96/97 report 011

1996/97 Mars Observation Reports -- #014--

1997年五月後半・六月前半(16 May〜15 June)の火星面觀測


『火星通信』同人・南 政 次 (Mn)
 今回は今期十四回目の報告であるが、視直徑δも落ちてきたので、今回から一ヶ月括りで行う。以下は16Mayから15June1997迄の觀測を中心とする。δは16Mayに10.2秒角であったが、一ヶ月後には8.2秒角に落ちた。特別な場合を除き最早詳細は掴めない。然し、中央緯度φは略26゜Nで、依然北極冠の觀測に向いている。期間中季節は119゜Lsから133゜Lsまで進捗した。北半球の真夏を過ぎている。
 火星は日歿と同時に南中しており、觀測時間は午後7時頃から數時間しか適わない。22June 20hGMTには東矩となって、愈々西空に遷る。梅雨に入っているそうだが、雨が降らず可笑しな具合、但し晴れ間は少ない。沖縄はもう梅雨明けの由だが、本土はこれからが本番というところ。

今回『火星通信』に報告を寄せられた觀測者は20名、その名簿、及びコード名は英文の部を参照されたい。


 日本から
 この期間シュルティス・マイヨル中心からその東、シヌス・メリディアニが午後遅く見えるところまで觀察出來た。ただ、天候の所爲で、微妙に聨續觀測が適わない。

1)  北極冠は確固として可成りの大きさで、13June(132゜Ls)等にNj氏と、これではとても140゜Lsで消失したりしないね、と言いあった。その頃はヒュペルボレウス・ラクスが明確で、從って北極冠の輪郭も安定性が高かった。これより前、五月後半にはウトピアの見える範囲では北極冠の輪郭は外周のボケの為に見辛くなっている。 20Mayω=334゜WではId氏が北極冠のリムが静止しないと述べている。一方、Iw氏の北極冠は輪郭を描いているだけで詳しい文字による描冩Observing-Notesがない。點線を利用するか、暗線であることを明記すること。

2)  オリュムピアがId氏に依って明確に捉えられている。オリュムピアは例えば18May ω=292゜WにMnが北極冠の東側に検出しているが、Id氏は31May(126゜Ls) ω=206゜Wで北極冠の南に輝いているオリュムピアを亀裂によって分離している。1June ω=177゜Wでも明瞭。

3)  エリュシウムは様々に觀測されている。Mnは23May(123゜Ls)ω=269゜Wでエリュシウム・モンスを認めている。Id氏は24Mayω=265゜Wでエリュシウムは普通だが、ω=275゜Wでは明るさを示している。画面では相當東端だが、地方時は午後1時を過ぎた邊りである。次のω=284゜Wには東端が明るいだけで記述がない。エリュシウムの午前については、Mk氏が25Mayω=228゜Wでオレンジ色に感じ、北部に白さを感じている。 27Mayω=222゜W等のMnの觀測ではエリュシウムとケブレニアは明帯、アエテリアの暗斑は緑色系である。28Mayω=190゜W、200゜W等ではエリュシウム南部は白く霞んでいる。 ω=229゜Wではエリュシウム・モンスが見えている。Oh氏も同日ω=222゜Wでエリュシウムを稍明るく捉えている。31Mayω=206゜WのId氏の觀測に依ればエリュシウムは朝の霞から抜け出ているが普通の明るさ。この朝霧はMnも偶然同時刻に検出している。Id氏のエリュシウムはω=218゜Wでも目立つ程ではない様だが、同日のHg氏のヴィデオ像ではω=213゜W、ω=223゜W、ω=234゜Wでエリュシウムは際だって明るく見えている。Iw氏はエリュシウムについては一應注意を払っていて、25May、26May、27May等に同じω=241゜W(更には31Mayω=203゜W等も含めて)でケルベルス-ステュックスと共に捉えているのだが、前後の明度の推移の判定がないようである。

