☆グラフの實線は視直徑δを日付横軸で綴ったものである。破線はδ2 をグラフ化したもので、δのグラフによって囲まれる面積(積分) とδ2 のそれが一致する様に按配してある。從って、山の處は高くなるが、裾野は低くなる。δ2 を採るのは、これは火星の表面の面積素の消長を表すと考えるからである。火星の表面模様の見え具合は面積の次元で消長を示すであろうから、實際、もし、この曲線に觀測度數が重なれば理想的な觀測の配分となろう。
☆1996/97 年の接近に於いて、日岐敏明(Hk)氏は83枚、伊舎堂弘(Id)氏は154 枚、岩崎徹(Iw)氏は190枚、村上昌己(Mk)氏は226枚、最後に筆者の一人(Mn)は808枚のスケッチをとっていて、數が一致しないので、グラフで比較するには各人の全觀測數を先のδの積分値に一致させてしまうのである。そして、各月の觀測數をばらしてやると、月毎の輕重が同じ比較で出る譯である。棒グラフの面積を全體集めれば、すべての觀測者に共通な値になる。ただ、ここで「月」とは前月の16日からその月の15日迄である。
☆今回もHk氏は出足がよく、中心が前倒しになっている。後半減じていることについてはHk氏の個人的な理由によった。Iw氏の出足は今回は極端に遅く、開始後は順調だが衝後から落ちる。六月にピークが來るのは何故か。こうした傾向はp1043 やp1296 の圖にも表われている。Iw氏は通常後半可成り強いのだが、今回は日歿が遅く、火星が南へ降りて行ったこともあって、調子が出なかった。
Id氏は通常最接近前後に効果的に集中する方法を採るが、今回は分布からは甚だ氣儘に見える。しかし、多くの優れた觀測を殘したのは、この飛び出しではなかったかと思う。これで面積が盗られて、後は引っ込んで了ったが、實はしっかりと視直徑の大きい期間を觀測している。Id氏は、傾向として、衝前に集中する時期を持つようで、これは技術錬磨の意味合いから好い傾向だと思う。今回は夕方の觀測も可成り熟した。Mk氏は前倒型であるが、後半の夕方の觀測は仕事の関係で觀測不可となる爲である。これが通常の形で、衝前の觀測は行き届いていると思う。しかし、今回は低くなった火星を(南側が一時的に開けたという理由で)随分と追い駆けた。Mnは前半順調で、突出期はId氏と同じであるが、五月がおかしい。後半夕方の觀測が難しかったのは、皆さん同様火星の際立った南下であった。
☆グラフに顕れない問題が一つある。それは、火星面が約四十日で一回りする點で、單なる頻度では例えばシュルティス・マイヨル許り狙っているというような例は等しく扱われてしまうのである。少なくとも我々の仲間にはその様な不届きものはいないから問題ないのだが(つまり自己の段階で平均化している)、一般にグラフだけ見せられても、何とも言いようがない。從って、ここで注意するのは、衝前において、火星面を一巡りも二巡りもしておく必要があり、このことを頻度と共に考慮しなければならないと言うことである。衝前のブローは衝前後で必ず効いてくるものである。