Forthcoming 2007/2008 Mars
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黄雲の季節來たる
CMO #331 (25 May 2007)
南 政 次
六 |
月1日で火星の季節はλ=249°Lsとなる。1956年のノアキス大黄雲が華々しく見られたのはλ=250°Lsであったから、その季節が到來したわけである。但し以後、同じ季節にノアキス大黄雲が起こった試しはなく、いつもスカタンで、出るときはとんでもないときに出る(唐那・派克氏の言葉を借りれば、火星はわれわれの裏を掻く)のであるが、機會があれば矢張り氣になって見るようにして來たものである。起こっていないことをチェックするのも意味がないわけではない。黄雲活動は或る収支決算が崩れてカタストロフが起き、そこにフィードバックが働いて均衡へ向かうのであろうが、日捲り暦のようには事態が進まないのであろう。然し、太陽は規則的にDsを刻み、(大)黄雲の季節に入ることは確かである。
一方、今回は接近の速さが鈍く、六月1日でδ=5.7"にしか過ぎないし、火星の高度も赤道を過ぎた許りである。こんなに小さく條件が悪くてはとても黄雲など無理であろうと考える向きもあるかも知れぬが、23 April (λ=225°Ls)から30 April (λ=229°Ls)のδ=5.2"~5.3"のブダ(SBd)氏やヘフナー(RHf)氏の畫像をGalleryで見て貰えば分かるように、もし1956年や1971年の様な明るいノアキス黄雲が出れば確實にccdで捉えられる筈である。肉眼ではδ=10"以下では甚だ難しいが、アントニアディの本では(83cmの大望遠鏡ではあるけれども)δ=7.5"のとき黄雲でシヌス・メリディアニが見えなくなったことを眼視で確認している。これは現在ならccdでは確實に捉えられるし、特徴のあるところだけにある程度は中口徑の眼視でも可能であろう。これは1925年一月とあるだけで期日がハッキリしないが、18 Jan 1925にはマルガリティフェル・シヌスが朝方の縁(terminateur)にある時その上にオレンジ色の黄雲の突起が見えていたという記述があるから(p126)、これと關係があるかも知れない。すると凡そλ=335°Lsぐらいかと思われる。そうすると2007年の場合では十月下旬ということになる。 δ=11.4"にはなっている。因みに2005年にシヌス・メリディアニが黄塵で消失しかかったのは30 Oct 2005(λ=315°Ls)頃であった。
視直徑が小さいからといって黄雲検出を疎かにしない方がいいと思われるのは、1973年の例があるからである。1973年の大黄雲はλ=300°Lsに起こったのであるが、これはダエダリアの新暗斑に依る温度上昇があったと考えられる。ところが逆にダエダリアの異常暗斑は黄塵の働きで起こったと考えられるのに、これがいつ起こったか確認されていないのである。1971年の黄雲中に起こった可能性もあるが、1973年の早期であった可能性もある。この暗斑を確認したのは宮本正太郎氏の1 July 1973 (λ=235°Ls)等の觀測が早いと思うが、この時δ=10.4"、宮本氏の1973年最初の觀測はδ=7.1"であったから、早いとは言えないのである。季節はλ=195°Lsであったから、宮本氏の感覚では未だ黄雲の季節前と考えていたのであろう(1969年と1971年には宮本氏はδ=4.6"から開始されているのであるが、この時はδ=7"頃までどうということはなかったのかも知れない)。然し、2001年や2003年のような例もあるから、惜しいことであった。
黄塵によって模様が大きく濃化する例は2003年七月(λ=215°Ls)の觀測例が著しいし、これはチェック出來た希有な例であった。これは黄雲がほぼ一週間で沈静化したにも拘わらずの大きな變化であった。濃化を起こす大黄塵は一日にして起こり短期間で黄雲の殘滓は無くなる場合もあるのである。ダエダリアの濃化のような場合には相當明るい黄塵が立ったであろうから、視直徑が小さくても検出は可能であろうし、濃化は次の黄雲を意味するから重要である(その意味で2003年の濃化の為現在でもノアキス、デウカリニオス・レギオは要注意である)。
そこで季節を追って過去のデータを少し追ってみるのが本稿の目的である。
