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(1) 火星南極冠



火星の極冠は観測しにくい位置に在るとはいえ、その生長過程を見た人は誰もいません。 いくつもの探査機が火星を観測していますが、その探査機ですら極冠の生長過程を見てい ません。極冠が見えるのは極冠が最大に達しとけ始める頃からです。南極冠は南半球の春 分あるいはその少し前から地上観測にかかるようになります。早春の頃の南極冠は南極点 を中心にして南緯60度辺りまで緯線に平行に広がっています。南極冠の縁は早春から後 退を始め、中春になりますと後退速度は経度により差がでてきます。経度0から90度辺り では後退速度が遅く、その反対側の180度から270度辺りでは後退速度が速くなっています。 即ち南極冠の中心は極点からずれてきます。夏至頃になりますと、極冠の後退は止まり永 久極冠のみとなります。西経240度付近では極冠は極点付近まで後退しています。一方、 北極冠は極点を中心にほぼ同心円的に後退します。北極の永久極冠の中心はほぼ極点と一 致しています。南極冠の後退速度が経度により差が出てくるのは南極地方の地形の影響に よるものと思われます。



南極冠の大きさや後退速度は年ごとに異なります。それを比較する場合は経度を指定 しなければなりません。図1は西経60度において、1997年の南極冠の大きさと50年間の 平均値(1907から1956年までの平均)とを比較したものです。横軸は火星から見た 太陽黄経()で、季節を表しています。が火星南半球の春分です。1997年 の南極冠は平均的な大きさであったことがわかります。もっと詳しく他の観測年と比較 したものが図2です。南極冠の後退の仕方は年により様々である事がわかります。特に 太陽黄経 付近ではばらつきが大きくなっています。その原因は不明で今後の 課題です。南半球の晩春から初夏(前後)では砂嵐(ダストストーム)が発生しま す。大気中に漂うダストは太陽光を吸収するために、地表に達する太陽エネルギーは減 少します。従って大気中のダスト量によって極冠の後退速度が左右されるのではないか と想像できます。しかし、具体的な計算によりますと、大気中のダスト量が極端に 多くないかぎり(ダストの光学的厚さが10以上)、大気中のダスト量は南極冠の後退速度に 影響しません。



極冠の後退速度を理論的に追跡することは非常に興味深いことです。正確には 地形の影響を考慮した大気大循環モデルを作らなければなりませんが、それ は非常に難しいことです。しかし、火星では水平方向の熱の移動は上下方向 の1/10程度ですから、大気の水平方向の移動(循環)を無視しても可成り良 い近似が得られます。私たちは上下方向の熱収支のみを考慮したモデルをつ くりました。どのようなモデル計算にも二つの大きな制約がつきます。その 一つは火星探査機Viking Landersが観測した大気圧の季節による変化です。 極冠の大部分はドライアイス(火星大気の主成である炭酸ガスが凍ったもの)から できていますから、極冠の生長収縮に伴い火星大気圧は20%も変動します。二つ 目の制約は観測された極冠の後退曲線です。この二つを再現できるモデルを作れ ば良いのですが、それは簡単でなく、まだ誰も成功していません。図3は北極冠 についてのモデルを示しています。地面の反射能を0.25、極冠の反射能を0.55と すれば、観測値を説明できます。図4は北極冠のモデルに南極冠を加えたものです。 ただし、南極地方の地面の反射能を0.45、南極冠のそれを0.75としてあります。 大気圧の季節変動を、完全とはいえませんが、可成りよく再現できました。この モデルによりますと、北極冠と南極冠とでは反射能が異なります。反射能の信頼 できる観測値がありませんので、その差が真実か否かは断言できませんが、 北極冠の反射能0.55は飛騨天文台での観測値0.5-0.6と可成りよく合っています。


(赤羽 徳英 記)

(2) 火星エリシウム山の昼雲

火星北半球の春から夏の季節には赤道地方や北半球中緯度帯に朝雲、昼雲、夕雲が発生し ます。朝雲と夕雲は北半球の低・中緯度地方のほぼ全域に見られますが、昼雲は北半球の 特定の場所に限られます。ここでいう昼雲とは正午前後あるいは午後早めに発生する雲の ことです。朝雲や夕雲は広い範囲を覆うのにたいして、昼雲は小さな斑点に見えます。昼 雲は北半球低中緯度帯の巨大な火山の山頂あるいは山腹に発生します。エリシウム山、オ リンパス山、アルバ山にかかる昼雲は明るく大きいですから、地上から容易に見られます。 その他タルシス3山にも昼雲が発生します。今日までの地上観測から昼雲の発生場所とし て確認されているのは上記6ヵ所だけですが、ハッブルスペーステレスコープによります と、タルシスにある小さな山にも昼雲が発生します。

エリシウム山は北緯25度、西経214度に位置し、直径約500km、周囲からの 高さ15,000mの大火山です。晩春から盛夏にかけてエリシウムは厚い朝雲で覆われます。 朝雲は真昼には消滅するか可成り薄くなります。朝雲が薄くなってきますと、エリシウム 山に明るい斑点が見えてきます。それが昼雲です(図1)。その昼雲は時間とともに明る くなってきます。図2はエリシウム山にかかる雲の明るさの時間的変化を示したものです。 朝方には昼雲が発生する位置に朝雲がかかています。図2で雲の明るさが午前中減少して いるのは時間がたつにつれて朝雲が衰退するからです。昼雲は正午頃から目立つようにな り、夕方まで明るさを増しています。多分夜間には昼雲は消滅または衰退するのでしょう。 昼雲は朝方には見られません。そして昼頃になると再び明るく見えてきます。エリシウム 山の昼雲はかような日変化を仲春から盛夏まで毎日規則的に繰り返しています。図2は見 かけ上の明るさの日変化でして、それが雲の活動の日変化を表しているとはいえません。 雲の活動を推定する一つの方法に雲を真上から見た場合の光学的厚さがあります。図3は エリシウム山昼雲の光学的厚さの日変化を示したものです。図2と同じような日変化をし ています。エリシウム山の昼雲は夕方になるまで厚さを増しているように見えます。しか し、15時以降ではエリシウム山に夕雲も発生します。昼雲は夕雲と重なっている可能性 がありますから、昼雲は夕方まで厚さを増加し続けるとは断言できません。どの程度昼雲 と夕雲とが重なっているのか、あるいは昼雲は夕雲の影響を全く受けていないのかは撮像 観測だけでは解決できません。1982年におけるオリンパス山の昼雲は14時-15時に 光学的厚さがピークになり、その値は0.7ほどでした。同じ時刻のエリシウム山の昼雲 もほぼ同じ値になっています。

(赤羽 徳英 記)

(3) 木星の偏光観測

東京理科大学理学部川端潔教授と共同で制作した惑星偏光観測装置が完成しました。これ はウオラストンプリズムと半波長板を用いて惑星面上の偏光を二次元的に観測するもので す。まだテスト観測の段階ですが、得られた資料は学術的にも充分に使えるものです。そ の装置で得られた像の一例を図1に掲げます。ウオラストンプリズムにより光の振動方向 が光軸と平行な像と垂直な像とが同時に撮影できます。図2は偏光の強さを示したもので、 明るい箇所ほど偏光度が高くなっています。

(赤羽 徳英 記)



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