26、27、28Apr はOAAの火星“お別れ”合同集中觀測日であったが、生憎諸般觀測は不 如意であった。Mk氏からe-mail/Fax-Noticeで前以て主な觀測者には通知されたが、 沖縄は三ヶ日とも天氣が悪く、Id氏は缺測。福井は26日、絶好のシーイング(ω= 118゚W: 09:30GMTから)であったが、#189の印刷で四十分毎の觀測が適わなかった。 ただ、Nj氏とMnがポイントは押さえることが出來、Ns氏もCCDでプロポンティスTの 南中を狙い、これとオリュムプス・モンスを出すのに成功した。尚、Iw氏がこの機會 に恢復したことは救いで、26Apr にはω=140゚W(10:50GMT)から四十分毎にω= 189゚W(14:10GMT)まで觀測した。27Apr にはMk氏はNr氏のところで協同セッションを ω=119゚W(10:00GMT)〜ω=158゚W(12:40GMT)まで行い、自宅に歸ってω= 194゚W(15:10GMT)を見ている。同日福井は四十分毎觀測をNj氏、Mnで敢行したが視 相・透明度共に前日より冴えなかった。この日Iw氏の處は雨だったようだが、28Apr には回復したようで、同じ時間帯で追っている。觀測は夜半が限度と言うところであ ろうか。
今回の報告者リストは英文の方をご覧頂きたい。
1)オリュムプス・モンス:
この期間ω=150゚W邊りから見え始め、ω=160゚Wで
はよく見えた。但し、白さはない、と言って良い。Iw氏は26Apr ω=150゚Wで薄ぼん
やり認め、Mk氏は26Apr ω=176゚Wで、Hk氏は26Apr ω=179゚W、27Apr ω=172゚W
で確認している。福井では25Apr (109゚Ls、位相角=27゚)にω=149゚Wで認め、
ω=169゚Wでは暗いリングに囲まれて内側の明るいオリュムプス・モンス(ω=
133゚W)が綺麗に見えた。像内ではかなり左側だが、然し、地方時では正午を過ぎた
邊りである [計算は大雑把であるが、次の様に行う:(169-133+(90-27))/15=6.6、6.6
+6=12.6h。後の6は夜明けを6時としている譯]。同日ω=188゚Wでは更にくっきりし
てきたが、26Apr (110゚Ls、位相角=28゚)ω=184゚Wでは更によい像に出逢えた。
Nj氏はω=189゚Wを見ている。先行する夕端の真っ白なアスクラエウス・モンスに
比べて、黄色味を帯びるが、かなり明るい。これで午後1時半ぐらいである。同日、
ω=213゚Wでオリュムプス・モンスは夕端に來たが、輝いていて、これで午後3時半、
筆者の觀察では20Apr のω=219゚Wが最も遅いものだが(その後は円形が惚けてしま
う)、これで午後4時である。
Id氏は21Apr にω=222゚Wまで夕端で見ている。偶然、
Hg氏が同時にヴィデオを撮っていたのだが、矢張り、夕端にオリュムプス・モンスが
輝いている。
また、Nj氏は26Apr にはω=218゚Wまで見ている。
Ak氏も22Apr ω=
218゚WのB光で夕端で輝くオリュムプス・モンスを出した(その後が跳ぶ。尚、Ak氏
のこの時のR光も良く、北極冠の細いダークフリンジが見えている)。
結論は、從って、 オリュムプス・モンスの活動は最盛期と殆ど変わらないと言うことである。實際、# 188 p2046の分析によると、オリュムプス・モンスの午後の活動は地方時2時半頃から であり、所謂“綿毛”の容相は午後4時半であるから、上の様相はこれと抵触してい ないと言えるのである。逆に最早午後4時半のオリュムプス・モンス(正確には冠る 雲)の雄姿には出逢えない。
2)アルバ:
円形のアルバ・パテラ(ω=110゚W)はオリュムプス・モンスとは逆に早
くから好く見える。白雲活動ではなく、地肌が輝いているのであろう。25Apr には福
井で10:10GMTにω=139゚Wで見えたが、時間的にこれが早い方の觀測であろう。
26Apr には薄明の中ω=118゚Wで、27Apr (110゚Ls、位相角=28゚)にはω=121゚W
でくっきり見えていた。地方時では午前10時半くらいである。
Mk氏は29Apr にはもっ
と早くω=113゚Wで、テムペと並んで二つ玉で見ている。
Iw氏には26Apr のω=
140゚W、
Nj氏は27Apr にω=126゚W、Id氏には30Apr のω=130゚Wの觀察がある。
今、アルバ・パテラの表面が水平として、位相角=28゚で反射光をみてみると、110 +(28/2)=124であるから、ω=124゚Wで最も輝くと言うことになる。大體、上の福 井での觀測は合っているので、矢張り地肌での反射というのが適切であろう。尚、ア ルバは西端に近付いても姿は見せているが、決してタルシスのようには白くならない (そういう時期は過ぎた)ことは月末の觀測で明らかである。
