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(I)


 

木の實落つ音も十七文字の日記

 



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2005


 

てのひらの眞中のぬくみ冬隣

ハッブルの膨らむ宇宙冬珊瑚

木枯やカムパネルラの星ひとつ

聖樹の灯いつしか星になるいのち

天狼や曲がつたままの母の指

雪蟲やダンスステップわすれさう

きのふまで繋がれし犬冬紅葉

骨の手の確かな温み(ふゆ)薔薇(さうび)

古暦ひとつ詠みてはひとつ捨つ

泣けばよし大オリオンのど眞ん中

Jupiterの低きフレーズ年一夜

數へ日の指切きらぬまま果つる

 

母抱く日のおとづれし十三夜

 

休むこと多し麥藁蜻蛉かな

あをきまま熟るる葡萄よ明けの星

 

上風(うはかぜ)に片割れ失せし零餘子(ぬかご)かな

天國と地獄のはなし蟲時雨

 

楸邨の「猫」ポケットに秋すこし

現し世に母引きとどめ月の舟

蟲すだくダリの時計の二十五時

底なしの(そら)色釣瓶落しかな

一の橋二の橋月の兎かな

無患子(むくろじ)や眠れば忘るけふのこと

泣きごとは言はずあさがほ左巻き

紅葉かつ散るや心の置きどころ

 

 

猫のやうな仔犬 秋日に耳ばかり

 

吾が影に犬憩はせり時雨

 

ほほづきや忘れた筈の犬の(かほ)

 

 

 

 

 

  揚羽蝶黄は眞中のスペクトル

  梅雨蜩天の水門開かれよ

  半分は父の遺傳子忘艸

  しぐれ方程式の解けはじむ

  ENOLA GAY(あさがほ)いつか(そら)の色

  流れ星猫は釦の(まなこ)して

  羽田行き最終バスや(のち)の月

 

搾乳を終へし牛の眸五月空  (日本大学 六会校舎)

蠅はらふ牛の尾だけが醒めてをり

 

           螢()る幾千萬の星の下(もと)   (天城にて)

           ひたひたと螢の氣配湯道かな

           くるぶしは()野川(のがわ)の中葉風 

 

足のうら見せて犬ゆく薄暑かな

滲みたる星の縁より入梅(ついり)かな

萬物ににほひありけり曾我の雨

雨の日の母は眠たし花茗荷

 

諳んずる黄道星座(ゆふ)端居(はしゐ)  

 

天道(てんと)(むし)(てんとむし)土の文化の眞中飛ぶ

迷ひなく土に還る日えごの花

(ひき)(あり)く右の(あし)より黄泉國(よもつくに)

 

萬緑の土よりアダム生まれけり

 

若葉風マドロスシャツの似合ふ犬

はつ夏の大道藝人風廻す

大いなる母の寝息やこどもの日

しやぼん玉空より給ふ色ななつ

天指して生ひ立つ若葉(わらび)(がみ)

山ひとつふくらむ八十八夜かな

 

(はな)萬朶(ばんだ)自分の言葉 探しをり

 

陋巷の其處にも染井吉野かな

花暮れの烏賊焼く匂ひみなとまで

花冷えや星のひとつになりしひと

 

垂糸海棠(はなかいどう)母の爪切る日曜日

 

Photo by Mk

 

 

春荒や西へ馳せ墮つ馭者の星

紫雲英田に牛の眸の星墮ちゆけり

 

蝌蚪(かと)の手や天地創造はじまれり

 

 

春北風今宵慈郎の星點る

 

まだ温き犬の骸や土の春    (Jj忌に)

 

 

啓蟄の山揺り起こす欠伸かな

きのふよりけふの陽射や山椒の芽

 

雛の日の(せな)より北斗立ちにけり

添書に母の励まし紙の雛

指先は母の掌の中花を待つ

 

張り通す意地も父似や指焼艸(さしもぐさ)

 

終雪の極樂淨土犬もゐて

 

 

黄沙降るペキネンシスの上瞼    (2/23春一番

捨てきれぬをんなでありし梅一枝

節分やぴしりと打たる胸の鬼

 

  眞夜中は赤の點滅雪坊主

  足音のミュート忘れて猫の戀

 

TSUNAMIてふいのちありけり乙子月(おとごづき)

四次元の雪灰白(かいはく)の空へ降る

 

オリオンの墜つる十萬億土かな

山古志の太郎眠らせ雪やまず

春天のJupiterスリーオクターヴ

 

薄れ日に指頭開きて猫の冬

悴みし掌合はす五風十雨かな

降り初むる雪にはじめの一歩かな

 



2004


 

葉牡丹の紅白添ひて暮るるなり

Orion

這ひ上がる天狼あをきルミナリヱ

六聯星(むつらぼし)結びて雪の()れし頃

大オリオンけふの怒りを鎮めをり

兄すこし暗き雙子座窗の冬

 

星まぶり木菟の遠音に酔ふてをり

                                                                                                                                                                             

凍星やおのがメサイア探す旅

數へ日やまだ見ぬ夢はあと幾つ 

なぞなぞのなぞも湯の中柚子の風呂

ポインセチア言ひ古されし人の愛  

 

 

一陽來復母にも靴ひとつ

母の口拭ひてをりぬ聖樹の燈

節料の母の塩梅まだ遠き

篝火花離れて暮らす父と母  

 

(常間地 嘉子 ちぎり繪)

