2009/2010 CMO『火星通信』火星觀測ノート (3)
北半球春分後の朝の蒼い模様
CMO #375 (
南 政 次
0° はじめに
春 |
分後には(少し時間が掛かるが)朝縁に赤道帶より北に朝霧が強く顕れるようになり、その所為で、赤道帶近くにある模様は蒼く見えることがある。淺黄色と言ってもいいが、時にはスカイ・ブルーのようになる。これも從來肉眼で觀察されてきたが、最近ではccd像で簡單に捉えられるようになった。但し、これには相當Bの質が良くなければならない。火星面には蒼色は殆ど見られないから、B光での畫像には模様は冩らないのが原則であって、B光像の火星は暗い筈である。ところが霧が現れると朝縁の近くとか(夕端でもそうだが)は白く成りその所爲でRGBに影響が出てくる。その場合、Bをどの程度に混ぜるかによってイメージは相當變わって來る筈である。
以下、1° シュルティス・マイヨル、2° アエテリア暗斑、3° マレ・アキダリウムに分けて、今年の成果を見てみるが、B光を伴わないものや像の優れないものは必ずしも顧みない。
1° 朝方のシュルティス・マイヨル
先ず、阿久津富夫(Ak)氏の2Feb(λ=046°Ls) ω=220°W、226°Wの特に前者ではシュルティス・マイヨルが充分に青い。Bにはそれほど朝霧が強くないが、このB像は良像である。
17Feb(λ=053°Ls)のマーチン・ルイス(MLw)氏のω=220°Wやサイモン・キッド(SKd)氏のω=223°Wにも現れているが、B像は添付が無く、MLw氏の二像は、合成像の色合いが全く違う。
22Feb(λ=055°Ls)のランディ・テータム(RTm)氏のω=237°Wで好いアングルで、少し青味を帯びているがB光を伴わない。同日のピート・ゴルチンスキィ(PGc)のω=237°WはB光も好く、シュルティス・マイヨルが良い形で蒼くなっている。但しこのLRGB像は稍陰気くさい。
不思議なことに23Feb(λ=055°Ls)では同じω=237°Wでエフライン・モラレス(EMr)氏が撮っているが、シュルティス・マイヨルは紺色に近いか。B光はアエテリアの暗斑以西が暗い點など、好いように思う。
ビル・フラナガン(WFl)氏は25Feb(λ=056°Ls)ω=221°Wで極朝方のシュルティス・マイヨルを捉えているが、色は鮮明でない。B光は悪くないと思うが朝霧が稍弱いようである。それとL像の所爲があるかもしれない。
21Mar(λ=067°Ls)ω=252°Wのデミアン・ピーチ(DPc)氏の像:朝のシュルティス・マイヨルは蒼くなっている。ω=261°Wでも未だ蒼い。後者のB光ではBに少しシュルティス・マイヨルの面影がある。しかし、これは所謂ブルー・クリアリングでは無く、リビュアからアエリアに掛けて朝霧が出て相對的にシュルティス・マイヨルがぼんやり現れているものである(シュルティス・マイヨルを完全に隠すほど朝霧は濃くはない)。
尚、ラルフ・ゲルシュトハイマー(RGh)氏の24Mar(λ=068°Ls)ω=225°Wは時間的に少し早い。Bは暗くて適當だが、リビュア霧が未だ出ていない。
28Mar(λ=070°Ls)にはPGc氏がω=259°Wで、ドン・パーカー(DPk)氏がω=258°Wで撮っていて、對照が面白い。PGc氏ではリビュア・アエリアに薄い霧が出ていて、シュルティス・マイヨルは稍蒼くなっているが、DPk氏はBを矢鱈増感してアエリアは白くシュルティス・マイヨルは黒く出している。お蔭で、シュルティス・マイヨルは紺色である。Syrtis Blue Cloudと稱するのだが、これは間違いである。霧が懸かって青色光が焼き附けられたに過ぎない。ω=264°Wも同じ。
30Mar(λ=071°Ls)ω=260°WのWFl氏の像もよく似た事情でシュルティス・マイヨルは稍蒼い。Bのリビュア雲の描冩は好く、像がマイルドになっている。
31Mar(λ=071°Ls)ω=255°WのEMr氏の像も好く似た傾向を示す。これらの角度ではシュルティス・マイヨルを隠すほど、リビュア霧などは然程濃くはないようである。
26Apr(λ=083°Ls)にはDPc氏がω=252°Wで朝方のシュルティス・マイヨルを撮している。DPc氏はB像をアッサリ仕上げ、シュルティス・マイヨルは青い方だがシーイングの所爲もあり鮮明ではない。
5May(λ=086°Ls)ω=257°WでDPk氏は見事に蒼いシュルティス・マイヨルを朝方に出した。UVではリビュア雲が強く辺りは白い。Bでも稍シュルティス・マイヨルの蔭を殘すが、霧に包まれている。當然B光を合成するとRGだけのシュルティス・マイヨルはBが素通りして青くなる譯である。
森田行雄(Mo)氏は、δ=4.7"と小さくなった火星でも、1Aug(λ=127°Ls)ω=270°Wには朝霧をBで強く捉え、シュルティス・マイヨルをRGBでもLEFBでも蒼く描写している。
以上であるが、シュルティス・マイヨルの場合、RGB像に淡いながらも白い霧が出るように処理しているものは少ない。
2° 朝方のアエテリア暗斑の變色
3Apr(λ=072°Ls)ω=197°Wでショーン・ウォーカー(SWk)氏が興味深い像を得ている。シュルティス・マイヨルの位置より高緯度のアエテリアの朝方に可成り濃い朝霧が出て、アエテリアの暗斑が淡い青色になったことである。スカイ・ブルー系と言っても好く、非常にナチュラルに見える。偶然全く同じ角度ω=197°WでDPk氏も撮像し、この朝霧をBとUVでコントラスト好く撮っている。アエテリアの暗斑はR像などで濃く出されているために却って色を消す結果になっているが、濃い青色系であることは間違いないし、合成像での白霧はよく出ている。結論はこういう事である:つまり白霧が強く出るとB光でそれに隠される暗色模様は青色系になるということである。
