今回『火星通信』に觀測を寄せられた方々については英文の部を参照願いたい。
1) ヘッラス: 天候が回復したのは、9Apr(102゚Ls)頃からだが、この頃からヘッラスは夕方で極めて白色で明るく、継いで中央に見えても實に顕著で誰の眼にも明白であった。10AprにはNr氏がω=281゚ W以降、Nn氏のω=291゚W(ヘッラスと名指しては居ない)、Nk氏のω=294゚W以降、Oh氏のω=300゚W等でコメントがあり、 12AprにはId氏がω=295゚Wから、Hk氏がω=307゚W以降、13AprにはMk氏がω= 289゚W等でヘッラスの眞白な姿に言及している。
この事はスミス-スミス(#134p1251)からも予想された事であり、例えば日本からの筆者の限られた経験でも1980年、1982年、1984年の場合それぞれ093゚Ls、105゚Ls、100゚Lsでヘッラスは顕著になっているから、當然である。ただ、1982年などそれでもまだ鈍いと感じたときもあり、ιなど調べなければ比較は簡單でない。尤も1986年も含めて130゚Lsになると強く輝いている(Iwさん當時如何でしたか? 福井では1980年か1982年にNj氏とこれではカッシニ邊りが南極冠と間違えるのも無理無いなぁ、と言い合ったものである)。
しかし、今回は海外の觀測が考慮出來るので、この現象は17Mar(092゚Ls)ω=309゚WのGTc氏の觀測(#188p2054)、23Mar(094゚Ls)のRSc氏の觀測(p2056及び以下)や24Mar(095゚Ls)のFMl氏(p2053)やDTr氏の觀測(p2054)等で既に出ている事として好い [その他今回報告のNFl氏の18Mar(092゚Ls)ω=310゚Wにはヘッラスが濃度0.0である。他にANk氏]。
從って、090゚Lsが閾値であろう。ここで注意するのは、ヘッラスのCCD觀測は存在するのだが、暗色模様に氣を奪われて、R光だけで済ませて居る等がある。眞正B光の伴わないR光は殆ど意味が無い。
扨て、問題は簡單ではなく、朝方のヘッラスである。先の海外の觀測は多く正午から夕方のヘッラスの觀測であって、朝方について言及は少ないように思う。
ヘッラスの動向に就いては何度も注意するようにスミス-スミス(#134p1251参照)に取り上げられていて、オリュムプス・モンス等と同様の動きを示すが、機構は全然違うであろう。先ず、緯度が半球分違うこと、更にヘッラスはエリュシウム・モンスやオリュムプス・モンス等とは違って盆地である事で、構造的にも違うのである。從って、北半球の山岳には水蒸気による白雲が冠るのに對し、ヘッラス盆地は南極冠の前哨としてCO2の氷の霜が地表を這うか、氣體が地面に極めて近いところを漂っていることによって白色活動が起こって居ると考えられている。この爲に山岳系の場合に見られるように午後になって活性化が起こるのではなく、ヘッラスは一旦VAの状態に入ると一日中白く輝くとされるのである。
そこで、ヘッラスの觀察は夕方、正午の觀測だけでは不十分で、朝方の觀測も伴わなければならない。今回は10Apr(102゚Ls、ι=19゚)頃から朝方が見られた譯だが、必ずしも明るくは無く、白さも目立たなかった。10〜13Aprの福井での觀測では、ω=280゚Wでは充分顕著だが(それでも輝きは鈍い)、ω=270゚Wでは白いが、輝いてはおらず、ω=260゚Wではやや白い程度、ω=250゚Wでは白さが遙かに鈍い(アウソニアは明るいが黄色味)、という觀測結果である。14Aprのω=240゚W邊りでの觀測ではヘッラスは殆ど判然としない。(例外はOh氏の15Aprω=259゚Wで明るいとしている。然し、比較が無いのは拙く、また色彩ニュアンスに就いての言及がない様である。)
いま位相角=20゚を採り、ヘッラスの中心をω=295゚Wとすると、ω=270゚Wの場合、90-20-(295-270)=45゚だから地方時で午前9時ということになる。一方スミス-スミスはヘッラスVAの1967年の例として10:35LMTを挙げていて(cf#134p1253圖3参照)、これだとω=295゚Wに近いから當然今回も著しい姿で觀察されている。スミス-スミスは10:35で充分午前としていて、この時間には充分ヘッラスは明白顕著なのであるから、スミス-スミスの意味で、090゚Ls邊りからAかVAの状態に入ったとして差し支え無いであろう。
[追加:以下のNFl氏の觀測を参照されたい。また、Mk氏からDPk氏の31Mar(098゚Ls) ω=267゚WのB光像の顕著なヘッラスがMarsWatchのウェブサイトに出ているとの連絡を受けた。]