 

       

 

冬滿月つれてゆかれしひとのあり

 指先に心音聞くや冬近し

 縄跳や涙は天に還すべし

 ボジョレヌーヴォ時雨奏づる夜にひとり 

 

       遠き日の雪のにほひや旅鞄    

       十一月行き交ふ年も旅の人

       八つ頭皮質の皴にヒトの智慧

 

    月光菩薩十指(じっし)の先の冷まじや

    風道にまろびて輕き虚栗(みなしぐり)

        ひだるしや熊架(くまだな)はいま里にあり

 

なゐ騒ぐちひさき星の夜を寒み

振り向けば獨りにあらず(のち)の月

倒壊の住處白菊供へ去ぬ (十月30日 山古志村を想ひて)

 

    部分日蝕穂絮飛びゆく影の中

    遊糸(いとゆふ)や億光年の一里塚

 

灰色猫(グリ)去ねり花野の先のその先へ

泣く夢に覚めて眞白き夜半の月

 

道眞に託す夢あり秋の梅    <大宰府天満宮にて>

秋暑し遺跡の空のかちがらす  <吉野ヶ里にて>

これもまた旅の棲や野分宿   <平戸にて>

まろきもの山吐き出せり月今宵  松浦史料館の天球儀>

風の道殘し伏したる稔りかな  平戸から長崎への道>

 

 

 

 

 

街はいま地に滿つ星や十六夜   <長崎稲佐山にて>

如己堂へ續く坂道鰯雲     

溶かされしロザリオ秋の夕陽色  <永井隆記念館にて>

長崎の坂また坂や秋陽射 

昼の星缺くるを見たり野分晴  長崎市科学館天文台にて>

秋茜散りて金星碑建つ山  <長崎・金比羅山にて>

茴香の匂ひ華僑の活くる街  

秋の風吸へばぽっぺん薄硝子 

立待月被爆の街の祷りかな  <夜のグラバー園にて>

 

火砕流の記憶は遠き黄金の田       <普賢岳裾野の深江町にて>

 

 

金星凌日観測記念碑 1874(明治七年)の金星凌日の際、長崎に陣を張ったフランス隊の観測を記念して建てられたピラミッド型の石碑が長崎市の金比羅山中腹に遺っている。他に観測台跡やジャンセン隊長の撮った祠がいまでも遺っている。120年ぶりに金星凌日の起こった今年、長崎市科学館の柿本繁館長にご案内いただいた。長崎県の文化財史跡である。風化が激しいが、VENUSの文字が見える。右端の写真は120年前の建立當時の金星碑で、右面にDUMAS(派遣當時のフランス科学アカデミー金星凌日委員会の長)の名前が見える。その左面が圓い金星像とVENUS他の刻字のある面

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

犬逝きてみとせの花の(うるは)しき 

芒種雨近づく海の匂ひかな  

照れば雨降れば日を戀ふ早苗かな  

炎昼に自分の影を見失ふ  

涼風に畫龍點睛月ひとつ  

引き合ひて睫眉の隔て夏銀河 

夕焼けの天にを積みにけり 

風立ちて七星てんたう羽ほどく  

山ひとつ越えてさそりの星しづむ 

寄り添ひて犬も降り來る盆の道  

籠目籠目うしろは月の氣配かな  

穴惑ひクロスワードのたての鍵  

北斗星巡る一夜のおわらかな  

踊る手の北より()れし風の 

 

()づる冥王星のその先に  (冥王星の外に「セドナ」発見)

 


 

三日てふ音なき夢の醒めにけり  

長庚の滲みて雪のにほひかな   

生類の偉大な一歩蟇出づる

蹴り上げる春の大空逆上がり

春の風けふは何處(いづく)へ歩き神

 



2003


 

寒雲や神の子羊とはなれず

寒卵立ちて静かに閃く日

犬眠る土より出でし白菫

花冷えやエデンの東遠くあり

春雷の過ぎて東尋鎭まれり

 

朝雲のほどけて遅き梅雨の明け

 

てぃんさぐの爆ぜて蒼天動きけり

首里王城(しゅりぐすく)朱き蠍の鼓動かな 

花潜(はなむぐり)けふは飛ばずにおく日かな 

天牛蟲(かみきりむし)闇切り分けて飛びゆけり 

てぃだ(太陽)炎ゆる那覇新港に雲の立つ 

白雲のちぎれエイサー過ぎゆきぬ

 

 

 

 

  片降(かたぶい)になを身焦がせし火星かな 

  炎星(ほのおぼし)せめて秋夢に入り來よ 

  瞬かぬ火星色なき風の中

 

       梟の聲漆Kを塗り重ぬ

       星騒ぎ野分の聲の遠くあり

       紫苑咲く彼岸と此岸絶つところ

 

 

 

 母の名の滲む上履冬隣

 

(常間地 嘉子 )

 

 

 



2002


花冷えやけふの命をいとほしむ                

泪さへ吸ひこむ星河天の穴 

病室の音無き午後や桃を剥く

 

 

太陽に八咫烏見し秋氣かな

 

親不知今は野菊の如砥の道

 

 

 

 

 

親不知の「如砥如矢」の壁書

 

 

 

芦原路の錆びたる鐵路艸雲雀

凍凪や生まるる星に去ぬる星

客星の土産此處にもノエルかな


編集部註:常盤 優は常間地ひとみさんの雅号です。

2006年/2007年の頁に


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