4)  27May以降プロポンティスTが見え始めたが、例えば、Id氏の31Mayω=206゜Wが典型である。前述のように同時刻にMnの觀測がある。ケルベルス-ステュックス、アエテリア暗斑も濃い。Iw氏はω=203゜Wで觀測し、同じ様な模様配置を描き出している。 Id氏はω=218゜Wではこれらの模様が全體に淡化したと判断したようである。然し、Mnのω=216゜Wではアエテリアの暗斑がギュンデスよりも弱く、ステュックスよりも弱いという紀録である。實は、Mnは28Mayω=210゜Wにケルベルス-ステュックスやプロポンティスT、Uの領域が非常に濃く、まるでマレ・アキダリウムが現出しているような印象を思ったのであるが、これはω=190゜Wからω=239゜Wまで同様であった。(前述のJWr氏の8Mayの觀測に通ずる。)30Mayω=185゜WのAk氏のR光ではプロポンティスT、Uが濃い。Id氏の1Juneω=177゜WではプロポンティスTが最も濃い由。

5)  夕方や朝方のタルシス近傍については觀察が難しくなっている。特に夕方は殆ど見えない。オリュムプス・モンスの雲は例えば28Mayにはω=200゜Wぐらいから端近くに明るく見えているが、ω=210゜Wには端で非常に明るくなる。ι=38゜であるから、これで午後2時半なのである。ω=239゜Wでは惚けてしまう。午後のタルシスについても、クサンテと共に福井では6June(129゜Ls)ω=158゜W等で捉えられているが、矢張り詳細は難しい。タルシスの午後の觀察は五月末から六月上旬は悪シーイングや悪天候の爲、充分でなかった。アスクラエウス・ラクス-マレオティス・ラクスは午後端でも濃く見える。午前のタルシスは7Juneω=095゜W/105゜Wに大きな白斑として見えているが、視直徑と輝度の點で詳細の觀測は難しい。

5 bis)  これは追加報告に属するのだが、今回拝受した5MayのHg氏の像の中に興味深いものが含まれる。HSTの30Mar(097゜Ls)の特にタルシスの邊りの像 (#191 p2102 参照) に依って、タルシス三山やオリュムプス・モンスの火口の並びが明確になり、それまでの觀測の分析に役に立つのであるが、5May (114゜Ls) ω=072゜W、ω=082゜W、ω=092゜W、ω=101゜WのHg氏の動画には何れも対照によって少なくともアスクラエウス・モンスの火口とアルシアの火口の邊りの暗部が確認できるのである。特に、静止プリントの5Mayω=089゜Wの青色光分解には三山が三つの斑点として明確に出ている。そして、アスクラエウス・モンスとパウォニス・モンスの間から西へ大きな白斑がある。これらによってまた當時のスケッチの模様の同定も可能となる。(已に述べたように、Id氏の27Marω=072゜W、30Marω=069゜Wにはアスクラエウス・モンスやアルシア・モンスが明確に記載されているほか、Mnの27Marω=054゜Wには朝方に暗點があり、to be checked laterとある。然しシーイングはその後向上せず分離できなかった。何れNoteで圖解して詳述する)

6)  Id氏は今回淡い靄に注意を払い、24May(123゜Ls)にはω=275゜Wで、赤道帯を朝型から夕方まで帯状に靄っている様子を記述している。夕方側はιの所爲でより明るくなっているはずだが、これは所謂赤道帯雲EBCと言えるものであろう(ただ「雲」というのには抵抗がある)。シュルティス・マイヨルは未だ靄の下にあるが、その前のω=265゜Wよりも回復している。26Mayω=253゜Wではシュルティス・マイヨルの南部は靄の中で、北部も青緑色で淡い。ω=263゜Wで矢張りEBCを見ているかと言ったところである(Id氏はフィルターを使わないが、こうした場合の使用を薦める)。
 [Id氏は何處か でいみじくもシーイングが悪いと靄や霞が好く感じられるとコメントしている。これは同感である。]
 尚、Ak氏のB光CCDでは18May(120゜Ls)ω=294゜W、ω=304゜Wでシュルティス・マイヨルは急に淡くなっており、兩側に靄が見られる。EBCは依然クリュセからタルシスに掛けても見られるはずだが、Id氏の處もAk氏の處も六月上旬天候が思わしくなかったようで残念である。

7)  ヘッラスはIw氏が17May(119゜Ls)ω=306゜W、316゜W等に白色で輝いているとしているが、18May、19Mayのω=297゜Wでは稍トーンが落ちている。18Mayω=284゜WのMnの觀測でも稍鈍いが、ω=294゜Wでは十分明るい。ω=302゜Wではヘッラス内部が一様で無い。Mk氏は同日ω=297゜Wで北極冠と同じくらいの明るさと記述。24MayのId氏はω=274゜Wで未だ鈍く、ω=284゜Wで回復しているようだ。

