96/97 report 015

1996/97 Mars Observation Reports -- #015--

1997年六月後半・七月前半(16 June〜15 July)の火星面觀測


『火星通信』同人・南 政 次 (Mn)
♂・・・・・・・・今回は、16 Juneから15 Julyまでの一ヶ月間の觀測紀録を主に扱う。火星の視直徑δは16Juneには8.2秒角であったが、15Julyには6.9秒角に落ちてしまい、更に20June頃を境に、火星の視赤緯が天の赤道を横切って南に落ちて行った爲、西空での觀測が急激に困難になっている。更に六月には二つの颱風が來たり、6Julyから13July迄は本州には梅雨前線が存在したりした爲、一層觀測の頻度も落ちた。
 この間、火星の季節は134°Lsから148°Lsに進捗した。中央緯度φは26°N〜25°Nで依然北極冠の觀測に向いている。位相角ιは40°から最大値41°に上って、再び40°に戻った。 期間中、4Julyにマーズ・パスファインダーが火星に着陸した。直前27JuneにはHSTが黄塵をウァッレス・マリネリスに検出した(後述)。9、10、11JulyのHST像もプレスリリースされた。

♂・・・・・・・・觀測者名簿は英文の部を參照されたい。


 日本から

六月中旬には朝方のマレ・アキダリウムを見ることが出來、以後シュルティス・マイヨルやエリュシウムの領域を經て、期間末ω=120°Wぐらいまで觀察可能であった。

 17June(134°Ls)、福井では薄暮から開始して、ω=005°Wから十度毎にω=044°Wまで觀測出來たが、午後端の明るさの他、午後のノアキスから南端に掛けての靄や朝のクリュセからクサンテ、そしてテムペに鈍いが白い靄がある等。ヒュペルボレウス・ラクスは濃い。北極冠は明確で青白い。Iw氏もω=022°W、031°Wで觀測、シヌス・サバエウスやマレ・アキダリウムの配置などこれで宜しいが、靄は認めない模様。

 23Juneにはシュルティス・マイヨルが午後に捉えられる様になった。Mnはω=314°Wからω=353°W迄、Iw氏はω=324°W、342°Wの觀察。ιは40°であるが、シヌス・メリディアニとマレ・アキダリウムはω=330°W邊りから確認され、ω=343°Wでは明確であった。同時にクリュセの朝霧が目立つようになる。ヘッラスはω=334°Wのスケッチまで明確だが、次のω=343°Wでは惚けている。明らかに北極冠が勝る。リビュアの雲はシュルティス・マイヨルを登るようでアエリアの方に出てくる(ω=334°Wから353°W)。尚、北極冠とマレ・アキダリウムは朝靄状のもので隔てられている。

 24June、福井はシーイング良好で、ω=297°W(薄暮)からω=336°Wまで觀測出來た。ω=297°W:北極冠の最も明るい部分は円く明確で、オリュムピアも見える。午後端の明部から雲がリビュアへ流れている。ノドゥス・アルキュオニウスも明確。ω=307°W:ウトピアは茶系色、シュルティス・マイヨルは“この角度”では寧ろ黒色である。この頃のヘッラスは北極冠と同等の明るさ(Nr氏は同時刻ヘッラスの方が明るい)。ω=317°W:ヘッラスは乳白色だが、北極冠は青白い。ω=326°W:リビュアは更に明るくなる。ヘッラスは鈍くなって來ている。

 26June、Iw氏がω=305°W、314°Wで觀測、前者ではヘッラスが白く浮き上がるように明るく、後者ではシヌス・サバエウスの大半が見えている。北極冠輝く、とある。

 27June、Mk氏ω=273°W、283°W:シュルティス・マイヨル捉えられず。Nr氏ω=278°Wでシュルティス・マイヨル。

 29June、ω=254°Wではシュルティス・マイヨルは朝靄の中だが、ω=264°Wでは確認出來た。Iw氏もω=266°Wで捉えている。Iw氏はω=286°Wでシュルティス・マイヨル本來の濃度と見ている(朝方には朝靄)。午後端が非常に明るいのもこの日の特徴。ヘッラスはIw氏の觀察ではω=276°Wから目立つ。ω=283°Wでは明白(Mn)。Mk氏はω=251°Wのみ。

 30June、ヘッラスはIw氏ω=266°W、Mnω=269°Wから見え始める。シュルティス・マイヨルは出ている。

 1July、Mnω=230°Wで、ケルベルス-ステュックスが太く濃く、エリュシウムが南北の明帯として見えている。エリダニアが稍明るく、シュルティス・マイヨルに先立って朝靄が濃い。ギュンデスは濃く、北極冠邊りは明るい。ω=240°Wでシュルティス・マイヨルの先端が見えてくる。ステュックスは未だ濃い。