然し乍ら、アエテリアの暗斑の場合、一般的にはこのようにハッキリ出たケースは殆どなく、注意深く見るとRGh氏の18Feb(λ=054°Ls)ω=186°Wで稍出ているかといったところである。B像は優秀だが、未だ朝霧が弱いと言ったところか。
翌19Feb(λ=054°Ls)のピート・ローレンス(PLw)氏のω=182°Wとイアン・シャープ(ISp)氏のω=189°Wに稍見られると言えるかもしれない。
然し、20Feb(λ=054°Ls)ω=172°WのRGh氏像ではこれが殆ど見られない。朝霧がBで強く出ていないからであろう。但し、20Feb(λ=054°Ls)ω=185°Wのピーター・ガーベット(PGb)氏の像にはその氣があるようである。この日の朝霧の分布はDPc氏のω=184°W、203°W、208°WのB像に見られる。時間的に遅い所爲もあるが、DPc氏は蒼色現象に餘り興味を持っていないようにみえる。
28Feb(λ=058°Ls)ω=186°W、196°WにはWFl氏が當該箇所を撮っているが、Bで朝霧が鮮明ではなく、合成像にも影響していて、色の違いは冴えない。
1Mar(λ=058°Ls)ω=167°WのPGc氏の像では非常に良いB像だが(霧も出ている)、RGB合成像が冴えない、というより時間が少し早いか、と考えられる。
3° マレ・アキダリウムの朝方
朝方高緯度に朝霧があってもマレ・アキダリウムは頑強に普通の姿を見せている。例えばEMr氏の8Feb(λ=049°Ls)ω=347°WやDPk氏の良像12Feb(λ=051°Ls)ω=335°Wなどマレ・アキダリウムに變色はなさそうである。或いは朝霧が強く懸からないかである。DPc氏の14Apr(λ=078°Ls)ω=010°W、015°Wでは可成り南部が朝霧に侵されているが變色はない。實はDPc氏の續く畫像:16Apr(λ=078°Ls)ω=345°W、351°W、357°Wや17Apr(λ=079°Ls)ω=341°W、345°W、351°Wでも朝霧がマレ・アキダリウム上空で強くない様に見える。
更に、DPk氏の28Apr(λ=083°Ls)ω=330°WではBで朝霧が見えるにも拘わらず出現するマレ・アキダリウム本體には變化がない。
ところがMo氏の16June (λ=105°Ls) ω=006°W、011°Wではマレ・アキダリウムの南部(ニリアクス・ラクス)邊りが朝方で蒼くなっているのである。角度が適正であったと思われる。Bを見れば朝霧が南部にあることが分かる。然し、マレ・アキダリウム北部本體は黒いと言える。詰まり、Bを見れば分かるが朝霧はマレ・アキダリウム本體を侵していないのである。これは重要な觀測と思われる。多分、マレ・アキダリウム本體が朝霧と無縁という上の例と整合性があると思われる(この朝霧がいつ頃から強くなってきたかについては議論があろうが、Mo氏の像を探ると4May(λ=086°Ls)邊りからと言えるようである)。
一方、少し溯ってMo氏の像を見ると5Apr (λ=073°Ls) ω=354°W、004°Wでは未だ朝霧が充分でないが、然しニリアクス・ラクスは影響を受けているようにも見える。然しマレ・アキダリウム本體はシッカリと自分の色を出している。
4° おわりに
上を精査しながら、感じることは角度やタイミング、畫像處理の問題が大きいということである。また、ccd觀測では、Bでの様子は最重要だし、RGB合成の度合も好く考慮に入れなければならない、ということが言える。
一方眼視觀測で、フィルターで分光して觀測するという方法がALPOなどで採られたことがある。BならWr#47であろう。これは所謂ブルー・ヘーズの變化を捉まえる爲に採られた方法だと思われるが、殘念ながら、B光だけの肉眼觀測では、本來の色彩の觀測は無理というものである。こうした分光から色彩の綜合は殆ど不可能であるからである。詰まり、朝霧の存在や役割すら割り出せないということになる。模様の色合いを分光で捉えるのは困難ということである。寧ろInt光を肉眼でカラースケッチするBAA 方式が餘程色彩を見分ける可能性がある(但し、好い結果を見たことを無いが)。
實は写真でもスライファーの段階では、分光をしていたけれどもそれらを合成するということが出來なかったというのが致命的であったと考えられる。B光での變化は合成像にどういう變化を齎すかという「想像力」が缺如していれば、單にブルークリアリングという誤った結果を羅列するに留まる。
序でに繰り返して言うと、前回採り上げたようなタルシス四山のB光で暗點として出るということもブルー・ヘーズなるものが存在しないということと直結するのであるが、北半球の春分後の小接近の觀測を(運河検出には不利として)度外視した爲に朝霧の役割すら掴めなかったということであり、ブルー・ヘーズなどという埋み火概念を放棄するに至らなかったということである。
畫像處理については、朝霧のカラー描冩が行き届いていないのが多いということである。これは赤道帶霧の描冩などでは拙いことである。
尚、ここでは朝方をのみ採り上げたが、夕方についても似たような分析が可能であり、別の機會に譲る。