直列型ファブリペローフィルタの2枚のエタロンの厚みの組合せと磁場測定
精度との関係について
At 10:54 2002.11.28 +0900, R Kitai wrote:
> Tandem Etalon の計算結果が出揃いました。
> Finessが14で
> (1) 300μ+420μ
> (2) 250μ+350μ
> (3) 200μ+280μ
> のうちから選択することになると思います。そこで、この3種類について、磁場観測
> の際の測定誤差を以前のように計算して頂くようお願いします。精度が一番いいもの
> を選ぶ資料としたいわけです。よろしくお願いします。
◆まず、エタロンの厚み誤差は考えず、上記の厚みが精確に作成できている
場合に、それぞれが持つプロファイルの磁場に対する感度の良さを比較し
ました。
この場合、定性的に考えて、「プロファイルのメインピークの幅がより狭いもの」、
「メインピークに対して、周辺のサブピークの割合がより低いもの」が磁場に
対する感度が良くなるであろう事は想像できます。が、上記の各組合せの、幅
とサブピークの割合は、CSIRO/Netterfieldさんの計算によれば、以下の通り、
幅 順位 サブピークの割合 順位
(1) 300μ+420μ 0.0101nm 1 9.6% 3
(2) 250μ+350μ 0.0122nm 2 6.7% 2
(3) 200μ+280μ 0.0152nm 3 3.8% 1
と、順位が全く逆になっており、どちらの影響が圧倒的かが分からないと
直感的には、どれが感度が最高か判断できません。
そこで、今回は500±50Gの視線方向磁場を通った光の吸収線を、波長板
4角度(0.0, 45.0, 112.5, 157.5 deg)において各々のフィルターで測定して、
それらから得られるストークスパラメータVのプロファイルを視線方向磁場の
感度を判断する材料として用い、一方、同じく500±50Gの視線垂直磁場
を通った光の吸収線から得られる各Qプロファイルを視線垂直磁場の感度を
判定する材料として用いました。
例1:(2)の組合せの場合の、V/Iプロファイル。(横軸は波長で単位はÅ。
450Gから550Gまで10G刻みのプロファイルを重ねて表示。
グラフ中の縦線は極大値に対応する波長を示す。)
250&350_V_a.gif
例2:与えた磁場の大きさに対し、例1の図中、縦線を引いた波長での各プロ
ファイルの極大値をプロットしたグラフ。(横軸磁場、単位はG。
グラフ中の3本の横線は、500Gに対応した極大値と、それに対し
±0.001の値を示す。)
250&350_V_b.gif
例3:(2)の組合せの場合の、Q/Iプロファイル。(横軸は波長で単位はÅ。
450Gから550Gまで10G刻みのプロファイルを重ねて表示。
グラフ中の縦線は極大値に対応する波長を示す。)
250&350_Q_a.gif
例4:与えた磁場の大きさに対し、例3の図中、縦線を引いた波長での各プロ
ファイルの極大値をプロットしたグラフ。(横軸磁場、単位はG。
グラフ中の3本の横線は、500Gに対応した極大値と、それに対し
±0.001の値を示す。)
250&350_Q_b.gif
具体的には、この内、例2で示したグラフを直線で近似した時の傾きを、視線
方向磁場に対する感度の指標として、また、例4で示したグラフのそれを、視線
垂直磁場に対する感度の指標として、各々用います。
その結果は
視線方向磁場1Gに 0.1%を越えて変化
対するV/Iの変化 が見える磁場の大きさ 順位
(1) 300μ+420μ 0.000154206 6.48484 G 1
(2) 250μ+350μ 0.000130305 7.67430 G 2
(3) 200μ+280μ 0.000100898 9.91101 G 3
視線垂直磁場1Gに 0.1%を越えて変化
対するQ/Iの変化 が見える磁場の大きさ 順位
(1) 300μ+420μ 0.0000654626 15.2759 G 1
(2) 250μ+350μ 0.0000592339 16.8822 G 2
(3) 200μ+280μ 0.0000523406 19.1056 G 3
となり、視線方向磁場、垂直方向磁場共に(1)の組合せがベストである事が
分かります。
この結果は、この程度の仕様のフィルタなら、磁場感度に対する影響力は、
「サブピークの割合」よりも「ピーク幅」の方が大きいと言う事も意味して
いると考えられます。
◆次に、ファブリペローエタロンの厚みに誤差があった場合の影響を考えます。
