歳時記村 (6)



-- November 1998 --

村上昌己


  南極老人星 

Canopus  今年の十一月は暖かい日が続いて過ごしやすかった。下旬になってからは寒い日もあったが、紅葉前線の南下も半月ほど遅れているという。東北・北海道では十一月としては記録的な降雪の便りも聞かれるが、関東平野では晴天傾向が続いて、当地横浜では十一月の観測雨量は0ミリの珍しい記録になりそうだとの報道である。とはいえ朝方は曇の日が多く、今月から火星の観測態勢に入っているが観測数は滞っている。転居した場所は高台で南の見晴らしが良く、冬型になって晴れ上がった夜半におおいぬ座からカノ−プスを探し当てた。すぐに家並みに隠れてしまったが、都会から南極老人星を確認できたのは高校生以来約30年ぶりのことであった。

 福井の南政次氏も、足羽山からの南極老人星の眺めを今月の『火星通信』で話題にされている。狙っていたことと拝察されるが、望遠レンズによる写真をお送りいただいたので右に御紹介する。山の稜線から出現した姿が中央上部に光跡として捉えられている。御存知とは思うが福井の足羽山からは南には遠い山並みがあって低空の眺望は開けない。稜線に出入りするカノープスの姿が面白いとおっしゃる。

Canopus taken from the Fukui Observatory (36゜N)
on 12 November 1998 (GMT) by the use of a Nikon 500mm
(photo: M MINAMI)

 約30年ぶりと言えば話題になった「しし座流星群」を眺めに極大の夜に静岡県函南町へと出掛けた。前線の通過で強風が吹き荒れたが、晴天になって夜半過ぎから数多くの流星を見ることが出来た。前評判の流星雨にはならなかったが、爆発して半月級の明るさになった火球と、残されて形が変わっていく流星痕を数分間眺めることが出来た。これは私自身初体験で改めて感動した。NHKのカメラが捉えた火球と同じものである。別のものだが、同行した友人の撮した流星の写真も紹介する。「しし座」の足元には火星も写っている。


left: Leonids in "Hya" on 17 Nov 1998, 18h50m GMT
right: Trail of Leonids in "Gem" on 17 Nov 1998, 19h15m GMT
by the use of a Nikon 24mm (photo: S MARUYAMA)

 十二月の火星は「おとめ座」で順行して赤緯は月末には南緯5度迄低くなってしまう。下旬には西矩前だが日の出時には南中するようになり観測時間はさらに伸びてくる。冬場のシーイングの悪さもあって好条件で観測出来る日が少ないだろうが、天候のチャンスを逃さないようにしたいと思っている。
 視直径は十二月下旬には六秒角を越えるが、増加はまだゆっくりしている。火星面は上旬にはSyrtis Mj付近の経度から、中旬には.Elysium付近、下旬にはOlympus Mons付近へと進む。Lsは65゚から77゚と変化して北半球の夏至間近になる。火星面中央緯度は23゚N程で次第に南に向いていくが、小さくなっていく北極冠を観測出来る時期は続いている。

 木星が中旬に「みずがめ座」で「東矩」になり夕方の南東の空に輝いている。土星は「うお座」で逆行を続け大晦日に「留」となる。まだ夜半前の観測の好期にある。水星は2日に「内合」となり、以後は明け方の空にうつる。、20日に「西方最大離角」となり、地平高度は15度を越して好条件で見ることが出来る。金星は太陽との離角も10度を越えて、夕方の西南西の低空に見えるようになる。しかし、視直径はまだ大きくなく、位相の変化を追うのも来年になってからのことである。