 2July、Iw氏ω=247°Wでエリュシウムが白っぽい明るさを持っていると暗示している。シュルティス・マイヨルは未だ靄の中。

 3July、Iw氏ω=227°Wでケルベルス-プレグラが“結構”濃いことを指摘しているが、エリュシウムについては記述がない。

 4July、Iw氏ω=218°Wでエリュシウムが砂漠と同じ明るさと觀測。Mnω=230°W、シ−イング不好(ブハオ)。

 5July、Iw氏がω=208°W、218°Wでエリュシウムは明るくない。

 6July、Mk氏ω=189°W、Mnω=201°W、218°W:ステュックスが見える程度で不好。午後端は明るい。

 以後、Mnは8Julyω=145°W、13Julyω=121°W〜141°W、14Julyω=119°Wと觀測し、アスクラエウス・ラクス邊りを狙ったが何れも不好であった。最後の觀察で、問題の領域が視野に入ったが午後端は明るいものの特別明るいことはなかった。Id氏は13Julyω=143°W、14July(147°Ls)ω=126°Wで觀測、午後端明るく、アスクラエウス・ラクス邊りの暗帯(暗線)を捉えているようだ。北極冠は小さく明るい。


海外の観測から 

 FMl氏のWr47に依るTP写真は何れも小さくて、Notesの表現の様には見えない:17Julyω=243°W (FMl氏はEBCがあると信じている)、24Juneω=175°W (像がdullであることを認める-白雲がないと言うのである)。30Juneω=121°W(これも同じように何も写っていないのだが、Notesを書いているときHST黄雲(後述)のニュースを聞いたらしく、この北極冠すら冩らない像を黄雲の所爲にしたいような書き振りである、LtE)。他に、5Juneω=358°W、9Juneω=331°W、10Juneω=310°W、後者にはヘッラスと北極冠が明るく冩っている。

 ANk氏のスケッチは25Juneω=081°W(Int)、午後端と北極冠明るくマレ・アキダリウムが見える。B+W081でもそう違わない。7Julyω=312°W、シュルティス・マイヨルが自然、ヘッラスは弱い。12Julyω=259°W、アエテリアの暗斑が見える。シュルティス・マイヨルは未だ。ANk氏のスケッチは丁寧である(我々と數え方が違うが、全數93枚である。)

 GTc氏の18Juneはω=144°W、北極冠明確。15Juneはω=173°W、暗い斑点が朝方に見える。

 DTr氏の2JulyのスケッチはHSTのニュースを知ってなされたもの、ω=107°W:赤色光スケッチには夕方に明部が二つある(LtE)。


HST黄塵

 30Juneのジム・ベル氏からの電子メールで、27June(139°Ls)のHSTのWFC2で、ウァッレス・マリネリスに黄雲が見付かったという知らせがあった(LtE、通知はMk氏と筆者のところへ同時に入る)。この撮影はパスファインダー着陸の爲に撮られたもので(豫告はCMO本文p2119參照)、黄雲の場所が丁度着陸地点の直ぐ南に當ったことで問題視されたと思う。どの様に判断されたか分からぬが、着陸は豫定通り行われた。
 黄雲の影像は直ぐインターネットで配信された。明確にウァッレス・マリネリスに沿って、ティトニウス・ラクスからエオスまで渓谷内に黄塵が溜まっており、ヒュドラオテス・カオス邊りに特に濃く、クリュセの方に流れ出ていると言った風景である。像は17Mayの像と比較されている。然し、直ぐに拡散したようで、Mk氏から9July(145°Ls)及び10July、11Julyの像がインターネットにアップされたよし聨絡があり、これに依れば黄雲が惚けて輪郭が無くなっている(どちらもClick-Click參照)。前者のニュースと日本からの觀測が7July邊りから可能という通知はMk氏によって、主な觀測者にCMO E-mail/Fax Notice No 8で配信された。