尚、夕方のヘッラスも單純に青白く輝いているわけではない。11Aprω=309゚Wでの筆者の觀測(630倍使用)では幾らか構造が見えた。最も明るい中心部の南はリフト状のもので仕切られるように稍鈍く白く、また北の方も輝きが淺くなっている。
一方、早朝のヘッラスの状態について更に詳しい追求は必要であろう。今回の様に、早朝のヘッラスが鈍いのは、明るいCO2の氷や霜が存在しても早朝はその上を鈍い靄が覆っているからとも考えられる。もっと進んだ状況でこれが晴れるという事も考えられる譯である。
[但し、8May1982のもっと後の123゚Lsになってもω=261゚Wにおける福井の15cm屈折によるNj氏と筆者の協同の濃度測定に依れば、ヘッラスは濃度が1〜2であった(北極冠は0)。この時位相角=27゚であったから、現状と似て居る。]
2)マレ・アキダリウムの朝: マレ・アキダリウムは今季も1995年のHSTの像に酷似しており、從ってこれまでこれに就いては触れていないが、今回も南中時のマレ・アキダリウムは同じ様な姿を見せていた。マレ・アキダリウムは北極冠が小さくなると安定すると思われる。今回然し、衝を過ぎて、もろにマレ・アキダリウムの朝が見えるようになって、マレ・アキダリウムに追随して(多分テムペに)白色の小さいが著しい 雲塊が出現するのが見えた。9Apr(102゚Ls) - 13Apr迄の福井での觀測では(位相角=18゚で)ω=335゚Wぐらいから朝縁に顕著になる。ω=015゚W位まで追跡できた。勿論朝方のクリュセの朝霧は同時に見えており、特にω=350゚W邊り迄は、ニリアクス・ラクスからマレ・アキダリウム南部を侵している。尚、Id氏はこの雲塊を12Aprω=334゚Wで記述している。流石で、觀測日が12Aprだけに限られたのが惜しい。
3)シュルティス・マイヨルの朝夕:
1Aprからシュルティス・マイヨルが夕方に捉えられたが、ω=341゚Wで夕靄がシュルティス・マイヨルを横切って(シュルティス・マイヨルのスロープを登って)アエリアまで喰み出しているのが見られた。9Aprにはω=317゚Wでこれが見られた。單純計算で午後1時くらいで起こっていることになる。
シュルティス・マイヨルはこうしたとき、中間が淡くなるので比較的に北端が濃い。Id氏は夕靄の記述はしないが、12Aprω=295゚Wでシュルティス・マイヨルの先端部が顕著、と觀察している。
詳しく違いを計算したことはないが、シュルティス・マイヨルは夕方を向いた傾斜面にあるので、この模様は夕方より朝方の方が幅がより廣いのである。衝を過ぎて、眞性の朝のシュルティス・マイヨルが見られるようになった譯だが、缺があるわけであるから、一層幅廣い形で縁から現れてくる。シュルティス・マイヨルの現れる前から朝霧が濃くなり、シュルティス・マイヨルが可成り中に入っても霧の中にあり、シュルティス・マイヨルは淺葱色で際立つ。朝方のアエリアも當然靄って明るい。10〜15Aprが我々からの觀測の好機であったが、次回も狙いたい。
4) エリュシウム・モンス: エリュシウム全體は通常明るいが、エリュシウム・モンス(ω=213゚W)は引き續き12Aprω=251゚W(位相角=20゚)や13Aprω=252゚W、262゚W等で輝點として確認された。白く感じられる程でないが、これは全體が地肌色に染まっているからであろう。11Apr(103゚Ls)にはω=280゚Wで可成り夕縁近くに見えたが、12Aprω=288゚W、13Aprω=291゚Wでは夕端にスポット状として輝いており、後は夕靄に紛れた。ω=250゚Wで地方時1時、ω=290゚Wで午後3時半頃で、これから夕方の觀測は難しくなる。
5)北極域:
北極冠は殆ど定常状態にあると思われる。オリュムピアはId氏が12Aprにω=295゚Wからω=334゚Wまでその西部を北極冠の左側に並んで明確に描き出している。然し、西端の位置の特定は難しく、福井での12Aprの觀測ではω=251゚Wから明白に捕捉しているが、西端は曖昧である。オリュムピアの他、11Aprω=309゚Wや12Aprω=317゚W等では、北極冠の朝方の裾野に白色の離れ島を見ているが、これは
13Aprω=252゚W、262゚Wでは朝方のスリットになっている。またこれは1Aprω=010゚Wまで北極冠の舌状に左隣に並んでいた出島だろうと考えられる。
一方、キュドニアには1Aprω=351゚Wには可成り大きな白色の斑点が出ていた。10Aprω=345゚Wでも見えていた。特別明るくはない。
Id氏は12Aprω=295゚W以降數回カスマ・ボレアレを認めている。
TCv氏の1Aprはω=255゚Wで我々の約10時間前。シーイングは安定しているらしいが、ウトピアの形がおかしい。エリュシウムは明るいらしいが、アエテリアが描写されない。
