南 政 次
私は80年代にOAAの大阪支部例會に數度顔を出したことがあり、以後支部長の松本達二郎さんから葉書で毎月ご案内を受け恐縮していたが、鷲眞正さんにバトンタッチされてからも引き續き葉書でお知らせを受けている。會費も拂っていないし、今はもう出掛けられないので、遠慮すべきと思い乍ら、長谷川一郎さんが毎回何をお話になるか、テーマだけでも興味がある上、葉書に添えられるイラストが面白いので、甘えてそのまま拝受している。
今年の四月、五月號はイラストが火星であった。最接近だからであろう。五月號は火星の25cmSCTによる軽いスケッチで、好く描けていると思ったが、實は四月號では唖然とした、ということをここでは觸れたい譯である。
要するに、ここに引用された、こんな出鱈目な火星圖が出回っているとは思いよらなかったのである。これは誠文堂新光社の何かの本からの引用とのみ記載されているのだが、一見して一體何年頃のものヤ、そして何の爲ヤ、という類のものである。この様なマレ・シレヌムは絶えて久しいし、ウトピア周邊はまさに化け物である。今回肝心の北半球は描けていない。そしてシュルティス・マイヨルやトト・ネペンテス等は何と云うべきか、幽霊でも見ている様な心境になる代物である。
私は、これを描いた自稱觀測家はこの十數年觀測をしていないと思う。特に北半球を知らない。昔勉強したかも知れないが、「事象の推移」には全く無頓着である。少なくともCMOの讀者ではあり得ない。鷲さんは出版社と書名を挙げただけで、作畫者名は記していない。從って自他共に寡聞を認める私には正直誰か判らない。ここで書名を挙げれば讀者の中には氣附いて騒ぐ人もあろうと思うし、ここは中傷誹謗の場ではないから、觸れないが、もしこれが最近の出版物に據るのなら厚顔無恥もいいところである。
しかし、問題はその事でなく、こうした似非ものが流布することであって、少なくともこの様にOAAの"出版物"に現れている譯である。鷲さんが判断出來ないように、普通の人には判断出來ない。判断出來ないことを當て込んでいるとも言える。ということは詐欺行爲に近く、これから火星觀測を志す初心には極めて迷惑であり、有害この上ない。ホンマにに誠文堂新光社の出版物なら、誠文堂新光社も詐欺紛いに加担したことになるのではあるまいか。
もう一つ釋然としないのは、誰からも斯かる似非火星圖に異議を唱える通信を私はこれまで受けなかった事である。誰か氣附いてもよさそうなものではないか。それとも誰も知らなかったのであろうか。とすれば結構だが、案外初心者でなくとも、こんなものを信じて(或いは半信半疑で)觀測に励んでいる向きもいるのかなぁとも思う。
案外、皆さんがた、シュルティス・マイヨルの形状にも自信がないのかァ。
火星圖はどれも本來歴史的なものである。だから、それぞれ役割を終えるが、時代を映して腑に落ちる。然し、現今のシュルティス・マイヨルをちゃんと冩していないような火星圖がいまホントらしく流布していれば論外である。模様の詳細を云々しているのではない。形が出來ているかどうかである。
クアッラさんが、海老澤圖はあちこちでコピー機でコピーを重ね、今や讀めなくなったといみじくも言っていた。海外ではnがuに化けたりする。文字通り往年の海老澤圖もその時代を終えた、それが事象の推移であるということ。