2. 低空の火星
☆常に高度の低い金星、水星などではこの分散はおなじみですが、他の惑星ではあまり気がつかないものでした。しかし厳密に言えば、少なからず起こっていますし、惑星が低空にあるときも観測しなければならない場合は重大です。例えば、惑星が蠍座や射手座にあるときは日本からはその高度は南中時でも低いものです。
☆例えば2001年、2003年の火星は日本から見る限り30゚〜40゚台が中心となり立派な?低空と言えます。
☆光の分散の問題は私も近年、ソフィア・堺の60cmカセグレインを使用して画像を得るまではあまり重要だとは思っていませんでした。逆に言えば、その差が出るような解像力の画像を撮れなかったという理由で、重要性を感じなかったと言えるでしょう。
☆しかし、60cmで惑星像を撮るようになって光の分散による色ズレが思いのほか高い高度まで目立って分かるようになってきました(これには画像処理による強調も含まれています)。
☆そこで、この分散を補正するには大気とは逆方向に光の分散を起こせばよいわけですが、それには、簡単な方法として眼鏡屋さんが検査に使う小角プリズムを光路中に使うという手が考えられます。2001年の火星は私はこの方法に依りましたので、その経験に基づいて、以下を2003年の火星観測へのガイドとします。
3. ウェッジ・プリズム使用の実際
☆私の経験では、高度60゚でも色分散は起こっており、画像処理後に見えることから、60゚以下の高度でこのプリズムを使用することにしています。当然、2003年の火星はこの範疇に入ります。☆現在使用しているプリズムは、60cmカセグレンの場合、高度60゚〜40゚の時には3゚、40゚以下は5゚のウェッジ・プリズムです(ただし、このプリズムの角度値は眼鏡検査における視線方向のずれ、偏角を表しており、プリズムの頂角ではないそうです)。
☆ Fig 1 は手で持った偏角2°のプリズムの例です。バックが浮き上がって見えます。これは旧タイプのもので、現在のものは金属枠に入っています。
☆具体的には、Fig 2 に示すとおり、プリズム枠の「つまみ」を切り取ってアイピースアダプター内にガムテープなどで貼り付けて使っています。したがって、アイピースの直ぐ前に置かれることになります。私の場合火星撮像の場合は拡大用アイピースにXP24mmを使用しています。
☆プリズムの偏角軸にはガラス上にマークが入っており、これと重力の垂直軸をおおむね合わせて使用しています。ニュートン式だと視野の回転があって少し複雑?になります。
☆なお、当然プリズムを置く場所によって効果が変わりますので、望遠鏡やシステムによって使用する角度値は選ばなくてはなりません。
4. 終わりに
☆私のようにビデオカメラで動画として撮影している場合は、撮影時に補正しておかないと、後からの動画処理はほとんど不可能です(パソコンの処理能力と該当するソフトが無い)。
☆一方、冷却ccdカメラによる場合、現在の画像処理技術があればRGBの三色像の各色フレームを個々に動かして位置合わせをすれば良いように思われますが、各色とも100nm程度の幅がありますから、各色内でも波長によるずれは起こっている筈です。したがって、厳密には三色分解の場合も低空では各色毎に補正が必要です。
☆CCDの青色光感度に赤外域が漏れがある場合、青色光の画像が極端に解像力を落とします。赤外漏れの青色光画像は大気分散方向に長く伸びて写り、位置合わせだけでは回復できないものです。したがって、優れた赤外線カットフィルターを使わなければならないでしょう。
☆最後に眼視観測におけるウェッジ・プリズムの効果について:60cmでの撮影時に確認のため眼視でも見ていた経験に依りますと、高度30゚〜40°ぐらいで利用するとシーイングが一段階上がったように見え、コントラストも良くなります。
☆ただ、僅かの経験ですが、屈折望遠鏡においては残存色収差のせいか、分散については鈍感であるようです。つまり、プリズムを使用しても効果がわかりにくいように思います。
☆以上、2003年の火星に向けて、ともかく試してみることを薦めます。決して後悔しないと思います。