♂・・・・・・・今回は16Dec1998(071゚Ls)〜15Jan1999(084゚Ls)での觀測を主に扱う。季節としては、北半球の夏至直前である。16Decで視直徑δ=5.7"、15Janでは6.9"角になった。中央緯度は24゚Nから21゚Nに落ちた。位相角ιは35゚から36゚であるが、極大である。
11Jan(082゚Ls)には視赤緯−6゚で西矩となって、夜明けには既に西空低くなる。スピカやアンタレスはこの際嬉しくありませんね。
♂・・・・・・・今回『火星通信』に報告された觀測は次の通りである。
AKUTSU, Tomio 阿久津 富夫 (Ak) 栃木・烏山 Karasuyama, Tochigi, Japan
7 CCD Images (26 November; 26, 29 December 1998; 3, 13 January 1999)
f/?×32cm speculum, Lynxx PC
GRAY, David デイヴィッド・グレイ (DGr) ダラム Durham, UK
2 Drawings (7, 10 January 1999) 415, 660×42cm Dall-Kirkham
HIGA, Yasunobu 比嘉 保信 (Hg) 那覇 Naha, Japan
1 CCD Image (17 December 1998) 25cm spec, Sony DCR-TRV900 →Photoshop
HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk) 箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan
22 Drawings (17,18,20,〜24,26,27,30,31 December 1998; 1,4,7,8,12,14 January 1999)
340, 360×16cm speculum
ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan
6 Drawings (24, 29, 30 December 1998; 2 January 1999) 530×31cm speculum
MELILLO, Frank J フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク NY, USA
3 CCD Images (27 December 1998; 2 January 1999) 20cm SC Starlight Xpress MX-5
MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn) 福井 Fukui, Japan
61 Drawings (17, 18, 21, 25, 〜28 December 1998; 4, 5 January 1999)
400, (600), (630)×20cm refractor*
MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk) 横浜 Yokohama, Japan
25 Drawings (20#, 22#, 27# December 1998 / 1, 3, 4, 5, 8, 13, 15 January 1999)
370×15cm speculum# / 320×20cm Saheki speculum
NAKAJIMA, Takashi 中 島 孝 (Nj) 福井 Fukui, Japan
35 Drawings (17, 18, 21, 25, 27, 28 December 1998; 4, 5 January 1999) 400×20cm refr*
NARITA, Hiroshi 成 田 廣 (Nr) 川崎 Kawasaki, Japan
8 Drawings (5〜8, 10〜13 January 1999) 400×20cm refractor
PARKER, Donald C ドナルド・パーカー (DPk) フロリダ FL, USA
15 CCD Images (27, 31 October; 12, 19 November;
19, 23, 25 December 1998; 1, 9, 15 January 1999)
f/55×41cm speculum equipped with Lynxx PC
WHITBY, Samuel R サミュエル・ホヰットビィ (SWh) ヴァージニア VA, USA
1 Drawing (6 January 1999) 310×15cm speculum
*福井市自然史博物館天文臺 Fukui City Observatory
♂・・・・・・・今回我が方から特に採り上げるとすれば、夕方のクリュセ、テムペの“赤黒”領域、及びウトピアの淡化の三點が重點であろうが、順を追って項目的に並べる。
オリュムプス・モンス:
1997年に夕方のオリュムプス・モンスが“綿毛状”にポッカリ浮かぶように見えたのは076゚Ls邊りであったから(#185、188; #201 p2247のFig8參照)、今回、18Dec(072゚Ls)にω=152゚W、161゚Wなどで狙ってみたが(Mn)、捉えられなかった。シーイングの問題もあるが、視直徑δが當時11.5秒角であったに對し、今回は5.7秒で、面積は1/4しかなかった所爲であろう。これは衝前の觀測に限られるので、機會は多くない。7Jan(080゚Ls)にグレイ(DGr)氏がω=122゚Wでオリュムプス・モンスを明部として捉えている(δ=6.5")。但し、特別明るくないが、北側が縁取られている。ι=36゚だから、午後一時半ぐらい。もう少し後の觀測が必要。15Jan(085゚Ls)のパーカー(DPk)氏のG、B像にオリュムプス・モンスが明確にタルシスから分離して出ている。同じくω=122゚W(ι=36゚)で、惜しい。
