CMO/ISMO 2020 観測レポート#19

2021年五月の火星観測報告

 (λ=039°Ls ~λ=053°Ls)

村上 昌己

CMO #508 (10 June 2021)


・・・・・・ 視直径が四秒角台となった五月には『火星通信』に報告のあった観測は、さすがに僅かになってしまった。詳細も掴むことが難しくなっているが、暗色模様は正常に見えて、大きな擾乱は起こらなかったと思われる。今期19回目の観測レポートとなる。

この期間にも火星は「ふたご座」で順行を続けていて、日没時の高度は月初めには50゚程あったが。月末には35゚程になって、没する時刻も22時頃に早くなり、遅くなってくる日没と共に見えている時間は短くなっていった。

 


 

五月中に視直径(δ) は、δ=4.6” から4.2”まで落ちた。観測期は最終盤である。季節(λ) は、λ=039°Lsからλ=053°Lsまで動いて、北半球の春の季節は進んだ。中央緯度(φ)は、4°Nから12.0°Nと北向きの傾きが大きくなっていて、北極冠が明るく見えている。位相角(ι) は、29°台から24°台と丸みが戻ってきている。

 

 

・・・・・・ 五月の火星面の様子

今月も火星面の様子を中央経度(ω)順に並べたものをご覧いただく。傾きが北向きになって、どの画像にも北極冠が白く明るく見えている。大きな暗色模様はまだ同定できる。

 


 

 

・・・・・・ VMC (The Visual Monitoring Camera)が捉えた欠け際の様子

四月に取り上げた欠け際に明るさの見られる現象が、五月の下旬にも連日のように捉えられており、その様子をご覧いただく。今回の画像には、タルシス三山とオリュムプス・モンス(OM: Olympus Mons)が写っていて、写野の確定が出来る。MOLAの地形図に示すようにあまりクレーターの密集しているところではないようで、正体は近内氏が言及されたように、雲か靄のようなものかも知れない。

 


 

特に19 Mayのものは、アルシア・モンス(Ar)付近のターミネーター夜側で、明るさが大きく拡がりアンモナイトのように渦を巻いているようにも感じられる。

 


19 May 2021 (λ=047°Ls)

 


21 May 2021 (λ=048°Ls)

 


24 May 2021 (λ=050°Ls)

 


25 May 2021 (λ=050°Ls)

 

此の、VMC (The Visual Monitoring Camera )は、欧州宇宙機関(ESA)の火星周回衛星マーズ・エクスプレス・オービターに搭載されているカメラで、画像は次のURLから閲覧できる。

https://www.flickr.com/people/esa_marswebcam/

連日のように更新されているので、ご覧いただきたい。日付は年初からの通日も使用している。

 

 

・・・・・・ 追加報告の伊舎堂氏の画像

 追加で寄せられた伊舎堂氏の観測の集計は、10月からの後半のものを今回は取り上げてある。同氏は『火星通信』の古くからのメンバーで、40分インターバルの撮影を続けられていて、一日に多くの画像の報告のある観測日も多かった。画像処理には不慣れなこともあり、眼視観測のスケッチでの報告が楽に感じられることもあったと述べられている。日本列島の西端の沖縄では、時間的にも天候的にもこれまでの観測を補うものが多く、資料的な価値も高いものと考えられる。

 送られてきているのは、ギャラリーに上がっているように赤味が強いRGB合成画像であり、御本人の許可をいただいて、描写の良い画像を、筆者がRGB単色画像を弄くってRGB合成して、色調を調整してみたのが以下の結果である。特に南極冠が白くなるように調整をしてみた。元画像を縮小してあるJpg画像の使用で、元画像を弄くることが出来れば、もっと画質は向上するかも知れない。

 

最接近を迎えた10月の画像では、暗色模様が細かく分解されている。衝効果で明るいオリュムプス・モンス(OM)の中央丘がわかる。

マレ・シレーナム(M.Sirenum)の右上の暗点はカラリス・フォンス(Caralis F)で、Newtonクレーター内部の暗斑である。夕縁には、チトニウス・ラクス(Tithonius L)付近にかかる夕雲が白くわかる。

 


 

次の画像では、アルギュレ(Argyre)辺りでは地形が捉えられているようだし、マレ・アキダリウム(M Acidalium)の北側では北極雲に透けて下の地表の濃度がわかる「ドーズのスリット」が見えている。前接近で変化したオクシア・パルス(Oxia Pauls)辺りの様子も描写されている。ソリス・ラクス(Solis L)は淡い朝靄に覆われているようだ。黄雲発生前の様子で、次の画像と比較できる火星面経度(Ω)の同じ辺りである。

11月の黄雲発生時の画像も取り上げる。この19日には、アラム(Aram)とデウカリニウス・レギオ(Deucalionis Regio)に黄塵が立った日で、シヌス・メリディアニ(S Meridiani)の東側半分が淡くなっている。シヌス・サバエウス(S Sabaeus)も北岸に濃度が残っているだけに淡化している。ダストで明るく見えているマリネリス渓谷(Valles Marineris)が、平常時にはどの様に描写されるかが、中央の画像とで比較できると思う。南半球中緯度に拡がるダストベールの分布もよく判る。

 

 

・・・・・・ 五月の観測報告

  2021年五月の観測報告では、日本からの報告は、森田行雄(Mo)氏からお便りと共に1観測あった。森田氏は継続して撮影を続けているものの処理が追いつかず、一番最近の画像を添付されて送られてきた、今後も処理を進めて追加報告されるとの計画である。伊舎堂(Id)氏からの画像は、今回は2020年十月から20211月までの109観測を追加報告として加えた。

アメリカ大陸方面からは、メリッロ(FMl)氏が撮影を続けていて6観測の報告があった。ヨーロッパ側からは、ルウィス (MLw)から3観測の報告があった。合計して3名からの10観測であった。伊舎堂氏の追加報告は含まれない。

 

それぞれの観測者の画像は次のリストのリンクから辿れる。

 

   マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

   LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK

      3 Colour Images (6, 30, 31 May 2021) 45cm Dobsonian, with an ASI 224MC

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MLw.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      6 Colour Images (2, 15, 15, 18, 21, 25 May 2021)  25cm SCT with an ASI120MC

        https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html

 

   森田 行雄 (Mo)  廿日市市、広島県

   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

      1 Sets of LRGB Images  (23 May 2021)  36cm SCT with an ASI 290MM

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html

 

 

・・・・・・ 追加報告

     伊舎堂  (Id) 那覇市、沖縄県

   ISHADOH Hiroshi (Id) Naha, Okinawa, JAPAN

    109 Sets of RGB images (1, 2, 4, 6, 10, 12,~ 18, 24, 26,~28, 31 October 2020)

                   (1, 3, 6, 11, 15, 16, 19, 26, 28 November; 13, 22 December 2020; 2 January 2021)

                   31cm Newtonian (F/6.5) with an ASI 290MM

          https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Id.html

 


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