ハ ワ イ 島 マ ウ ナ ケ ア 山 す ば る 望 遠 鏡 訪 問 記
常間地 ひとみ
CMO/ISMO #425 (25 August 2014)
2014年8月17日20時成田発デルタ航空にてホノルルへ。ほぼ4ヶ月間事前研修を積んだ高校生17名教員6名の「ハワイ島理科研修旅行」。メインテーマは火山と天文台訪問。
日付変更線を跨いでホノルル空港に到着したのはハワイ時間17日の朝8時。パールハーバーからビショップ博物館などを急いで見物し、ハワイアン航空でハワイ島へ移動した。滞在先はヒロという大変静かな街で、夕方5時を回る
ヒロからマウナケア、コナへと続くサドルロードは、保険がきかないのでここを走るというとレンタカーは貸してくれないらしい。中腹(標高2800m)のビジターインフォメーションステーション(オニヅカセンター)までは一般車両も入ることができるが、そこから先は許可を受けた一部のハワイアンの契約車だけしか通ることができない。
オニヅカは1986年のチャレンジャー爆発事故で亡くなった初の日系人宇宙飛行士Ellison
Shoji Onizukaを記念した名称で、入口にモニュメントが建っている。
山頂に上がる前にここで最低1時間ほどは滞在して高山に躰を馴らすことになっている。
木造の山小屋風の建物で、小さいながら売店や水洗トイレもある。望遠鏡が何台か設置されており、晴れていれば毎晩スターゲイジングプログラムが行われている。別棟に会議室や山頂の天文台スタッフ用の宿舎もあり、私たちは会議室棟を借りて弁当もここで食べた。
今回のこのツアーはほとんどがフィールドワークだったのでひたすら弁当の世話になった。ハワイでは弁当は「ベントウ」で、ご飯と日本式のおかず。ご飯はやや硬めで、なにより量が半端無い。おかずも肉類中心でどどんと山盛りである。野菜の煮物が入っていたらラッキーで、とにかくハワイというところは野菜が出ない。サンドイッチ弁当にはレタスくらいは入っているが、ほんのまじない程度である。そのかわりサンドイッチにはもれなくポテトチップスがついてくる。このポテチが、吃驚するほど塩辛い。ドリンクはペットボトルの水(ハワイではみんなペットボトルの水)やトロピカルジュース。カットされたフルーツが付く。フルーツはふんだんにあって、流石においしい。
オニヅカに着いたころにはちょっとした坂道を歩いても息切れがして、さては高山病かと心配になったが、業者の四駆に乗り込んで山頂に向かう途中数か所で車を降りたときは何も異変を感じなかった。雲の上を走る道中は氷河のあと(マウナケアは噴火の後に氷河期を迎えている)や、火星に来たかのような気持ちにさせられる茶褐色の地面が広がる。Apollo
11のニール・A・アームストロングが月面活動のシミュレーションをここで行ったと運転手が言っていた。そしていよいよすばる望遠鏡の建物に到着。貸してくれたダウンジャケットを羽織って車から降りたが、日差しはかなりきつく思ったほど寒さは感じない。
すばるのドームは空気の乱れを押さえる形をしていて、所謂半球形のドーム型ではない。
見学には人数制限があり、私たちは先発グループと入れ違いとなる。スタッフの方と挨拶を交わして扉の中に入ると、まずヘルメットを渡され、巨大なエレベーターに乗って3Fへ。すばる望遠鏡の主焦点部分を間近に見られるところに案内された。
日中閉じたドーム内で主鏡の温度を夜の予想温度より2℃低くなるように冷却されているた
すばるの主鏡は超低熱膨張特殊ガラスからなる口径8.2mの一枚鏡で、厚さは20cm。23tの重さで変形しないように261本のアクチュエーターに支えられて理想の形を保っている。可視光と赤
エレベーターで1Fメンテナンスエリアに降りると、地表からの熱を防ぐために望遠鏡本体を載せている高さ
すばるの捉えた最も遠い宇宙は129億光年(今のところ最遠方銀河の世界記録ということらしい)。宇宙の年齢は137億年と言われているので、もうあと少しというところまで迫ろうとしている。現在すばるより少し離れた場所にTMT(Thirty
Meter Telescope次世代超大型望遠鏡)の建設計画が進められている(さすがに30mの一枚鏡という訳にはいかない)。
これが完成するのは2020年あたりのようだが、広域視野を誇るすばる望遠鏡との連携探査に期待を膨らませているという。2020年と言えば東京オリンピックの年だが、訪ねることができる時が来るだろうかとふと思った。林さんは「これからのすばるの仕事を作っていくのはあなたがたです、頑張ってください」と生徒を激励。すばるに関わるのは天文学だけではないという話もあって生徒の目が輝いた。
躰への負担を考慮してここには1時間以上いてはいけないことになっている。ヘルメットを返しながら(「ヘルメットはお土産ではありませんので返してくださいね」とジョーク)ドームを出るまで時間を惜しみながらいろいろ話を交わした。そしてドームの外で一緒に記念写真を撮り、すばるをあとにした。隣のKeckに立ち寄りトイレを借りてガラス越しに望遠鏡も拝見。W.
