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はじめに平成14年度は当天文台にとって、更に新たな階段を上がることの出来た記 念すべき年となりました。前年度(13年度)末の補正予算で認められた太陽活動 総合観測システムとそれに付随した施設設備の設計・製作・建設を総力体制で遂 行すると共に、引き続いて14年度末の補正予算では、長年の懸案であったドー ムレス太陽望遠鏡の塔体冷却システムの改修工事が認められました。 太陽活動総合観測システムは、世界最高分解能の太陽全面像を取得できるように 開発された最先端装置です。これによって太陽面爆発を起こす磁場活動領域の誕 生を、その初期から捉えて、磁場の三次元構造の発達過程を定量的に追跡し、太 陽面爆発現象発生の基本メカニズムを解明しようとするものです。この研究は、 太陽活動に影響される地球の気候や電磁気圏環境の変動を予測するいわゆる宇宙 天気予報研究にもつながるものです。また同時にその研究成果を、更に広い宇宙 に適用して、他の恒星・銀河にも発見されている天体磁気プラズマ高エネルギー 現象の解明に迫ろうとするものでもあります。本装置を十分に活用することによ って、太陽および宇宙プラズマ活動の先端的研究と観測天体物理学の大学院教育 において、今後一層の成果を挙げて、社会に還元して行きたいと考えておりま す。これらの実現にご尽力を戴きました文部科学省・京都大学関係者をはじめと する多くの方々に厚くお礼を申し上げます。 当天文台における次の計画としては、ドームレス太陽望遠鏡の高分散分光器 に画像補償光学装置を開発・設置して、太陽活動の根源である微小磁場活動の物 理に迫ることを目指しています。また、同時に宇宙物理学教室および国立天文台 と連携して、3.5m光学赤外望遠鏡の設置を推進し、太陽から宇宙全体にわたる活 動的宇宙物理学の教育研究拠点の形成を目指して行きたいと考えております。 第3回目となった花山天文台と飛騨天文台の同時一般公開は、本年度も小学生か らお年寄りまで幅広い方々の参加があり、望遠鏡・設備の公開、天体観望、ミニ 講演会や工作教室など、多くのバラエティーに富んだコーナーはどれも大盛況で 好評を博しました。これらのコーナーはいずれも、大学院生と若手研究員・非常 勤職員を中心にして準備されたもので、課題研究・課題演習・ポッケットゼミな どを履修している学部学生の参加もあって、まさに若者のエネル ギーに支えられた事業として、定着しつつあります。 花山天文台における新しい試みとして、8月の1週間を利用して、京都府立洛東 高校2年生の希望者7名に対して、太陽観測実習教育を行いました。高校側の熱 心な要望に応えたもので、高校生たちは天文台職員と大学院生の指導の下に、花 山天文台の観測装置を用いて太陽の撮像観測と分光観測、さらに計算機を用いた データ解析に挑戦し、これらの成果は高校生自身によって日本天文学会のジュニ アセッションでも発表されました。飛騨天文台においても、本年度から始まった 神岡町教育委員会の主催するサイエンスツアーを受け入れるなど、大学生から小 学生まで、あるいは高校教員から農協まで、幅広い団体の実習・研修・見学など を受け入れました。今後とも、高校生をはじめとした青少年の理科教育や一般市 民の生涯学習にも、当天文台の施設・設備を積極的に活用して、社会に対して貢 献して行きたいと考えております。
平成15年 9月
京都大学大学院理学研究科 附属天文台台長 黒河宏企
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