今回『火星通信』に報告を寄せられた觀測者は17名、その名簿、及びコード名は英文の部を参照されたい。
1) ソリス・ラクスは1May(112゜Ls)、5Mayに南中が觀測された(Mn、Nj)が、依然變化なく、茄子型で濃く見えており、タウマシア・フェリックスに沿って濃い暗部がアウロラエ・シヌスに降りる風景も同じである。これと淡いアガトダエモンを通してメラス・ラクスとティトニウス・ラクスが濃く分離して居るのも變わらない。ティトニ ウス・ラクスから西へは暗帯がタウマシアを囲むように走り、その西には陰翳部がある。
2) 夕方のクリュセ-クサンテが明るい時、朝のタルシスからオリュムプス・モンスにかけて分散した雲塊が見られ (タルシスから西に流れる雲だろうと思われるが、円く大きい)、更に朝靄もその西にみられる。Mnの1May ω=094゜W、 ω=104゜Wなど。Ak氏の4May ω=090゜WのG光で輪郭が出ているか。朝靄は位相角の所爲で輪郭は掴 み難い。但し、Id氏は8May ω=062゜Wで朝靄を割とくっきり觀測し、そのタルシス北部に明斑を見ている(アスクラエウス・モンス西の雲か)。クリュセは10May ω=21゜Wで可成り中に入っても明るかった(Mn)。然し、位相角=33゜だから、午前8時頃である(中央子午線で午前10時くらい。)Ak氏の同日 ω=035゜Wでも確認出來る。
3)
タルシスの北には相変らずアスクラエウス・ラクスからマレオティス・ラクスにかけて大きな“赤黒い”暗斑が目立っている。Mk氏は1Mayに ω=104゜WでCMに來ていると判断している。Mnの同日の觀測でも同じい。ここにはニロケラスから暗帯が來て、更にここから南の方メムノニアへ暗帯が上る。但し、この長い暗帯は一様ではなく、ニロケラスは濃いが、ルナエ・ラクスは相変らず淡く(曲線の引き掻き瑕の様なものが二つほど見えるだけ)、ここと例の最も濃い暗斑の間にはやや切れ目が見える。
尚、この暗帯の北、マレ・アキダリウムの西は何度も触れるように大きく全體に赤暗い。Iw氏の4May ω=076゜Wの觀測など。その中にアルバとテムペが明るい。1Mayの場合アルバの明るさは ω=075゜Wから ω=094゜W頃までテムペより劣るが、 ω=124゜W以降強くなった。Ak氏の1May ω=126゜WのR光CCDでは、テムペ、アルバとも明瞭。 ω=140゜WではG光にもアルバは出ている。テムペも大氣的でない。Nj氏も4May ω=064゜W等で、鈍く明るいが地肌のテムペを觀測している。4May ω=090゜WのAk氏のB光ではR光に比して薄暗い。Iw氏は5May ω=058゜Wでテムペを感じない。但し、朝方のテムペには朝靄の塊が見られる。Mnの10May ω=002゜W、 ω=011゜W、Nj氏の11May ω=004゜W等。Ak氏の10May ω=022゜WのB光に出ているかと言ったところ。
4) マレ・アキダリウム自身には變わりがない。北部が濃く、更に濃いヒュペルボレウス・ラクスと分離して居る。Id氏は12May ω=034゜Wなどで、マレ・アキダリウムとヒュペルボレウス・ラクスは両端二本の運河で繋がっていると觀察している。實は、Id氏のこの觀察は初めてではなく、30Mar ω=069゜W等でも明確にしていることで、多分東側がイアクサルテスであろう。夕端に來たとき、この分離帯に#189p2069(英文はp2070)で報告したようにHGr氏やGQr氏の觀測に現われた明斑(101゜Ls)は今回然程明確ではなかった。1May、5Mayなど。タナイスの上には相變らずもう一本暗線が見える。Mn、1May ω=075゜W、5May ω=062゜W、 ω=082゜W等。マレ・アキダリウムの東のデウテロニルスは今回も明確であった。Mn:10May ω=002゜W等、Id氏:14May ω=351゜W等。