NFlのスケッチで18Mar(092゚Ls)ω=310゚Wにはヘッラスが0.0であることは本文で述べた。20Mar(093゚Ls)でも同様である。但し、23Mar(094゚Ls)ω=295゚Wでは0.1である(北極冠は0.0)。24Marω=265゚Wでは0.0(エリュシウムは1.0)。朝方の26Mar(096゚Ls)ω=240゚Wでは1.5、28Mar(097゚Ls)ω=270゚Wでは0.2である。 30Marω=235゚Wではシュルティス・マイヨルは出ているがヘッラスの痕跡はない。 2Apr以降はオリュムプス・モンス等の夕方を捉えている。4Aprω=160゚Wでオリュムプス・モンス0.8、タルシス0.5の由。4Apr0:05GMT、4Apr23:05GMTのCCDにもオリュムプス・モンスは出ているが、北極冠が出ていないというアンバランスで、この人のCCDはまだまだ不安定。
HSw氏の14Aprはω=123゚W。
DTr氏のスケッチは1Aprω=246゚W、2Aprω=227゚W、8Aprω=147゚W、9Aprω=160゚W、14Aprω=125゚W、15Aprω=106゚W。
RSc氏のヘッラスは夕方のもの:23Marでω=325゚W、27Marでω=315゚W (cf LtE #188 p2056)、消印は8Apr。カラー写真は例えば27Marはフィルターを換えて四枚撮っているが、意味は分からない。
ヨーロッパ側から: JDj氏のCCD像では多分22/23Marのω=289゚Wが中では最も鮮明で、ノドゥス・アルキュオニウス等細部を描写している。エリュシウムが夕端で明るい。ヘッラスはR光らしく然程でない。1Aprはω=165゚W、2Aprはω=155゚Wで、オリュムプス・モンスやアルバが出ている。プロポンティスTの形状は鮮明ではない。エリュシウムも朝方で明るい模様。枚数は上の登録の紀録より多い(40分以内)。
HGr氏のスケッチは7Aprがω=090゚W、8Aprがω=078゚Wで何れも夕方沈歿寸前のマレ・アキダリウムの底に先立って明斑を記述している。以下紹介のGQr氏のCCDにも出ている。
GQr氏とその仲間のCCD像は八枚からなるが(Mn宛の三月下旬のe-mailで、前回の合成には大変時間を食ったと零していたが、今度は八枚に絞って五日程で配信した)、
IRで分類すると8Apr(101゚Ls)ω=101゚Wとω=111゚Wである。茄子型のソリス・ラクスやティトニウス・ラクス等の描写が良い。アスクラエウス・モンスなどタルシスがB(420nm)deやG(530nm)で滅法明るい。アルバ、テムペは存在が分かる程度。これらの構圖は前號#188p2050の圖と對照出來、カラー像では赤黒いバンドや地域も出ている(Internetで参照されたい)。
オリュムピアが朝方に出ている。HGr氏の見た夕端の明斑は、GQr氏の像ではマレ・アキダリウムとヒュペルボレウス・ラクスの隙間にある。
ESgさんのスケッチは、4Aprω=129゚W、6Aprω=101゚W、15Aprω=021゚Wである。6Apr(101゚Ls)の觀測は構圖は奇しくも#188p2050の略圖や上のGQr氏のCCD像と一致するのだが、面白いのはESgさんは所謂“赤道帯雲”を描いていて、而もこれが彼女の最初の経験とされている。IntやW80Aで強く感じられるようだが、W47でも見ているようである。實際には詳細に富むのだが、ESgさんは青に強いので、こうなるのであろう。逆に言うと、赤道帯雲というのは粗い觀察の結果である。尚、中央の濃い 模様をアスクラエウス・ラクスとしているが、古い地圖ではそうなる。15Aprではマレ・アキダリウムを上下に分割しているが、實は西半分が三角形に濃いのである。
GTc氏のスケッチは、1Aprω=139゚W、6Aprω=091゚W、7Aprω=089゚W、8Aprω=062゚W、9Aprω=064゚W、10Aprω=052゚W、13Aprω=045゚Wの觀測である。夕方早い時分である。中央附近が詳細に亘らない他、北極冠が極端に小さい。スケッチ円が大きすぎるのでしょうね。
JWr氏のスケッチは、4Aprω=152゚W、7Aprω=163゚W、12Aprω=027゚W、15Aprω=022゚Wである。12Aprにはウプサラ大の16cm屈折で最良のシーイングに出會ったらしく、大抵の模様は出ている。Observing-Notesも長い。ヒュペルボレウス・ラクスから北極冠内に出ているのはカスマ・ボレアレと思われる。
ANk氏の追加報告は22Marがω=263゚W(B+W041橙でヘッラスが明るい)、29Marω=194゚W。