エリュシウム:
比嘉保信(Hg)氏の17Dec(071゚Ls)ω=193゚Wのカラー像では、エリュシウムは白っぽく出ている。眼視では目立った觀測はない。6Jan(080゚Ls)にホイットビィ(SWh)氏はω=132゚Wで朝縁の明部として捉えている。9Jan(081゚Ls)にはDPk氏がω=162゚W、172゚Wで白い朝方のこの領域を捉えているが、ω=178゚WのR像ではエリュシウムが縁取られて明確である。この像は良好で、北極冠からオリュムピアが分離している。夕方のエリュシウムについては1Jan(078゚Ls)のDPk氏のω=250゚Wで白く出ている。
プロポンティスT:
この領域は薄暗く濃いが、21Decω=171゚Wでもう少しと言うところであった(δ=5.9")。伊舎堂弘(Id)氏も24Decω=141゚Wで意識している。プロポンティスTの分離は疑いようがなく、既に27Oct(δ=4.5")のDPk氏のR光で明確である。あれだけの分離幅であるから、この違いは、分解能の問題ではなく、肉眼に瞬發力のないことに據ると思われる。15Jan(084゚Ls)ω=122゚WのDPk氏の像では極早朝のプロポンティスTが明確である。その北のケブレニアには大氣的な擾亂がある。
クリュセ-クサンテ:
19Dec(072゚Ls)δ=5.8"ω=011゚WのDPk氏の像にクリュセが朝方で白く明るい。23Dec(074゚Ls)ω=346゚Wは良像で、クリュセは朝方で真っ白。ニリアクス・ラクスも朝霧でマレ・アキダリウムから分離して格好いい。我が國からは、4、5Jan(079゚Ls)に朝方の白く明るいクリュセが捉えられた。日本で注目されたのは、夕方のクリュセ-クサンテで、例えば26Dec(075゚Ls)17:10GMTω=053゚Wから21:50GMTω=121゚Wまで終始クッキリと明白であった。ω=053゚Wでは北極冠と並ぶ明るさであった。27Decも然り。Id氏は29Dec(076゚Ls)ω=088゚W、2jan(078゚Ls)ω=054゚W等でクッキリ描いている。
マレ・アキダリウムからテムペ:
27Dec(076゚Ls)、28Decω=063゚Wなどで、夕端に寝るマレ・アキダリウムから西へ暗部が擴がる様に見えた。これは(別項で取り扱う)赤黒い領域が廣がっていることを示す。日岐敏明(Hk)氏も27Decω=097゚W等で氣附いている。一方、10Jan(082゚Ls)ω=113゚Wで、DGr氏は寧ろこの邊りが靄っぽいと觀測し、特に北極冠の周りに丁度例の暗帯を薄めるように霧が出ていると記述している。勿論、朝方のテムペは白い霧に覆われている。19Dec(072゚Ls)ω=011゚WのDPk氏のCCDにはマレ・アキダリウムは暗色模様として明確だがその西の領域は深く白い。この像は先にも引用したが、秀逸で、ヒュペルボレウス・ラクスやイアクサルテスが現出している。
ソリス・ラクス:
今回初めて福井でも26〜27Decに出會すことが叶った。27Decω=077゚W等でNj氏、28Decω=072゚WでMnなど。Hk氏も27Decω=086゚Wなど。但し、“似非”ソリス・ラクスかどうかなどは色彩が分からないので何とも言えない。本來、R光の領域である。
シュルティス・マイヨル、ヘッラス、ウトピア:
1Jan(078゚Ls)ω=250゚WにDPk氏の良像がある。ノドゥス・アルキュオニウスが出ており、詳細は申し分ない。アエリアが明るい。ヘッラスは然程で無い。日本では二週間遅れるが、13Jan邊りから見られる。Mk氏の15Jan(084゚Ls)ω=280゚W等によると、シュルティス・マイヨルの濃度がウトピアのそれを越えていて、後者が前回よりも淡化していることが判る。ヘッラスはこの角度でも然程でないが、夕方の方に明部。13Janω=290゚Wでは阿久津富夫(Ak)氏がシュルティス・マイヨルとウトピアをR光で撮像。B光は全體が明るいので調整不手際だろう。ヘッラスもR光で確認出來ないことはないが、B光で區別できないのは異常。
赤道帯霧:
25Dec(075゚Ls)ω=310゚W、318゚WのDPk氏のB光には綺麗に赤道帯に沿って霧状の流れが全體に見られる。28Dec(086゚Ls)ω=072゚Wではソリス・ラクスの北に西南からクリュセの方に流れているのが見える(Mn)。4Jan(079゚Ls)にはω=000゚Wで矢張り東西に跨る赤道帯霧。
北極冠:
眼視ではクッキリとしている。スケッチの測定は未だしていないが、順調と思われる。メリッロ氏が不安定なR光の小像で大小を論じるのは早計と思われる。Hg氏の17Dec(971゚Ls)ω=193゚Wの像では北極冠が圓像の中に全く取り込まれている。DPk氏のCCDでは上で9Jan(081゚Ls)ω=178゚Wにオリュムピアが分離していることを暗示したが、既に25Dec(075゚Ls)ω=310゚W等には北極冠内にR光から影響される微妙な濃淡が見られる。
♂・・・・・・・期間外の報告
Ak氏に26Novω=037゚Wの像がある。然し、これもB像が明るく、マレ・アキダリウムが合成で緑色になるのは解せない。
DPk氏の最初の像は27Oct(049゚Ls)でδ=4.5"の時のR光。ω=185 ゚Wで、プロポンティスTが出ているほかエリュシウムの存在が明確。ケブレニアが幅廣い。31Oct(051゚Ls):ω=150゚WでプロポンティスTが濃く、プレグラも明確。合成でエリュシウムは然程明るくない。12Nov(056゚Ls)ω=031゚W:マレ・アキダリウムが南中でIRの使用と未使用が併置。19Nov(059゚Ls)ω=315゚W、シヌス・サバエウスがキッチリ出ている。B光で北極域が大きく明るく、合成では北極雲が大きく喰み出している様に見える。