8)  ウトピアは以前に比べて淡くなって居るようである。18May ω=292゜Wや23May ω=240゜W等でウトピアは淡い褐色系を示していた。

9)  7Juneでの福井での觀測ではソリス・ラクスやティトニウス・ラクス等は変わらず濃いようであるが、朝方では詳細は掴めない。マレ・アキダリウムが歿する頃にテムペが幾らか明るく見えた上、ω=144゜Wではアルバも内部に見えた。ニロケラスは濃く、此處からアスクラエウス・ラクス(前述)を通ってアルシアの方に向かう暗帯は相変わらず見える。12Juneの段階でクリュセからニリアクス・ラクスに掛けて擾亂はないと思われた。

10)  12June等の觀測によるとアルギュレは明るい部分が細いが少し見えるようである。これとは別に、ω=100゜Wを越えると南端が稍大きく明るくなってくるようである。7Juneにはω=130゜W〜ω=150゜Wでなかなかの明るさであった(Nj、Mn)


海外の観測から 

アメリカ側:

FMl氏は相変わらず赤道帯雲(EBC)を狙 っているようであるが、12Mayω=221゜WのWr47写真以外では判讀が難しい。エリュシウム・モンスは明るくない。Wr21では古典的エリュシウムが明確。17Mayのω=195゜W、21Mayのω=160゜W。22May、24Mayのω=130゜W、27Mayのω=072゜Wは一應、タルシスあたりの雲塊を冩して居るようではある。

ヨーロッパ側:

HGr氏のスケッチは30May(125゜Ls)ω=306゜W、31Mayω=279゜Wだが、どちらもヘッラスを輝度1とし、北極冠と同じように明るいとしている。ノドゥス・アルキュオニウスを認めている。δ=9.2"。

 ANk氏のスケッチは18Mayはω=055゜Wでは朝夕端の他ノアキスに靄。マレ・アキダリ ウムが中央で濃い。28Mayはω=348゜Wの青色光(B+W081)で午後端のヘッラスは輝度2。橙(B+W21)ではシュルティス・マイヨルが濃くシヌス・サバエウスも見える。5Juneω=269゜Wの橙ではシュルティス・マイヨルが朝方で出ている。ヘッラスも明るくなっているようだ。10Juneω=224゜Wの橙ではエリュシウムは出ていない。

ESg氏の18Mayω=095゜WにはIntとWr80aでは赤道帯雲EBCに近いものが見られるが、Wr47では不明。24Mayω=021゜Wではマレ・アキダリウムが南北に分断されて描かれている。ただ、ヒュペルボレウス・ラクスが出ていないのが不思議。靄か? 朝方クサンテに靄。

GTc氏:12Mayω=128゜W、18Mayω=071゜W、25Mayω=011゜W、26Mayω=001゜W、27Mayω=353゜W(イスメニウス・ラクス濃い)、28Mayω=346゜W、30Mayω=324゜W、31Mayω=313゜ W、4Juneω=275゜W。

JWr氏の16May(119゜Ls)のスケッチはω=137゜Wで南端がかなり明るい(パエトンティスとしている)。追加報告分は19Aprω=005゜W(朝方クリュセ明るく、Wr38Aで東端に繋がる、テムペも明るい)、8Mayω=167゜W(プロポンティスTの邊りが濃く大きい)、11May ω=149゜W、15May ω=112゜W(ニロケラスが濃く、アスクラエウス・ラクスが見える)。


追加報告から:

 前回拝受のFITS形式のJDj氏の像はNs氏がHiddenImageで讀み取ったのであるが、データが添付されていないので、前回報告以降のもの三葉は16Aprから發信の6May迄の間に撮られたものとしか判らない。一枚目はシュルティス・マイヨルが夕方に、マレ・アキダリウムが朝方に見える。北極冠の一部が明るい。二枚目は、シュルティス・マイヨルが朝方で、エリュシウムが午後、ケブレニアも明るい。ノドゥス・アルキュオニウスとアエテリアの暗斑は明確。三枚目はエリュシウムが正午頃でカシウスがノドゥス・アルキュオニウスと共に入っている。後者二枚ともエリダニアが靄っている。

