Coming Mars 2001 (10)

2001年の火星 (10)


火星面がピカるとき

南 政 次



 ★唐那・派克(DPk)氏から、Tom DOBBINSの案で1950年代に火星面に見られた輝點に面白い解釋が與えられた旨の聨絡があり(#241p2949)、有り難いことにS&T讀者のMk氏から直ちに雜誌到着後コピーが送られて來た(T DOBBINS and W SHEEHAN, The Martian-Flares Mystery、S&T、May 2001 (vol.101, No.5) p115)。たいへん面白い記事で、これまでの經緯が好く調べられており、而もタイムリーに今年の六月に輝點が見られる可能性について述べられているのである。私はこうした現象にあまり關心が無いのだが、これはひどく腑に落ちる記事で、皆さんにも一讀を勧める。

Sanenobu FUKUI's observation of a brightening in 1958 by the use of a 25cm reflector.
The spot glittered for about one minute.
 ★これまでエドムとか、ティトニウス・ラクス-ソリス・ラクス邊りが鋭く輝くという話が、例えば佐伯恆夫著に出ている。これらの内、福井實信氏や田邊繁治氏の1958年十一月の觀測(佐伯著p248等)が彼等の考察に合っていて至極自然にみえるのである。
★簡單に言えば、鏡が水平に火星面上に置かれていると假定し、地球の我々から見て何時ピカるかというと簡單な場合として鏡が我々の「下」にあり、太陽が我々の丁度背にあるときであろう。「下」というのは所謂中央點である。鏡が水平であるかどうかは問題だし、鏡に相當するものについての解釋は簡單ではないが、幾何學的なところは納得できよう。

★1958年十一月にどういうことが起こっていたかというと、火星の中央緯度sub-Earth點、と太陽の「下」、火星から見て太陽が天頂に來るsub-Solar點が一致し、その緯度が13゚S〜14゚Sにあったのである。尤も、兩者が一致したとしても、位相が多くの場合ずれている譯だから、太陽光と我々の視線の方向がずれている。從って一致は目安に過ぎないが、チェックするには好い目安なのである。

★1958年のAlmanacを繙くと

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
15 Nov 195813.30゚S13.64゚S324.55゚19.04"
17 Nov 1958 13.67゚S13.26゚S 325.65゚18.93"

となっている。ティトニウス・ラクスとソリス・ラクスの間は10゚S〜20゚Sと言えるから、可能性がある。福井氏の観測は10Nov15:05(GMT)で、中央子午線からは外れているが、「位相」と「鏡」の向きの範囲であろう。

 ★今年の場合、φ=sub-Solar pointは次のように起こる:

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
08 June 2001 1.91゚N 2.36゚N174.51゚20.10"
12 June 20012.69゚N 1.41゚N 176.7420.44"

および

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
09 Dec 200123.58゚S 24.28゚S287.13゚ 7.05"
13 Dec 2001 24.20゚S23.92゚S 289.58゚6.91"

後者は、ι が大きいから可成り不確な上、緯度も高く視直徑も小さい。然し、10June前後の方には2゚N邊りで可能性がある譯である。φ=2゚Nといえば、エドムがその範囲に入る。ι は5゚であるから、少し狂うが、10Juneにエドムのω=350゚Wとなる時刻は9:50GMT邊りである。09Juneなら、概略40分前であるから9:10GMT、11Juneなら10:30GMTであろう。殘念ながらいずれも日本の範囲でない。アメリカであって、フロリダにキャンペーンが出るというのはこのことによる。
★然し、10Juneには日本からは13hGMT(ω=037゚W)頃から觀測可能であるから、エドムは未だ見えている。六月の上旬には觀測開始のころ注意するとよいだろう。「ずれ」を考えるとその後も可能性がある。

 ★エドムの輝きについては佐伯恆夫著では1954年と1956年が挙がっている。1954年は2001年型であるから、似ているところもあり、φ=sub-Solarは

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
18 June 1954 0.29゚S 0.22゚S 180.54゚ 21.09"

と同じくシーズン外れてから

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
11 Dec 1954 22.57゚S22.59゚S 289.12゚7.36"

で起っている。

 佐伯氏の怪光は少しずれて1 July 1954で、φは2゚Nでいいが、sub-Solar pointは3゚Sである。この時のLCMはω=320゚Wであった(ι=6゚)。今年(2001年)は2゚Nの機會は多いのであるが、3゚Sとは出會わない。
 ★C McCLELLANDの24 July 1954はφ=4゚Nでsub-Solarは8゚Sである。

 ★A DOLLFUSの場合は1956年である。12 Oct 1956を採り上げると、φ=21゚S、sub-Solar=24゚Sとなっている。9 Oct邊りで一致するのであるが、φが深くエドムは相當ずれる。DOLLFUSの場合は瞬時的なものでなく、可成り永續的な雲の輝きであったようで、上の場合と違うのかも知れない。

(belowMcCLELLAND observed that Edom was flashed for about one minute on 24 July 1954 at 4:32 GMT.
He used a 33cm refractor at the Pittsburgh University Observatory.


(above)  Small persistent cloud located above Edom in 1956.
Above: 7 Sept and 8 Oct. Below: 12, and 13 October 1956.
The first drawing by J FOCAS, and others by A DOLLFUS
(Courtesy Prof A DOLLFUS)

尚、1956年には

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
04 Aug 195619.77゚S19.65゚S235.81゚20.71"
06 Aug 1956 19.69゚S19.95゚S 237.09゚21.07"

に起こっている。ソリス・ラクス邊りが可能であったかも知れない。

 ★序でに1986年と1969年にはどうであったかをみると、1986年は

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
01 July 19867.46゚S7.35゚S197.31゚22.21"
05 July 1986 6.82゚S8.33゚S 199.68゚22.64"

であった。

また、1969年は

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
27 May 1969 6.40゚N7.09゚N162.86゚18.94"
29 May 1969 6.79゚N6.66゚N 163.93゚19.10"

★更に遡って、1937年と1939年は

sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
17 May 1937 11.65゚N 12.14゚N149゚18.02"
19 May 1937 12.02゚N11.77゚N 149゚18.15"


sub-Earth sub-Solar Lsapp diam
10 July 19399.80゚S 9.28゚S 205゚22.78"
12 July 1939 9.50゚S 9.74゚S 206゚23.06"

★1937/1939、1954、1969、1986年を比べて判るようにエドムの5゚N〜5゚Sに落ちるというのは可成り稀であって、1954年に次いで今年はその稀な例になるわけである。47年か79年周期ということになろう。但し、1954年の「ずれ」を考えると、今年確かに可能性はあるものの、「ずれ」を豫言するのは簡單ではないと思う。
★それにしてもDOBBINS達は可成り前から準備していたのだとは思うがS&T五月號にこの記事を出せたというのは見事なものであると思う。


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