可能 | 高分解能 |
|