5) 位相角の所為で、シヌス・サバエウス→シヌス・メリディアニは夕方でも明確である。Ak氏の10May ω=021゜WのR光はシヌス・サバエウスをくっきり出している。Mk氏は11May ω=355゜Wでシュルティス・マイヨルを夕端で感じ、Id氏15May ω=359゜Wで細く夕端に見ている。但し、最初の ω=347゜Wからリビュアからアエリアに掛けて已に霞んでいてシュルティス・マイヨルは弱くなっている。Mnは12Mayに ω=000゜Wで先端を霞の中に感じている。夕端の明るさも位相角の所爲で幅は廣くない。ノアキスからデウカリオニス・レギオは夕方靄っぽい。Id氏の8May ω=062゜Wの觀測の他、9May ω=028゜W、10May ω=041゜WのMnの觀測、Nj氏の9Mayの ω=052゜Wの觀測など。アルギュレはφの所爲もあろうが、南中時から夕方に(例えば5May ω=072゜W)やや鈍く白いだけで全體目立たない。
6) 期間末明るいヘッラスが夕端に見え始めた。Nr氏11May ω=340゜W、Mk氏11May ω=345゜W、15 May ω=315゜W等。Mk氏は北極冠より白いとしている。Id氏は14May ω=351゜W等で輝く程のヘッラスを觀測。Id氏は同時にリビュアからアエリアが霞で稍明るいとしている。15Mayも上述の様に同じい。
話題は前後するが、4、5MayにはNj氏とMnは代わる代わる濃いヒュペルボレウス・ラクスを觀測している。北極冠は定常状態で、特に濃いヒュペルボレウス・ラクスがこちら側に見えて居る時は非常に輪郭が明確である。Iw氏もMk氏もヒュペルボレウス・ラクスの濃度を見誤っているようで、マレ・アキダリウムとの分離が困難であった。Iw氏は北極冠がスケッチ徑に比して小さいので注意。徑を加減良く落とすように。Id氏は12May ω=034゜Wで北極冠内に翳りを見ていて、これはカスマ・ボレアレに因るとしている。オリュムピアは例えば、1May ω=143゜W(Mn)で北極冠の西南にくっきり見えていた。姿はもっと早くから朝方に舌状に見えて居る。
アメリカ側:
TCv氏は9May(115゜Ls) ω=271゜W、11May ω=247゜Wで觀測している。前者ではカシウスの南端が丁寧に描かれている。シュルティス・マイヨルは船底型。ノドゥス・アルキュオニウスが明確。ただアエテリアの暗斑がない。ケブレニアが明るい。後者は完璧なシーイングに近い様だが、朝霧がシュルティス・マイヨルを隠している。エリュシウムはCM近くでも鈍い様だ。
FMl氏のTP写真:27Aprは ω=043゜WのWr47(カンドル-タルシスが朝方で大きく明るい)、30AprのWr47は ω=356゜W(北極冠が出ている。アエリアも夕端で明るい)。5MayのWr21(橙)は ω=287゜Wでシュルティス・マイヨルは明確だが、ヘッラスが出ていないのが特徴。Wr47はピンボケ氣味。 註:迂闊にも前回報告でFMl氏の14Apr ω=140゜Wの写真を引用するのを忘れている。永遠に忘れる處であったが、Mk氏からMarsWatchのファイルが送られて來、それが出ていたので氣附いた。ただコメントがオリジナルと違っていて、掲載者(FMl氏ではなかろう)の認識が足りないことが窺える。英文の部參照。
DTr氏のスケッチは4May ω=328゜W(リビュアが明るい)、5May ω=286゜W(ヘッラスが明るい)、7May ω=272゜W。Wr25、Wr47、Wr80A使用。5MayにはWr47でシュルティス・マイヨルが見える。
ヨーロッパ側:
ドイツのHGr氏は23Apr ω=279゜W(ヘッラス、北極冠輝度1)、2May ω=212゜W(エリュシウムは目立たない様だ)、12May ω=120゜W(マレオティス・ラクス?)、15May ω=092゜W。