アントニアディの本には1909年23~27Augに22cm反射で觀測した圖があるが(p.40)、これにはトリウィウム・カロンティス邊りを含んで朝方北半球が黄雲で覆われている。これは季節ではλ=258°Ls~260°Lsぐらいで、今年なら六月中旬である。アントニアディはマレ・キムメリウムの項でこの長い海は屢々黄雲に覆われるとして幾つか例を擧げている中に彼の觀測では22、23 Aug 1909にマレ・キムメリウムが可成りpâle(淡い、冴えない)と書いているから、この黄雲の影響であろう。同じく1909年八月とあるから同じ頃と思うが、Juvisyの24cmでケニッセと一緒に觀測してシュルティス・マイヨルが中央で見えないという経験をしていて、この時はレモン・イエローの黄雲であったと記している(p86)。1909年の九月初めにはソリス・ラクスが黄雲で消えたとあるから(p142)、これも關係があるかも知れない。λ=270°Ls前であろう。今年ならλ=260°Ls~270°Lsは六月下旬から七月上旬ということになる。なお、アントニアディがムードンの83cn屈折ではじめるのは九月20日からであったと思う。
λ=260°Lsといえば1971年のノアキス大黄雲の發生時期である。この黄雲も二度と見られないが、六月中旬に當たる。λ=260°Lsは18 Juneに起こり、ノアキスは歐羅巴から美國で朝方見られる。日本からこの邊りが見え始めるのは七月4日(λ=270°Ls)以降であろう。その替わり六月中旬には日本からマレ・キムメリウムが見えている。
1924年の10~14Octの五日間はリ天に恵まれたのかアントニアディが連續して觀測した期間で、接近時だからいろんな記述があるのだが、その中に12 Octシュルティス・マイヨルが朝方現れるときに「灰黄色の塊で覆われる」というのがある(ケニッセと一緒に確認)。λ=277°Lsぐらいであろう。一寸注意したい。今年なら七月の中旬である。ただ、ιは43°と深い。
先述のアントニアディのマレ・キムメリウムの黄雲については1894年の例が詳しい。10 Oct~31 Octに見られたものでフラマリオンなど多數が觀測している。ハミルトン山のバーナードもその一人で、バーナードは九月頃からウスウス感じていたようで、回復したのは28 Octであったと當時の新聞報導で述べている。22 Octのこの邊りの様子は珍奇である。ここではアントニアディに從って10 Octを採用しておくが、フラマリオンの本の第二巻のp236にはケニッセの17cmでの20 Sept 1894のスケッチがあり、これには淡いマレ・シレヌムの南にコアのようなものがあり、黄塵の可能性がある(シーイングがよかったらしいが、バーナードが7Octに見た割れた南極冠を描いているから、鋭眼でもあったのであろう)。これが源かどうかは全く分からないが、この時點はλ=285°Ls邊りである。10 Oct ~ 28 Octを採れば、λ=298°Ls ~ 308°Lsぐらいであろうと思う。今年なら19Aug (δ=7.6")
~ 5Sept (δ=8.5") 邊りであろう。
尚、この黄雲は同時にローヱルも見ていたようで、1869年の著書"Mars"の第三章で十月後半マレ・キムメリウムから始まりマレ・シレヌムへと"妙な觀測上困惑する"現象が進行するという記述があるが(p120)、以前にも觸れた通り、彼は黄雲とは思っていないようで、こんなものはありふれたもので、またcoast-linesは消えることはなかったという觀測である。だいたいローヱルは九月から十月にかけてボストンへ歸っているという「ていたらく」で、13 Octが最接近、20 Octが衝であるから、この時はフラグスタッフに戻っていたのであろうが、カンが出來ていないというべきであろう。また、バーナードは黄雲を新聞發表をしているからか可成り挑戰的であるとも言える。尚、coast-lines云々は、ccdなどで強調處理するとこの種の黄雲は落とすだろうという警告にはなる。
1973年のソリス・ラクス大黄雲は前述のようにλ=300°Lsで、今年は23 August邊りに相當するが、1973年以降パシスを遺すのみで、ダエダリアの暗斑は存在しないし、似た黄雲も起こっていない。今回も望み薄だが、ソリス・ラクス邊りは然し、1973年の宮本氏の觀測開始後もλ=300°Lsまで幾つか小黄塵が知られているし、2005年にはλ=310°Lsでソリス・ラクスに強いコアが起こっているから、要注意である。
尚、λ=300°Lsに入ると、所謂北半球起源の黄雲が發生する。CMO #289等でも述べたことだが、
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/289Note02_03/index.htm
北半球起源の黄雲の第二期はλ=300°Ls~350°Lsにあって(第一期はλ=210°Ls~230°Ls)、その幾つかは南半球に傳播する可能性があるわけである。先の2005年のλ=310°Ls黄雲もこれに属すると考えられるし、2003年λ=315°Lsに唐那・派克(DPk)氏が見つけたクリュセ黄雲もこれであったと考えられる。從って、λ=300°Ls以降、詰まり今年の八月中旬以降はマレ・アキダリウム域ウトピア域はいつも注意が払われるべきということになる。
