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-- CMO Clicks (7) --国立天文台インターネット事情- -


 今回は趣向を替えて、近年国立天文台が提供してきた、パソコン通信上での天体情報発信の概要を紹介しようと思う。併せて、その情報受信と伴に進化してきた、私のパソコン通信歴も御紹介することになる。後半は先日、南政次氏より御送付いただいた、「パリティ」の渡部潤一氏の記事の要約となる。

   まずはパソコン通信の現状をお話ししてからとしたい。パソコン通信会社の大手のニフティ・サーブが今年4月に創立十周年を迎えたという。今年3月現在で230万人もの会員登録があるとの事だ。他に業者も多数あるので、パソコン通信の利用者は300万人をはるかに越している事は確実である。十年前にはまだ小さな閉じた連絡手段だったので、一部の人間が文字のだけをやり取りする「電子メイル」を利用していたに過ぎなかった。現在の「インターネット」のように画像を簡単に送受信する事は通信環境などを考えても当時は一般的ではなかった。

 インターネットが、一般的に簡単に利用できるようになった今日では、刻一刻と変化する情報が必要な者にとっては、まことに便利なメディアである。本人が情報収集に能動的になればなるほど速く入手できるのが特徴で、情報発信者が登録したと同時に見ることも可能なのである。いったん入手すれば文字中心情報であるから、テレビニュースと違い、新聞のように繰り返し取り出して読むことが出来る。書籍等の購入と違って、情報には費用がかからない物が多いのも有り難い。接続のための費用だけである。発信する方にしてみれば、多数の印刷・郵送の費用がいらないのだから、これも経済的に魅力的である。
 電子メイルにしても同様で、自分の空いている時間にポストを確認しに行くように来信を読むことが出来る。常に速達かFAXを受信しているようなものである。それが電子的な記録になっているところが、後の加工に大変便利なのである。転送・返信・引用なども簡単に出来る。多数の相手に同一の文書をいっぺんに送ることの便利さは使ったものでなければ実感できないであろう。また編集作業に多くの時間を執られるのは文字の打ち込みであり、電子的な記録であればタイプミスはないし、利用しやすく編集者は大いに助かるわけである。
 良いこと尽くめのようなことを書いているが、これからパソコン通信環境を作ろうとしている方々にとっては、費用や操作に関してはどうであろうか。パソコンやワープロに全く触った事が無いという人はもういないと思うが、基本的にはワープロで文書が作れるだけの操作の習熟は必要である。ここまでが通信を始めるまでの第一段階だと思う。次に通信ソフトの操作へと移行しなければならない。パソコンは決して安い物ではないが、通信以外にも利用できるような便利な道具として認識されるのがよいと思う。

 私がパソコンを始めたのは、10年ほど前の1986年のことである。当初はベーシック言語を覚えて、簡単なプログラムを作れるようになった。身近に教えてくれる人間がいたことも幸運だった。始めに作ろうと思ったプログラムは太陽黒点の観測用紙に経緯度点を打たせるものだった。XYプロッタは入手していたので、半年ほどで実用になるものが出来た。今でもその機械類は継続して使っている。
 その機械を使って、ワープロのプログラムを動かしたり、中野主一氏の天文計算プログラムを打ち込んで使ったりしていたが、1991年からは国立天文台で始めていた国際天文電報(IAUC)の転送を受信する為にMS-DOSの動く機種に取り替えた。モデムによる接続と通信ソフトを動かすことが必要になったためである。このときが私のパソコン通信元年である。

 国立天文台の担当の部署は当時「天文情報普及室」といって磯部氏の担当だった。IAUCを無料で多数の購読者に転送していることに問題があったため、紆余曲折の結果1993年中には転送が中止になってしまった。替わりに「天文情報レター」を配信したが、1993年末までで終了した。
 やむを得ずIAUCを電子メイルで直接配信してもらうべく、1993年三月にはニフティ・サーブに加入した。このときは仲間ともホームパーティ(ニフティ・サーブの中に、自分達だけの情報交換の場所が有料で設定できる)を開くことが決まっていたので、以後は本格的にパソコン通信を利用することになる。とはいえまだほとんどが文字だけの利用で、情報量が多く時間のかかる画像の取得などに利用するようになったのは、高速の接続スピードが確保できるようになってからのことである。
 国立天文台ではこの時期に機構の改革があり、「広報普及室」が新設されて、担当が渡部潤一氏になった。1995年から「国立天文台・天文ニュース」の発行が始まって、ニフティサーブの天文フォーラムにも転載された。しかしIAUCの転送が再開されることはなかった。