同じくANk氏(ベルリン)の24Apr ω=338゜Wでは、シヌス・サバエウスが中心に出ていて賑やかだが、後は寂しい處で、7May ω=197゜W、13May ω=124゜W/131゜W;後者には夕端のタルシスが出ている。
イタリアのGQr(+ALe)氏の像は2May ω=230゜Wで、IR(820nm)の像のみ:ケルベルス-ステュクスが出ていて、古典的なエリュシウムが明確。プロポンティスT、アエテリア暗斑、ノドゥス・アルキュオニウスが三つの斑点として並んでいる。
フランスのGTc氏は22Apr ω=311゜W、23Apr ω=299゜W、24May ω=294゜W(ヘッラスは北極冠より明るい。尤も小さい北極冠!)、1May ω=240゜W、2May ω=222゜W(エリュシウムが鈍い)。觀測は夕方に限られて來たからヨーロッパは我々より十時間ほど遅く、 ωは我々より150゜W程増える(逆にヨーロッパの値から150゜Wを引くと我々の値になる)。
JDj氏の画像は日時のみ、 ωは面倒なのでここでは記述しないがマレ・アキダリウム中心である。14Apr20:50GMTの像が好い。デウテロニルスが出ており、マレ・アキダリウムの間が明るい。ヒュペルボレウス・ラクスもクッキリ切れ上がっている。13Apr22:00GMTでは夕端が極端に明るい。
Oh氏のスケッチは16Apr ω=255゜W:ウトピアはこんなに古典的ではありません。スケッチ徑は受領報告中で一番大きく、北極冠は一番小さい。
SWb氏のスケッチは選んで送って來られた様で、どれも興味深い:
8Oct、4Novでは未だ北極冠が大きかったということを思い出させてくれる(季節はそれぞれ030゜Ls、033゜Ls)。ただALPOの報告用紙には視直徑も位相角も記述がないことも同時に思い出した。
1 6Feb(079゜Ls) ω=030゜Wではマレ・アキダリウムが北極冠の暗帯から分離、ヒュペルボレウス・ラクスと思われる。分離帯は“沙漠の黄土色”としている。
5Mar(086゜Ls) ω=131゜Wではタルシスは夕端で北極冠と同じ明るさ(輝度0)で、青色光でも明確。アルバも2ぐらいで見える。朝端も1で明るい。マレ・シレヌムが遙か上部にかそけく見えている(濃度7)。
2Aprは ω=220゜W邊りでケルベルス-ステュクスの暗帯とアエテリアの暗斑の二本が出ている。 ω=236゜Wまで觀測。
5Mar(100゜Ls) ω=185゜WではプロポンティスTがCM、エリュシウムは朝霧の中にあり、アエテリアの暗斑が中に見える。
8Apr(101゜Ls) ω=161゜Wではオリュムピアが北極冠の西南にくっきり見える。
17Apr(105゜Ls) ω=095゜Wではテムペが明るく、濃いアスクラエウス・ラクスが出ている(濃度5)。
19Apr ω=059゜W、ヒュペルボレウス・ラクスの分離。
30Apr(111゜Ls) ω=321゜Wでは夕方のヘッラスが輝いている。マレ・セルペンティスが明確で、シヌス・メリディアニも内側、沙漠地方ではデウテロニルスの延長が見える。
尚、SWb氏は5、8、17Apr(105゜Ls)の北極冠の周りはB光ではより明るいとしている。大氣的かどうかは難しいが興味深い。
復歸二十五年(五月15日)の沖縄には梅雨より憂鬱なことがあるんだけど、已に五月初旬から入梅だそうで、信頼性の高いId氏の觀測の少なくなるのは惜しい。四月の終わり頃から、天氣圖で沖縄の様子がおかしいと思っていましたが、それでも好く晴れ間を見つけて觀測されているようです。愈々こちらも梅雨期を迎えますなぁ。
五月12日にマイアミの中心街を龍巻が襲ったそうですが、唐那・派克さんからのお便りによると、彼の天文臺は無事だったそうです。當日ご本人もテネシーのお嬢さんのところへ出掛けていて龍巻を見ていない様で、心配しながら歸宅された由です