96/97 Mars Sketch (15)

1996/97 Mars Sketch (15) - from CMO #213


CCD火星像に寄せて
-岡野邦彦氏の20 Mar 1997の像を中心に-

 CCD Astronomy Net (CAN)を主宰される岡野邦彦氏には、1994年のOAA総會の折り福井市自然史博物館でのCCDシンポジウムにおいで頂きご講演を願った。講演内容は#145 p1411のLtEに豫告された。當日は會を盛り上げるため要らぬ質問までし、また、聴衆に眼視觀測者が多かった所爲もあり、岡野氏は氣分を害したりした様であるが、シンポジウムは阿久津富夫氏の講演も含めて大いに成功したと思う(#148)。
 ☆東京にお歸りになってから、回答の形で感想を寄せられた。これは#149p1467のLtEに掲載されているが、大體次の様に要約出來ると思う:CCDは銀塩写真とそっくりに、或いはS/N比や階調を無視すれば、それ以上に仕上げることが出來ること、後者を強調するのはノイズかシグナルかは人間が判断すればよいという考え方のようで、この點について齟齬があったと岡野氏は考えるようである。ゴーストの大氣の揺らぎから來るものは、判断が難しいから、二枚以上のCCDを使うことが必須、もし、合致しないならば、エラーの境界を越えるからそれ以上議論をしてはいけないこと、等が書かれている。CCDと眼視とで、違って見えるという點については多分カラーの合成のことであり、あの會でも木星の色彩について違和感を持たれた方がいたようである。この點は岡野さんの氣に懸かるところであるらしいが、多分火星については未だ誰も回答を持っていないような事柄である。

okano's image
Mars (20 Mar 1997) by K OKANO

 扨て、今回紹介するのは、岡野さんの20Mar1997のCCD火星で、岡野さんは惑星觀測者ではないから最接近日に望遠鏡を向けられ、たまたま不幸にも暗色模様の少ないプロポンティスT方面であったわけだが、この像は阿久津さんから岡野さんの傳言として當時emailされて來たもので、他に岡野さんが1997年火星の影像をお持ちかどうかは詳らかにしない。
 ☆先ずデータだが(既に#190p2081に報告してある)、20 Mar 1997 (093゚Ls) の最接近時で(阿久津富夫氏は16:52GMT ω=196゚Wとしているが、16:50GMTに伊舎堂弘氏の觀測があり、随分圖柄が違う)、φ=23゚N、δ=14.2"。31cm反射(fl=1525cm)使用、Or-5引伸ばし、O56(橙)フィルター装着、0.1秒露出である。カメラはST-5(320×240 pixels、3.2mm×2.4mm、14bit)。處理は最大エントロピー法による。

 手元にあるTP写真やCCD像を見ても、これだけの描冩力は見當たらないから、單發であっても、流石これだけの像をお撮りになるのは見事である。HST像と比較した圖柄を天文雜誌で拝見したように思うが、多分その比較に耐えていたのであろう。


HST's images (10 Mar 1997) left: RED right: BLUE

 ☆ そのことを知った上で、敢えて感想を述べるが、先ず、觀測者の目から見て氣になるのは北極部である。特に、分離したオリュムピア。岡野さんのこの圖はオリュムピアを描冩している。然し同時にHST像(10 Mar 1997 (089゚Ls))と比較して分かるのであるが、プロポンティスUの北の赤茶けた明部が明部として冩っている爲にオリュムピアに妙なテールがあるかの様に見えるのである。これは橙色の特性かも知れないが、大氣的なものかどうかの判断は附かない。當然、菫色光による像がそれを補うから、この像の缺点ではないし、ゴーストではないが、單にディテールだけでは話が済まない、ということである。次に、實は岡野さんの像をモニターで拝見すると、オリュムプス・モンスの南一帯に小さなお皿を澤山並べたような紋様が見られるのである。これは、HST像のこの邊りと比較すると、後者の方が單純で、前者はゴーストであることが判る。多分岡野さんの他の像を見ればこれは判断出來ることであろうが、單發發表の場合は、これを取り除く必要があろう(或いは岡野さんの言葉を借りてもっとソフトにするとか。然し、オリュムプス・モンスの雲も更に弱まるかも知れないが)。


D PARKER's images (7 Mar 1997) left: RED right: BLUE

 序でに、オリュムプス・モンスの南の黒點はHST像にもパーカー(DPk)さんの像にも見附からない。これには相當な専門家でも迷うから説明が要る。DPkさんの畫像(引用のものは7 Mar 1997 (087゚Ls)ω=153゚W)は一見して、岡野さんの像より、円盤内が粗い感じがするし、擴大すると随分汚れている。逆に言うと、DPk氏のゴーストは判り易い。そして最終的にはDPkさんの赤色像の方が締まって見える。岡野さんの方が見掛け上ソフトであるが、曖昧になる。解像力の點で、HSTのケルベルスの暗點の二點分離は、どちらも出てはいないのは致し方がないが、不思議なのは、DPkさんの影像にも岡野さんのそれにも、プロポンティスT前方の暗點の北にもう一つ暗點がある様に見える事である(ケブレニアの延長の明部内)。然し、HST像にはそれらしいものはない。多分半暗影部が凝縮したものであろうし、これはCCD處理に特有かも知れない。

 CCD像が完結するには、どうしても眞性の菫色光像が必要である。特に火星面では缺かせないことはTPの時代から分かっている。然し、DPk氏の青色像を見てもその粗さは瞭然であろう。約20秒の露出が必要なことからも、地上でのCCDの限界に觸れることである(尤も、彼の露出は大袈裟かも知れない。白雲を強調するためとは謂え)。とはいえ、われわれの觀測上必要なものは、DPkさんの粗さ以上のものではないから問題ないが、分解能とかは度外視しなければならないし、色彩の再現などは覺束ない。下手な工作は無用である。

 われわれは必ずしも肉眼でも写真でもゴーストを見抜けない。赤色光CCDは肉眼よりも遙かに強い瞬發力があり、われわれが容易に眼にしないようなものを簡單に取り出してくれる。特に赤色光には特有の能力があるが、このフィルターは減光を起こすから肉眼には必ずしも有り難くない。しかし、それだからこそCCDのゴーストは厄介である。
 ☆簡單に言えば、CCD像は良い意味でも悪い意味でも肉眼を越えているのである。越えて、撮像者にも判断が附かない場合があるとすれば、どういうことになるか。結局肉眼での判断まで降りて來なければならないだろうから、ディテールだけでは済まないことになる。
 ☆その點で、HSTの火星像は未だ期待するほど撮られないが、いずれも貴重なものである。差し當たりは地上のCCD像もHST像の保証を受けることになる。パーカーさんでも、岡野さんでも、果ては西田君でも同じ保証を受けようと試みた譯である。然し、比較だけでは不十分で、當然ゴーストを消せなくてはいけない。
 ☆翻って、HST像やCCD像の存在は眼視觀測に好い基準を與えていると言えるのである。そのことは別問題だから、ここでは敷衍しないが、いい加減な觀測が出てこなくなったという意味で、火星觀測家は現在非常に好い時代に觀測していると言っても過言ではない。


(南 政 次)