3)アルカディアの暗帯: アルバもアルカディアだが、アルカディアの様子を掴み切 ることはなかなか難しい。衝の頃は衝効果で見辛かったが、今回幾らか細かく見えて いる。アザニアは稍明るく、丁度プロポンティスTを巡るようにトンでいる (20Apr ω=189゚W)。今回プロポンティスTとオリュムプス・モンスの間を南北に暗 帯が走るのが見えた。
Nj氏は24Apr ω=168゚W、Mnは24Apr ω=182゚W、26Apr ω=
167゚Wなど。
Iw氏も26Apr にω=179゚W見ているようであるが、オリュムプス・モ
ンスを捉えないので比較が出來ない。
Mk氏も同日ω=145゚Wで見ているようだが、
こちらはプロポンティスTを分離しないのでこれも不確かである。
4)マレオティス・ラクス?: ニロケラスから東へ暗帯が走るが、特に#188p2050の 圖で示しているようにマレオティス・ラクス邊りは大きく肥大濃化して(赤黒い)、これは今回も顕著であった。この暗帯は一方はオリュムプス・モンスとアスクラエウス・モンスの間に入り、パシスの遙か西の蔭の部分まで走り、他方はプロポンティスTの方に弱く走る。注意するのはこの構圖は季節的なもので、トラクトゥス・アルブスの明帯が顕著なときは目立たないが、1982年には同様にこの暗帯は見えていた。
5)エリュシウム:
Id氏は17Apr (105゚Ls)ω=258゚Wでエリュシウム・モンスを白
く明るく捉えている(地方時で午後1時半)。前號参照。19Apr にはω=223゚Wで中央附近に捉えているが、白さはない由。
古典的エリュシウム、ケブレニアと共にAk氏がB光で好く捉えている:19Apr ω=211゚W、22Apr ω=200゚W、ω=215゚W、ω=235゚W等。
Hg氏の21Apr のヴィデオもエリュシウムとケブレニアを興味深く映し出している。特にプリントのω=210゚WのB光にはエリュシウム・モンスとその後に續く領域に二つ玉の雲塊が出ている。Ak氏の像にも出てはいるが、Hg氏のプリントは鮮明である。これは肉眼でも觀測出來る。尚序でに、21Apr のHg氏の聨續觀測はω=193゚W、202゚W、212゚W、222゚W、232゚W、241゚Wと續くのでエリュシウムが追跡可能である。
6)シュルティス・マイヨルの朝:
20Apr は位相角=25゚であったが、シュルティ
ス・マイヨルがω=228゚Wで朝を迎えた(O56)。シュルティス・マイヨルは朝方では
靄の中にある。Id氏には詳しい觀察があって、17Apr ω=258゚Wではシュルティス・
マイヨルの中部が靄っている。Id氏のシュルティス・マイヨルの形が見事である。
20Apr ω=250゚Wではアエリアが朝霧で明るい。
Hg氏の17Apr のω=246゚W、
255゚W等の像はシュルティス・マイヨルが靄の下にあることを示している。序でに、
Hg氏はω=246゚W、ω=255゚W、ω=265゚W、ω=275゚W、ω=285゚W、ω=
295゚W、ω=304゚Wとシュルティス・マイヨルを追っている。
17 Apr 1997 (105゚LS) at ω=258゚
by H ISHADOH (Id)
7)オリュムピア:
この期間オリュムピアは中央から夕方、また朝方にかけて數多く
觀測されている。
Id氏は17Apr (105゚Ls)ω=258゚W、270゚Wに夕方に明瞭に把握、
19Apr にはω=223゚W、241゚Wで北極冠の左上に騎かっている姿を捉え、21Apr ω=
212゚W、222゚Wでは上に騎っている。30Apr ω=130゚Wでは朝方に舌状で出ている。
Nj氏も19Apr にはω=194゚W〜ω=233゚Wまで北極冠の南にあるオリュムピアを分
離している。20Apr もω=194゚W、214゚W等。26Apr ω=172゚Wでは右上に騎って
いる。29Apr ω=115゚Wでは朝方に出ている。
Hk氏の26Apr ω=179゚Wは朝方でオリ
ュムピアを大きく描いていると思う。
Mk氏も29Apr ω=113゚Wでオリュムピアの出現
を見ている。
筆者の觀察も全體似たようなものである。ただ、オリュムピアの両端を
特定するのは難しい。ω=160゚W邊りから北極冠のCMに掛かってくるようである。
その前ω=150゚W邊りでは丁度北極冠の右上にあって眺めがよい。20Apr にはω=
238゚Wで北極冠の南に被るようなオリュムピアを見ているが案外複雑な様相である。
その他オリュムピアに先行するイエルネが25Apr ω=139゚W、149゚W、27Apr ω=
131゚W、141゚Wに北極冠の左上に見えていた。
アメリカ側:
TCv氏のスケッチは8Apr (100゚Ls)ω=202゚Wで白い