ところで、期間としては北半球起源の黄雲が激しい時ながら、1956年や1971年と同じ様なノアキス黄雲が知られているのが1924年である。これは理査・麥肯(RMk)氏の調査に依るのだが、1924年には矢張りヘッレスポントゥスを横切る黄雲が立ち、大黄雲になったのである。この發生觀測についてはフィリップ師などの9~10December1924の觀測が嚆矢とされ、RMk氏が實際に資料を持っている(ことはMemoir以前から伺っている)。季節はλ=313°Ls頃かと思われる。但し大接近の時ながら視直徑δは10秒台に落ちていたはずである。アントニアディの本には31 Dec 1924の雲海の上にオリュムプス・モンスの孤立した珍しいスケッチが出ている。λ=325°Lsである。λ=310°Lsは今年ではδは未だ8"になっていないが、何度も述べるように8 Sept頃にやってくる。一方今年のλ=325°Lsは十月初めである。
アントニアディの本のp41には1911年の3 Novから23 Decまでの南半球を大きく覆う黄雲が存在したというチャートが出ている。これを引用する。季節はほぼλ=325°Ls~355°Lsに亙ると思う。當時は對衝前でδは17"程あったと思うが、發生時期は捉えられていない。東洋に於ける觀測が未だ無かったからであろう(日本でのチャンとした火星觀測は1920年以降)。季節を今年に合わせると十月初旬から十一月末迄となる。視直徑も申し分なくなっているので、見逃されことはないであろう。
尚、筆者(Mn)は、1879年にも、これはスキアパレッリの火星圖で南半球が極端に淡く描かれていることから、同じ様な南半球の黄雲が出ていたと考えている。南半球が全く描かれていないスケッチもある。1879年は1911年の丁度三十二年前に當たり、大接近ひとつ後の接近で南半球が好く見えた時期である。1879年は12 Novが對衝であったが(11Novには衝効果のオリュムプス・モンスがハッキリ描かれている)、スキアパレッリは1879年九月から翌年の三月まで觀測し、三十葉の完全スケッチと百四枚の部分スケッチからこの火星圖を作った。圖は、フラマリオンの本の第一巻のp332-p333に載っているが、ここでは中島孝氏がブレラから持ち帰った資料の中から半分をコピーする(左の圖をクリックすると大きな圖が現れる)。デウカリオニス・レギオの邊りが惚けてシヌス・サバエウスの形がおかしくなっているが、これは28 Nov 1879のスケッチからであると思う(スケッチはフラマリオンの本にある)。發生期日だけでなく季節も特定できないが、λ=335°Ls前後には黄雲が進行中であったことは確かで上の1911年と規模も事情もよく似ている。
以上、六月から衝迄、如何に黄雲の季節であるか見て來たが、殆ど休み無しというところである。然し、最初に述べたように、黄雲は必ずしも轍を踏まないし、閑かな年もある。しかし、もともとエネルギーの出し入れの収支のバランスが崩れたときに起こり、一回のカタストフでは平衡にならず繰り返すし、最近また均衡が崩れているようであるから、今年など注意することに越したことはない。
最後に以上を表にして掲げる。但し完全なものではない。
A |
B |
C |
D |
E |
λ=250°Ls λ=258°Ls λ=260°Ls λ=277°Ls λ=285°Ls λ=298°Ls λ=300°Ls λ=310°Ls λ=313°Ls λ=315°Ls λ=325°Ls λ=330°Ls λ=335°Ls |
Noachis Elysium Noachis Syrtis Mj Phaethontis M Cimmerium Solis L Solis L Noachis Chryse Southern H Southern H |
Aug 1956 Aug 1909 Sept 1971 Oct 1924 Sept 1894 Oct 1894 Oct 1973 Oct 2005 Dec 1924 Dec 2003 Nov 1911 Nov 1879 Jan 1925 |
b. June m. June 18 June m. July 29 July Aug-Sept 23 Aug b. Sept 13 Sept m. Sept Oct-Nov Oct-Nov e. Oct |
AO AO E,A E AO All A AO AO AO All All AO |
A: 黄雲が起こった季節
B: 黄雲が發生した場所
C: 黄雲が起こった期日ないし期間
D: 對應する2007年の期日ないし期間:bは上旬、mは中旬、eは下旬
E: その場所が見えるはずの處:略號はAO:アジア・オセアニア、E:歐羅巴、A:美大陸
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