 IAUCはご存じのように新天体の発見情報を扱っていて興味深く継読していたが、即時性が実感できたのは1994年7月のシュメイカー・レビー第9彗星の木星衝突の時であり、衝突時間の最終的な修正から、可視光域で暗斑が確認されたニュースなどその日の中に受信できた。
彗星の木星衝突があった7月と次の8月のIAUC発行数は平常の月の15通程度をはるかに上回り、それぞれ31通,25通になった。特に彗星の衝突期間の7月16〜22日には、分裂核の衝突毎にニュースが入り、一週間でほぼ一月分の13通を数えた。
プロの間でも下記の渡部潤一氏の記事の中のに、電子メイルの即時性と、観測者の柔軟な対応が、観測の成功をもたらしたという事が記述されている。直後の福井での東亜天文学会年次総会の席上で、御本人が同じ事を話されていたのを記憶している。

  「パリティ」3月号の連載記事「物理屋のためのインターネット講座(18)」には渡部潤一氏の「インターネットで広がる天文学」が掲載されている。それによると、この後、国立天文台では電話回線を使って公開天文台ネットワーク(PAONET)を作り、最新の天体画像を地方公共団体の施設で見ることが出来るようにしたが、一般への公開には至らなかった。そのうちに1995年の「WINDOWS 95」の発売で、インターネット上の画像を持つサイトへの接続が簡単に出来るなり、一気に流行になっていった。国立天文台でもワーキンググループを作ってホームページの準備を進めて、ほとんど出来上がっていたが、諸事情で公開を止めていたという。その事情を渡部氏は次の引用の様に説明する。
 「いざ公開の段になって、ストップをかけざるをえなかった。何か新規事業を行うとき、日本のお役所にありがちな保守的な雰囲気に加えて、ものごとを決める立場にあるクラスの先生方がインターネットやWWWといったものを知らない、という弊害がまともに現れていた。やはり、不特定多数がアクセスできるという点に大きなひっかかりを感じる研究者が多かった。」
 その後は試験公開をしながら時を待っていたが、1996年の春になって、百武彗星が地球に接近して話題となった。その時期に接近中の彗星画像の公開を、マスコミや一般天文ファンの中から求める声が強くなっていったという。そのときには既に光ファイバーの容量も増加されて通信環境は整っていた。渡部氏は3月21日にセットされていた百武彗星に関する記者会見の席上で、次の様な宣言をして、独断でホームページのアドレスを発表してしまったとのことである。
「ワーキンググループの皆様。百武彗星の記者会見にてホームページを公開することにしました。確かにまだ完全に国立天文台全体のコンセンサスはとれているわけではありません。しかしし、コンセンサスを重視して、公開を遅らせる状況ではありません。世紀の大彗星を前に、多くの人に天文学の魅力を伝えていくのが私の仕事と思っています。なお、この公開によって生ずるすべての責任は、広報普及室長たる私1人にあります。」
国立天文台のホームペ−ジ開設の記事は天文雑誌には1996年6月号に紹介されている。

 「前例のないことはしない。担当部署の合意が必要。何かないと始まらない。上手く行けばお咎めなし。」という省庁にありがちな図式がぴったりの話である。渡部氏は公務員失格のような気がしたとも書かれている。また「要求のあるところに、それに応えていく。こんな簡単な図式を実践しただけである。」ともおっしゃるが、それが公務員の本来の努めではないかと思う。

 私も1996年1月には「WINDOWS 95」の動くパソコンに買い替えて、インターネット受信の環境を整えた。そして、『火星通信』のホームページの開設は1996年6月のことである。
今後はさらに利用環境が整えられていくと考えられ、『火星通信』同人諸子の電子メイルへの参加は強く勧めたいと思う。天文現象という突発的な物への即時的な対応が必要な分野では「電子メイル」などのメディアは有益な道具である。

 今回の火星接近では今年7月に到着する探査船の計画と連動して。地上から観測するインターナショナル・マース・ウオッチ(IMW)が提唱されて、インターネット上で、沢山の観測が紹介されている。玉石混淆であるが、玉の方は南政次氏により、CMO誌上に引用されている。私も米国の観測が日本の次の観測に繋がり、日本の観測が欧州の観測に繋がっていくのが実感できた。日本からの画像が登場しなかったのは残念なことである。

 今回、取り上げた国立天文台のホームページは、次のアドレスで接続できる。
  http://www.nao.ac.jp

 ここには「国立天文台の概要」の他に「天文情報・おしらせ」「話題の天文現象」「国立天文台・天文ニュース」があって最新の天文現象の画像・話題の紹介などがされている。

他に最新の天文情報を見るには、次の「スカイ&テレスコープ」誌の週間情報が良いだろう。毎週金曜日に更新される。
   http://www.skypub.com/news/news.html

( Mk ) 村上昌己