エリュシウムが南中、16Apr はω=138゚Wで、オリュムピアが見えるようだが小さく
描き過ぎ。オリュムプス・モンスとアルバが中央に出ている。プロポンティスTに混
乱がある。25Apr はω=043゚W、28Apr はω=023゚W、30Apr はω=340゚W:どれも
シーイングは好いらしいのだが、例えばヒュペルボレウス・ラクスの描写などがない
のが不思議。
FMl氏のTPの青色光写真はどれも興味深い:3Apr Wr47によるω=256゚Wでは靄の下の
シュルティス・マイヨルが全然出ない爲に赤道帯雲(EBC)が出ている。エリュシウ
ム・モンスも出ているようである。Wr21(橙)によるω=258゚Wにはシュルティス・
マイヨルが大きく出ていて、エリュシウム・モンスも見える。ω=260゚WのVG-1
(Schott-UV)ではヘッラスが出ているようである。5Apr Wr47がω=230゚W、VG-1が
ω=235゚W、どちらもEBC。エリュシウム・モンスは出ていない。8Apr Wr47はω=
195゚W、夕端に濃い小さい白雲。朝方も大きい靄。Wr21はω=203゚Wでエリュシウ
ムがくっきり。アエテリア暗斑も出ている。11Apr (103゚Ls)ω=146゚W(VG-1)では
オリュムプス・モンスが出ていないが、ω=168゚W(Wr47)ではぼんやり出ている。
午後1時ぐらいだから、このころから矢張り靄るということか。15Apr Wr47ω=
140゚W、カンドル、タルシスが明るい。16Apr ω=113゚W(Wr47)は特に興味深く、
タルシス〜オリュムプス・モンスに掛けて朝方で明るいのである。8Apr のGQr氏のCCD
(既報)にも出ていることであるが、眼視ではMarの月末から見られている(#188p2049
参照)。またEBCを含めてタルシスの朝方の活動は20Feb(081゚Ls)等でHk氏やMnによ
って觀測されたのが記憶にある(#186p2017参照、英文はp2019/20)。
DTr氏のスケッチは22Apr はω=045゚W、23Apr はω=031゚W、26Apr ω=018゚W、
27Apr ω=341゚W、28Apr ω=351゚W、29Apr ω=339゚W。Wr25、Wr47、Wr80A使用。
ヨーロッパ側から:
HGr氏のスケッチは17Apr はω=353゚W、21Apr (107゚Ls)がω=
302゚W、前者は夕方のヘッラスが見え、後者のヘッラスは中央。アエリアに明斑。
ANk氏の17Apr のスケッチはB+W081、041、480での觀測だが、041(橙)ではω=349゚W
でオリュムピアテイルを見ている(從ってリマ・ボレアリス)。
ESgさんのスケッチは18Apr ω=001゚W、朝端のテムペに強い明斑。
最接近時のVCvさんのスケッチは21Marω=030゚W、25Marω=
000゚W。描写タッチは天下一品だが、学術的にはどうも。
イギリスのDGh氏の最接近時のスケッチは19Marはω=288゚W、24Marはω=246゚W、
28Marω=211゚W等で行われている。9Apr ω=070゚W、15Apr ω=028゚W、050゚W
ではヒュペルボレウス・ラクスが好く描かれているが、これは既に彼の10Marω=
008゚Wでスケッチで明確に出ている。
Ok氏の最接近ショットは20Marω=196゚Wで、プロポンティスTやアエテリアの暗斑
がくっきり出ている他、プロポンティスUの凸凹も明確である。北極冠は最大輝點し
か出ていないが、オリュムピアが離れて明白である。優れた像で、画像復元は最大エ
ントロピー法による。Ak氏も師匠に習って下さい。
四十分觀測の効用については毎度書いている通り(近くは例えば#185 p2005):こう すれば経験が洗練蓄積するということだが、逆に言えばこれをやればそうそう間違っ た描写は續けられない、ということでもある。毎日一回覗くだけで、どうして好い描 写が得られようか。Iw氏は1984年以来の十年選手だが、今年は内容が不調である。し かも、不調といえども今回の報告はNo99まで行っているのであるから、餘程四十分觀 測を實行しても簡單には上達しないし、退行する場合もあるということである。火星 觀測者は相當強固な意志を持ち、聨續觀測を實行をしないと簡單には生まれないので ある。
『火星通信』のレポートの讀み方は少なくとも二通りある。一つは自己の觀測の確認 であり、もう一つは自己の觀測の缺落部分の確認である。後者をやらないと次回の自 己の觀測が進まない。自己のωがどこで終わり、どこの確認を怠っているか、克明 に調べなければならない。單に自己の名前だけその有無を調べるだけでは不束である。 これは讀まないのと同じで、『火星通信』のレポートも讀まずに火星觀測をするとい うことは火星課ではあり得ない。
( Mn )