まず、これによる磁場感度の上記順位が入れ替わるかどうかについてですが、
CSIRO/Netterfieldさんの計算によれば、エタロンに±1nmの誤差が存在
する場合、
誤差無しの時の幅 順位 誤差有りの時の幅 順位
(1) 300μ+420μ 0.0101nm 1 0.0106nm 1
(2) 250μ+350μ 0.0122nm 2 0.0128nm 2
(3) 200μ+280μ 0.0152nm 3 0.0159nm 3
この様に、ピークの幅の順位関係はほとんど変動しませんので、先の結果から
類推して、この場合の各組合せが持つプロファイルの磁場感度の順位は入れ替
わらない、と推定できますので、ここでは改めてこの計算は行ないません。
一方、もし同じく±1nm程度の厚み誤差が存在する事による、透過プロファイル
の変形が有るにも拘わらず、誤差無しのプロファイルから導出される、
磁場vs極大値 の関係から磁場を計算してしまう場合の、磁場の値の誤差を概算
しました。
この計算では、誤差の与え方として、それぞれの組合せで、薄い方のエタロン
に+1nm、厚い方のエタロンに−1nmのずれを加え、それから得られる
透過プロファイルを用いて導出したストークスV,Qプロファイルの、短波長
側の極大値の変化(誤差のない場合に対する)を見ています。
その結果は以下の通りです。
V/I極大値の変分 左記変分の磁場換算値 順位
(1) 300μ+420μ 0.00475094 30.8091G 1
(2) 250μ+350μ 0.00459986 35.3007G 2
(3) 200μ+280μ 0.00392003 38.8514G 3
Q/I極大値の変分 左記変分の磁場換算値 順位
(1) 300μ+420μ 0.000528838 8.07848G 3
(2) 250μ+350μ 0.000314359 5.30707G 2
(3) 200μ+280μ 0.0000775866 1.48234G 1
視線方向磁場の誤差は、やはり(1)の組合せが最も小さく、ベストである事
が分かりました。(同時に、この結果は、フィルタの各場所の透過プロファイル
幅を精確に測って、それぞれの幅に対する磁場へのルックアップテーブルを
用意しておかないと、太陽面上で±30G程度の視線方向磁場の誤差が発生して
しまう事を示しています。)
一方、視線垂直磁場の誤差は、この場合、順位が今までとは全く逆なのですが、
これらの変分は、0.001よりもいずれも小さく、そもそも測光誤差に
埋もれて識別できない程度の大きさでありますので、ここではこの順位は
無視して良いと考えます。
以上全ての結果、磁場測定の見地に立ってこれら3種の組合せを評価する
場合、ほとんどの評価方法で
順位
(1) 300μ+420μ 1
(2) 250μ+350μ 2
(3) 200μ+280μ 3
となる、と言う結論を得ました。
At 17:07 2002.11.30 +0900, KUROKAWA Hiroki wrote:
> この計算では、
> 500Gとかなり大きな磁場を想定していますが、
> これを視線方向10G程度の磁場や視線垂直方向100G程度の
> 磁場を測ろうとする場合にも、300+420の組み合わせが良いと思って良いので
> しょうか?
> 実際の観測では、この程度の磁場を正確に測ることが重要になると思います
> ので念の為に、教えて下さい。
視線方向磁場を20±20Gの範囲で見た場合と、視線垂直磁場を100±20G
の範囲で見た場合の磁場感度を計算した結果をお知らせ致します。
視線方向磁場1Gに 0.1%を越えて変化
対するV/Iの変化 が見える磁場の大きさ 順位
(1) 300μ+420μ 0.000176827 5.65525 G 1
(2) 250μ+350μ 0.000145688 6.86399 G 2
(3) 200μ+280μ 0.000109639 9.12082 G 3
視線垂直磁場1Gに 0.1%を越えて変化
対するQ/Iの変化 が見える磁場の大きさ 順位
(1) 300μ+420μ 0.0000207389 48.2186 G 1
(2) 250μ+350μ 0.0000193644 51.6411 G 2
(3) 200μ+280μ 0.0000179217 55.7983 G 3
この様に、磁場のより弱い所でも、磁場の感度に関しての順位は先の結果と
変わらず、やはりピーク幅の順位が反映されていると考えて良い様です。
(以上)