エリダヌス座に明るい新星が出現 −発見前にオリオン座を撮っていませんか?−
11月25日に山形県の板垣公一さんは、エリダヌス座を撮影した画像から8.1等の
新天体を発見されました。この天体はチリにあるASAS (All Sky Automated Survey
:全天自動捜索)の観測によると、この天体は11月10日には14等以下で写っていない
ものの、板垣さんの発見よりも前の19日には7.3等、22日には8.0等、24日には8.1等
で写っていたことがわかりました(*1)。
花山天文台では11月26日にこの天体の分光観測を行ない、窒素・ヘリウムの輝線
スペクトルが顕著なタイプの新星であることを確認しました。花山天文台で観測
されたスペクトルからは、この新星爆発によってガスが約3000km/秒の速さで膨張
しつつあることがわかりました。同時期に行なわれた国内や海外の各地の観測で
も同様の結果が得られています。(*2,*3)
この新星の位置には多くの星表に15等の青い天体があり、この星が明るくなったも
のと考えられています。この場合、板垣さんの発見した新星は8等の増光を示したこ
とになりますが、これは通常の新星としてはかなり小さいものになります。スペクトル
の特徴などから、ASAS-3の観測が行なわれなかった、11月10日〜19日の間に新星爆発
が起こり、実際にはもっと明るかったのではないかと予想され、各地で撮影されてい
た画像の調査により、この新星11月14日〜15日にかけて肉眼でも見えるほどの明るさ
(5等級)になっていたことが分かりました(*4)。
参考文献
- CBET No. 2050 : POSSIBLE NOVA IN ERIDANUS (2009 Nov 26)
- CBET No. 2053 : NOVA ERIDANI 2009 (2009 Nov 26)
- CBET No. 2055 : NOVA ERIDANI 2009 (2009 Nov 27)
- IAUC No. 9098 : KT ERIDANI = NOVA ERIDANI 2009 (2009 Dec 1)
|
図1:エリダヌス座新星(KT Eri)の画像(11月26日撮影) |
|
図2:エリダヌス座新星(KT Eri)のスペクトル(11月26日撮影) |
|
エリダヌス座新星の明るさの変化のグラフ(VSNET, VSOLJ, IAUC, CBETに報告され
たデータから作成) |
エリダヌス座新星の発見前画像の提供のお願いについて
新星の増光期は変化が急激なために、光度曲線を描くためのデータが不足しま
す。特に発見される時期が極大期から遅れた今回のような場合はさらにデータが
不足しますので、鑑賞用の画像にたまたま写っていた場合も貴重なデータになり
ます。 今回、新星が出現した位置は、リゲルのほぼ西南西6.5度の場所にあり、
被写体と して人気のある星座オリオン座を撮影した画像には、写り込んでいる
可能性が高いと思われます。
そこで、急遽、皆様に広く呼びかけて、発見前の新星が写っている画像をお持
ちの方から画像 を提供していただいて、この新星の光度変化の研究に役立てよ
うということにな りました。
発見前の新星の光度変化の様子は、この他にも欧米の自動観測の画像からも何点か
報告されていますが、地球上の夜の時間帯の関係で、日本やアジアでのデータは、
その間を埋めるためにもひじょうに重要です。皆様のご協力をお願いいたします。
-
■ 募集する画像の撮影期間:
- 2009年11月10日から16日までの7日間
ただし、撮影者がご自分で測定された等級データがある場合は、この期間に限らず、どの撮影時期でもお受けします。
- ■ 募集する期間:
- 2010年1月20日(水)まで。
- ■ 募集する画像の種類:
- 正確な明るさの測定に向いている画像ほどありがたいです。つまり、RAW画像があればとても良いですが、JPEG画像も加工前の元画像であればOKです。もちろん冷却CCDカメラによるFITS画像があればベストです。
- ■ 応募方法:
- まず、nova-eri@otobs.orgというメールアドレスに、「エリダヌス座新星の発見前画像がありますので提供します」という趣旨の電子メールをお送りください。折り返し、画像をアップロードする方法を電子メールでご連絡します。
なお、アップロードは「インターネットエクスプローラ」や「Firefox」などの一般的なWebブラウザから簡単に行うことができます。
- ■ 画像データの取り扱いについて:
- 提供された画像は、新星の研究とその発表のために使われます。画像は新星の明るさを測定するのに使われます。そのデータは、VSOLJ(日本変光星観測者連盟)へ報告されます。
また、それを元 にVSNET(国際変光星ネットワーク)、CBAT(IAU(国際天文学連合)国際電報中央局)、IAUC(国際天文学連合回報)等に報告される場合や、日本天文学会年会等の国内研究会で発表する場合があります。その場合は、撮影者の名前を明記いたします。画像そのものを発表の際に使用する場合は、撮影者に相談の上、撮影者名を明示します。上記以外の目的には使用する予定はありません。
- ■ 注意事項:
- 【注 1】ピントの良くない画像もたいへん役立ちます(ざっと1mよりも短い焦点距離で写したデジタルカメラの画像では、少しピンボケの方が、むしろ測光精度が良くなります)から、鑑賞写真としては失敗作だと思われる画像でも、シャープでないレンズによる画像でも、今回はたいへん貴重なデータになります。
- 【注2】もとの画像を提供してください。鑑賞写真として見栄えを良くする処理をする前の元画像の方が、信頼できる測定ができます。
- 【注3】撮影に使ったレンズの焦点距離は問いません。募集する撮影期間で新星が写っているものであれば、広角/標準/望遠/ズームレンズ・望遠鏡などを問いません。
- ■ 呼びかけ人:
- 山岡均(九州大学)、大西浩次(長野高専)、前原裕之(京都大学 花山天文台)、清田誠一郎(VSOLJ)、大島修(水島工業高校)
関連リンク