2005年の火星面 —ピカリ現象の可能性
村上 昌己
火 |
星面上にピカッと光る閃光現象が見られることは1950年代の日本の観測などから知られていたことですが、その拠ってくる原因についてはいろいろ臆測がありました。しかし、2001年に、これは火星面の何かによる反射現象ではないかという推論の基に、アメリカのドッビンズ氏とシーハン氏が、もしそうであるなら、2001年六月に同じような現象が見られるであろうという予言をし、実際にドン・パーカー氏を頭とするフロリダ・キーズでの遠征隊がこれを確かめましたので、反射現象である可能性が高まっています。この顛末については既に何度か報告していますが、たとえば、次をご覧下さい:
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/coming2001/0110/10j.html
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/01Repo10j/index.htm
この現象の可能性は、2003年にも指摘されたのですが、最も起こりそうな場合(後述)についてはCMOなどでもチームを組んで観察しましたが、成果は得られませんでした。しかし、アメリカで一件、日本でも一件、2003年八月15日の松本達二郎さんのホイヘンス・クレーターあたりでの検出がありました。これらについては反射現象かどうか検討が待たれるところです。
ところで、反射現象というのは、上のサイトでも述べてありますように、特に1958年の福井實信氏の観測に最も示唆されたわけですから、2005年は丁度1958年の接近と同じ接近ということを考慮すると、2005年こそ可能性が高いとも言えます。多分、なかでも2005年十一月に最も可能性があるように思います。
反射現象は、実は反射体の角度によっては、いつでも可能性があると言って過言ではないのですが、一応、反射体が「水」のように水平に置かれていると考え、その場合でも最も起こりそうだという時期を考えるわけです。もし火星面の相手が水平であるなら、最も単純な場合は、その点が太陽の真下にあり、その間に地球が入って上から眺めれば太陽の反射光が目に入るであろうということになります。このとき、その反射体の位置は、地球から見て真下にあり(つまり中央緯度De=:φにあること)、そしてその点の真上に太陽がある(その位置はDsで表されます)という条件(このときはφ=Ds)を満たさねばなりません。(この他に、反射体が水平であれば、(φ+Ds)/2の位置(緯度)に反射体があってもピカリ現象は地球から観測されます。しかし、この條件になると時期に関して可能性の幅が広くなりすぎるのと、もし反射体が井戸の様なところの底にある場合、あるいは塹壕のようなトレンチの奥に横たわっているような場合は、φ=Dsに近い方が可能性は高くなるわけです。)
そこで、2005年のφ=Dsとなる時期ですが、十一月8日の前後が最も好いと考えられます。2005年の最接近日は十月31日で、衝は十一月7日ですから、実に観測條件はよいわけです。このとき視直径δは19.9"の大きさです。一方、φ=15.9°Sとなりますので、緯度としては、問題のソリス・ラクスのあたりでも少し北の方になります。1958年の場合は最接近日が十一月8日、そして福井實信氏の観測が10日でしたから、條件は似ていることがお分かりでしょう。1958年の場合はφ=Dsが13°〜14°でしたから、これも近いわけです。福井さんの観測のときの状況については、次をご覧下さい:
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn1/260FUKUIj.htm
さて、2005年の十一月の場合ですが、次の表のようになります。十一月の初めで火星は17:00
JST (08:00 GMT)頃に東から出て、 00:00 JST (15:00 GMT)ころに南中になります。したがって、ソリス・ラクスのあたりの見える時刻は(090°Wのところを見てください)、21h JST頃となりますから、日本からは好都合なわけです。(この表で、ωはGMTの0hの中央子午線経度です。 CMTは中央子午線通過時のことで、原初点と090°WのCM通過時を示してあります。)
(0h GMT) CM-T (GMT) (0h GMT)
Date φ Ds 000°W 090°W ω δ
------------------------------------------------------------------------------------------------------
Nov 01
14.62°S 17.30°S
02 14.81 17.11
03 15.00 16.92
04 15.18 16.73
05 15.37 16.54
06 15.56 16.36
07 15.74 16.16 14:18 20.27 150.76 19.9 (衝)
*08 15.93 15.97
*09 16.11 15.77
10 16.30 15.58
11 16.48 15.38
12 16.65 15.18
13 16.82 14.98
14 16.58 14.78
15 17.15 14.58
参考のために、これより前の七月上旬の可能性のある時期を同じ体裁で挙げておきます。
(0h GMT) CMT (GMT) (0h GMT)
Date φ Ds 000°W 090°W ω δ
----------------------------------------------------------------------------------------
June
27 23.21°S 21.39°S
28 23.10 21.54
29 22.99 21.70
30 22.87 21.84
July
01 22.74 21.98
02 22.61 22.12
*
03 22.49 22.26
*
04 22.37 22.41
05 22.23 22.54
06 22.09 22.67
07 21.96 22.80
08 21.82 22.93
09 21.68 23.06
φ=Dsとなる七月3日の視直径δは9.5" でかなり小さく、また位相角ιは47°と大きいのでかなり欠けて見えます。なお、φ=22.4°Sはソリス・ラクスの緯度ですが、 七月はじめでは火星の出は 23:50JST (14:50GMT)ころ、 南中は 05:50JST (20:50GMT)ころになりますから、日本からの條件は好くないようです。
しかしながら、2003年の松本達二郎氏の観測に見られるように、必ずしもエドムやソリス・ラクスに限られることではありませんので、この時期は地球上のどこでも監視が重要と言えます。
CMO/OAAでの観測計画はまだ立っていませんが、いずれアナウンスする予定です。もし、ご質問などがありましたら、cmo@mars.dti.ne.jpの村上 昌己までご連絡下さい。
(2004年八月10日)