 DGh氏の20Apr(108゜Ls)はω=323゜W、ω=354゜Wで、後者ではシュルティス・マイヨルは細くなり、マレ・アキダリウムが濃くヒュペルボレウス・ラクスが明確。21Apr ω=346゜Wではキュドニアに明斑。

  AHt氏は、LtE欄の要約の様に、今期18枚のスケッチを熟したのであるが、前回(#187)報告分を省くと組數は上の様になる。青色光觀測が重なるので數は減る。AHt氏の舊居での最後の觀測になるが、最接近期夜半前は樹木に邪魔されて觀測が出來なかった由である。
 初觀測の1Marはω=114゜Wでは北極冠が明確で大きく円い。ソリス・ラクスが夕方に見える。11、12Marは既報告。
 15Mar(091゜Ls)ω=340゜Wではシュルティス・マイヨルが夕端に細く出ており、朝方にはマレ・アキダリウム。クリュセが朝縁で明るい(Wr47では北極冠と同じ明るさ)。
 19Mar(093゜Ls)ω=287゜Wではヘッラスが明るく、Wr44a、Wr47では北極冠と同じ明るさ。これは早い方の觀測(#189p2065参照)。 シュルティス・マイヨルは濃度7だが、青色光(Wr44a)では2に落ちる(のに對してマレ・テュッレヌムでは4に留まる)。(150×6.5cm屈折でもシュルティス・マイヨルは見えるそうである。)
 21Mar(094゜Ls)ω=289゜WではWr47でもスケッチがある:ヘッラスは明るく、特にWr47で顕著である。Wr47ではシュルティス・マイヨルは見えない (但しマレ・テュッレヌムは濃度5)。24Marはω=258゜Wでヘッラスは特にWr47で濃度0。 こうしたWr47でのシュルティス・マイヨル、マレ・テュッレヌム、ヘッラスの関係はHSTの30Marの像のB光の結果(Mk氏から聨絡送付を受けた)と一致している。
 26Marはω=211゜W。28Marはω=228゜W。30Marω=191゜WにはプロポンティスTが見える。エリュシウムが帯状に明るい(light but not bright)。
 31Marω=190゜W。9Apr(102゜Ls)ω=079゜ W:クサンテが薔薇色。マレ・アキダリウムは濃度6。アスクラエウス・ラクス邊りに大きな暗斑。
 11Aprω=068゜Wでも同様の暗斑。クサンテはWr47で明るい。
 15AprはCelestar-8使用で、ω=014゜W、ω=028゜Wなど:シヌス・メリディアニ濃度6で明確、 マレ・アキダリウムも6、ヒュペルボレウス・ラクスが出ている。序でに20cmSCと30cm反射と比較しているが、後者が稍コントラストが好く、望遠鏡も安定している由。 大體同倍率(320×)。
 23Aprω=316゜W:ヘッラス明白。30Aprω=248゜W。
 スケッチはこれまでだが、觀測ノートは1Mayω=250゜W、14Mayω=037゜Wにもある。缺が目立ち、東端が明るい由。Celestar-8での觀測。後者でδ=10.5秒角で、これが今期最後の觀測になろうとしている。

 NFl氏は6Apr(101゜Ls)ω=135゜W邊りでオリュムプス・モンスを見ている様である。このスケッチには夕方のタルシスとの間に暗帯が見えるし、プロポンティスTが朝方に出ている。8、9Aprにはω=100゜W邊りで青色で赤道帯雲を見ている様である。四月の中旬にはヒュペルボレウス・ラクスがが出ているが北極冠との関係は可笑しい。29Apr(111゜Ls) ω=300゜W邊りでは勿論ヘッラスが濃度0である。5May(114゜Ls)ではω=240゜W邊りで青色でエリュシウム邊りに明帯がある。

  Is氏の3Mar(086゜Ls)ω=345゜Wは#188p2055で既報告のカラーの四十分後のもので、クリュセ朝霧が依然濃厚で、テムペにも延びる。アエリアの方からも靄が來ている。ノアキスも靄っぽい。1Apr(098゜Ls)はω=023゜W/031゜Wでクリュセ-クサンテが白い。デウカリオニス・レギオが午後で靄っている。10Apr(102゜Ls)はω=308゜W/315゜Wでヘッラスは真っ白。夕端が明るい。北極冠は周りがトンでいて、不鮮明。


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