 六月末のFMl氏の觀測も、2JulyのDTr氏のemailもこの黄雲に関している(LtE)。然し、實際にHST影像を未だ見ていない様子である。また、5July付けでIAUC Circular No.6693に別の(?)黄雲に関するニュースが配信された由、Mk氏からemailで6日に全文の転送を受けた(後日山本進氏からCircular原物のコピーを頂戴した:LtE)。内容はM GASKELL(ネブラスカ大)という人が26June(δ=7.7")にアスクラエウス-ケラウニウス(夕端)に黄雲活動を發見したと報告しているというものである。28、29、30June及び1Julyにも見ているというのだが、可笑しな事に27JuneのHST像のケラウニウス邊りにそれらしい兆候はない。475×20cm反射使用。矢張り、HST影像を見ない内に、黄雲のニュースだけ耳にして慌てて云々したものであろう。ご丁寧に、理査・麥肯氏のコメントが附いていて、1935年と1978年の“同じ季節”にケラウニウス邊りに黄雲發生の報告がある由だが、1978年の139°Lsと言えば、δ=4.2"程であって、 地上からの觀測ではあるまい。


追加報告から

 TCv氏の觀測は16May(118°Ls)ω=204°Wでエリュシウムが明確。プロポンティスTも獨立している。朝夕に靄。

 NFl氏のCCD像は20Apr0:08GMTのもの、マレ・アキダリウムがド真ん中で、大抵の模様は出ているが、像全體はささくれ立っている。

 Is氏の白黒写真は23Decがω=296°W、30Decがω=256°W、11Janがω=138°W、8Febがω=235°W、12Febがω=173°Wである(赤色光で記述)。11Jan(063°Ls)では北極冠が青色領域で明確になる。タルシスも夕方に出ているようである(δ=8.8")。ナイキのマークが出ていれば、EBCだが明白ではない。カラーの方は24Aprがω=162°W、28Mayがω=217°W、30Mayがω=193°W。LtEのように、30May(125°Ls、δ=9.2")の像が見事である(露出2秒と3秒)。プロポンティスTが分離し、ステュクスも濃く見えている。エリュシウムが朝方で靄を被って可成り白く目立つ(前號本文p2105比較参照)。午後端はタルシスで明るい。北極冠も明確である。24Aprの像も興味ある角度だが、氣流が稍不満である。

 TRc氏のスケッチはアドコック氏から送付されて來たもので、31Marω=043°W、マレ・アキダリウムが出ていると思うが、明確ではない。名称などは好く勉強しているようではある。

 RRb氏のスケッチは30Apr(111°Ls)ω=330°W、ヘッラスが北極冠と同じように明るい。

 RSc氏の14Juneのスケッチ(LtE参照)はω=270°W邊りであるが、シュルティス・マイヨルを描いていない。缺が左側にあるなど信じがたい圖柄である(多分逆さだと思うが、全體cloudyとは言えない。以下のSWb氏の觀測参照)。

 TWd氏のスケッチもアドコック氏から送付されたもの。南半球だから逆さ描写は致し方ない。10Aprがω=308°W(シュルティス・マイヨルがメイン、ヘッラスは青色フィルターを使わなくても明るい)、11Aprはω=303°W、13Aprはω=273°W(アエテリアの暗斑明確、ヘッラス不明確)、18Aprは12:23GMT(エリュシウムか明るい斑点)、21Aprはω=197°W、4Mayはω=082°W(マレ・アキダリウムが寝ている)。

 JWr氏の觀測:21Mayω=068°W(弱いEBC、ヒュペルボレウス・ラクス明確)、22Mayω=051°W、26Mayω=009°W(テムペ朝靄)、27Mayω=015°W(ノアキスが端で明るい)、29Mayω=346°W(ヘッラス見ゆ)、31Mayω=327°W(シヌス・メリディアニの北まで朝靄)、1Juneω=316°W(ヘッラスはクリーム色なのに對し、北極冠は青白っぽい、JWr氏のシヌス・サバエウスは孤立している)、3Juneω=301°W、5Juneω=279°W、7Juneω=258°W(シュルティス・マイヨルが靄って弱い、ヘッラスは明るい方)、11Juneω=224°W(ケルベルス-ステュックス濃い)、12Juneω=219°W(δ=8.3")。

 SWb氏のスケッチは11Juneがω=288°W、13Juneがω=270°W邊りである:前者ではヘッラスは明るいが、シュルティス・マイヨルは弱く、特に橙より青で弱いようである。後者はシーイング8/10で、橙色(Wr21)ではシュルティス・マイヨルが弱いながら、朝方に見えている(のに對しWr80Aでは見えない)。ヘッラスは觀測されない。尚、SWb氏は北極冠の觀測が難しい様で、前者で輪郭を描いているが、後者では惚けている。ウトピアの北では北極冠の周りがトンでいて、形状検出は難しい。

次回のレヴューは25Aug號に發表される豫定。(文中LtEは『火星通信』Letter to Editor欄のこと)


Back to Top Page