私が開発中の磁場逆算ソフトの特徴と、その結果の紹介です 開発途上ですが、2002年7月13日現在での状況を述べています。 1) この方法の特徴 この方法は、まず第一に、一般に弱い磁場とみなされる500G以下の磁場 ベクトルに対応する Stokes Profile の理論的・経験的近似式を用いて磁場 ベクトル成分を概算するが、それらの導出結果が主にベクトルの視線方向傾 斜角による再現性のある依存性を持っている事を利用し、それを補正する事 により、弱い磁場に留まらず、1500G程度の強度の磁場ベクトルについ てまで再現が可能な様に発展させた事が開発の一番の特徴である。 2)求まる物理量 現在、 「磁場の絶対値」、「視線方向傾斜角」、「方位角」、「大気運動速度(ド ップラー速度)」(、「視線方向磁場成分」、「視線垂直方向磁場成分」) が算出される。 今後、「ノイズの大きさ」、「速度勾配」、「フィリングファクター」、の 順に、順次導出パラメータを追加して行く予定 3)仮定 ここでは、弱い磁場の Stokes Profile が、磁場のない場合の大気物理量の 微小量の変動によるプロファイルの変化として近似した、例えば "Solar Observations: Techniques and Interpretation" (by Collados Sanchez & Vazquez) に示されている理論式を、大まかな基準として使用可と仮定し、 利用している。(この式では、直線偏光Q,Uプロファイルが、Iの波長に 関する2階微分に比例すると近似しているが、2つのσ成分が独立でない 実際の大気においてはこれは正確には成り立たない。しかし、上野の実験 によれば、この近似は経験的には良い近似である結果が出ているので、ここ ではこの式を近似式として適当な物と仮定している。) また、現段階において、このプログラムは、吸収線形成 大気のフィリングファクターは1、高さ方向速度勾配は無し、と仮定 している。(この仮定は今後外して行く予定。) 4)磁場導出方法 このプログラムでの磁場導出までの過程は以下の通り。 1)I+V、I−Vの2つのプロファイルの、吸収線の絶対的中心波長に 対する非対称性から、「大気運動の速度(ドップラー速度)」を算出。 その後、それに対応する波長シフト量を各 Stokes Profile について 補正。 2)前述弱い磁場近似式を用い、I,Vプロファイルより「視線方向磁場 成分」を導出。I,Q,Uプロファイルより「視線垂直方向磁場成分」 と「方位角」を導出。 3)2の「視線方向磁場成分」と「視線垂直方向磁場成分」より、「傾斜 角」と「磁場の絶対値」を算出 4)3の「磁場の絶対値」と「傾斜角」についての補正関数を用い、補正 された「傾斜角」を導出。 5)3の「磁場の絶対値」と4の「傾斜角」についての補正関数を用い、 補正された「磁場の絶対値」を導出。 6)3の「磁場の絶対値」と4の「傾斜角」、2の「方位角」についての 補正関数を用い、補正された「方位角」を導出。 7)5の「磁場の絶対値」と4の「傾斜角」を用い、補正された「視線方 向磁場成分」と「視線垂直方向磁場成分」を算出。 註)4、5、6における補正関数は、いくつかのモデル磁場ベクトルに対 して数値計算(一本コードによる)によって求めたプロファイルから 得た物理量を解析する事によって求めている。 5)長所、短所 長所: ・現在、ノイズが0、フィリングファクターが1、速度勾配無し、のプロフ ァイルに対し、磁場の絶対値が1500Gより小さいベクトルに関して、 その磁場の大きさを高精度で再現できている。 例えば、オリジナルの磁場の絶対値が0〜100Gの場合、その再現され た磁場の絶対値の誤差は0.859G。100〜800Gの場合、誤差は 3.50G程度にとどまる。その他の物理量に関しても、誤差の割合は同 様に1%程度の低いものになっている。 ・現在、ノイズに対する処置は行なっていないが、視線方向磁場成分はノイ ズに対する依存性は低く、ほぼノイズ0の場合と同じ値を返す。 また、速度場の値もほぼノイズに依存せず再現が可能。 ・現在、フィリングファクターの効果を取り入れていないが、フィリングフ ァクターが小さくなっても、方位角の値は5°程度の誤差の範囲内で再現 が可能。 ・現在、速度勾配の効果を取り入れていないが、磁場の絶対値や傾斜角はこ の影響は小さく、速度勾配が無い場合とほぼ同程度の値を返す。 短所: ・現在、視線垂直方向磁場成分のノイズに対する依存性が大きいため、1% 程度のノイズが存在する場合、導出された磁場の絶対値は、オリジナルの 磁場が300G程度より小さくなると、それより有意に大きな値として返 される。同様に傾斜角、方位角も磁場が弱い場合、大きな誤差を伴って返 される。 ・現在、フィリングファクターの効果を取り入れていないため、フィリング ファクターが小さくなると、磁場の絶対値はそれに応じた小さな値を返す。 また、速度場も磁場の無い周辺大気の速度場に近い値に近付き、傾斜角は 90°に近付く。 ・現在、速度勾配の効果を取り入れていないため、速度勾配の効いたプロフ ァイルからは、速度値はその平均的な一定の値を返す。 一方、方位角は傾向の掴みにくい一見ランダムな誤差を伴った値を返す。 以上