M. Keck Observatory はカリフォルニア大学・カリフォルニア工科大学・NASAの共同運営で、約2mの六角形の鏡36枚で構成された10mの複合鏡(それがそのままロゴマークのように扉に描かれていてかっこいい)の望遠鏡が二台ならんでいる。トイレを貸してくれるのはTのほうで(visitor
entranceというスペースがちゃんとできている)、Uには入れない。
その後すばるやKeckを見下ろすことができる山頂まで上がり、一旦オニヅカまで引き返すことにした。夕方また出直して、ここからサンセットを眺めることになる。
マウナケアのサンセット+オニヅカでのスターゲイジングプログラムは大変な人気観光スポットのようで、昼間はガラガラだったオニヅカへ引き返したら観光客でごった返していた。車は駐車場を溢れて道路までいっぱい。ハワイでは路上駐車にお咎めは無く、こんなところまでというところでも車が平気で置いてあったりする。アメリカンもいっぱいいたがその多くはどう見ても日本人。あちこちで「ベントウ」を広げていた。
いよいよ日没の時間が迫ってきて、次々と四駆が山頂目指して出発する。それぞれのガイドがここという場所に連れて行くのだ。途中猛スピードで追い抜いて行く車があった。運転手は「ジェミナイのスタッフだ」という。Gemini
Northern Telescopeという7か国で共同運営されている望遠鏡で、もうひとつはチリにあってこの二つで全天を観測することができるからふたご座なのだという。山頂にたどり着いたらGeminiはすでにスリットが開いていた。
夕暮の山頂は昼間とは打って変わって冷え込み、ダウンジャケットのフードまですっぽりかぶってサンセットの時を待った。なんとコナの方向の先にマウイ島までしっかり見えている。振り返れば影がはるかかなたまで伸びてみんなあしながおじさん。そしてその向こうにマウナケア山の影が女神ポリアフを祀る山頂の一角に沿って伸びている。いよいよ日没の時間が近づき、鮮やかな夕日がすばるとKeckの向こうの遠い雲海に吸い込まれるように沈んでいく。あっという間に薄明が闇となり、オニヅカへ引き返すことにした。車窓から流れ星が見えた。さそり座、いて座…そして、雲のように見えていたのはなんと銀河!驚いたことに、お世辞にも綺麗と
オニヅカに戻るともうスターゲイジングプログラムが始まっているようで、人だらけ。とんでもない混雑なのだが、それでも銀河ははっきり見える。まるで合成画面のようだ。私たちは人混みを避けてすこし場所を移動。ちょっとした空地で星空を堪能することにした。日本では地を擦るようなさそり座がかなり高く、尻尾のS字の下にさいだん座とかぼうえんきょう座まで見えている。イミロア天文センターで買った北緯20°用の星座早見盤が役に立つ。西の空低くケンタウルス座のα、βまで見える。銀河の裂け目もわかる。生徒たちはガイドが提供する望遠鏡を覗きこんだりレーザーポインターで星座を教えてもらって歓声を上げたりしていた。人間の躰とはたいしたもので、サンセットを眺めたのはマウナケアの山頂(正真正銘の4205m)、星を見てわいわい興奮している場所も2800m。すっかり順応している。十分堪能して(本当はオリオンが昇るまで居たかったが)、ヒロの街へ引き返した。下界は土砂降りだった。
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