Forthcoming 2007/2008 Mars
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2007/2008年の火星. I
CMO #325 (25 November 2006)
南 政 次、村上 昌己、西田 昭徳
00° 今回の火星の接近は、最接近が 19 December 2007 (00h GMT)に起こり、黄経衝は 24 December 2007 (20h GMT)になる。観測期間は2008年の半ばまで可能となることもあり、今回の接近は「2007/2008年火星接近」と呼べるだろう。 本稿では事始めとして、観測可能期間前半の2007年の観測ポイントを取り扱うこととする。
01° 今回の最接近時の最大視直径は、15.9秒角に達して、2005年接近の20.2秒角に比べると相当小さいが、λ=350°Ls (11 Nov 2007)以降では、2005年接近の時の視直径を上回り、新しい季節の詳しい観測が可能になる。この期間の 9 Dec 2007には、北半球の春分(λ=360°Ls)を迎え、火星の傾きも北向きで、北極雲の振る舞いや、北極冠の出現がつぶさに観測出来るのが期待される。
2007年末には、λ=010°Lsに達して、ボームのブラトーと呼ばれる北極冠融解の停滞現象(雪線が北緯58°あたりで停滞する)が始まる季節になる。火星の傾きは、2008年二月末までは北向きで、ボームのブラトー現象が起きていれば北極冠は継続して観測出来ると予想される。 ただ、この季節には北極冠の周囲に黄塵の発生することがあり、北極冠の見え方には注意を払う必要がある。
02° 衝の頃には、火星は「ふたご座」付近でループを描き、日本では地平高度は70°にも達して、天頂近くに輝く。北半球の観測者には、今接近も安定したシーイングで観測できる機会で良像に巡り会うことが期待できる。
03° 観測初期で視直径が5秒角に達するのは、四月中旬のことで、季節はλ=220°Lsほど、傾きは南に最大で、溶解途中の南極冠が観測出来る。しかし、火星は「みずがめ座」にあり、夜明け時の高度はまだ低く観測は短い時間しかとれない。 火星の赤緯が北になるのは五月末で、視直径は5.7秒角に達する。
04° 2007年度中の火星の季節は、λ=220°Ls から 010°Lsまで推移するわけで、縮小していく南極冠、山岳雲の活動、北極雲の活動などが見られる。観測始めの頃には、南半球の黄雲発生の監視、年末には、北極雲からの北極冠の出現の確認が、観測の対象となる。
05° 南極冠については、縮小していく大きさの変化と、五月頃から始まる経度30°方向への偏芯に注意が必要となる。九月始めには小さな残留極冠になり、その頃から傾きは北向きになり南極冠の確認は難しくなる。しかし、その後も、南極フードの始まりの確認のために、南極域に注意を向けることが必要である。
06° 一方、北極域については、九月より傾きが北になり見易くなってくる。既に九月1日にはλ=306°Lsに達していて、マレ・アキダリウムに懸かる北極雲には、ドーズ・スリットが見えるようになっている。2005年のわれわれの一人(南)のリック天文台での観測ではλ=310°Ls、1990年の観測ではλ=320°Ls付近で観測している。ドーズ自身の観測はλ=340°Ls付近の事であり、観測出来る機会は、かなり続く。強調しておきたいのは、今回の接近ではλ=350°Ls過ぎからが北極雲の晴れ上がりの期間で、北極雲からの北極冠の出現が垣間見られる良い機会であるということである。
07° また、この期間(λ=310°〜350°Ls)に関しては、Forthcoming
2005 Mars (9) (CMO#305 Ser2-0088p)で述べているように、北半球起源の黄塵発生が予想される第二の期間であり、監視が必要である。これらの黄塵は、時に赤道をまたいで南半球に大規模な共鳴黄塵を発生させることがある。(クリストフ・ペリエ氏の論文(CMO#325)*1 、2003 Mars Note(2) (CMO#289)*2 参照)
ペリエ氏の指摘では、2003年には、ドン・パーカー氏がλ=315°Lsで、2005年には他の観測者がλ=310°Ls付近で、この現象を捉えている。2007年にλ=310°Lsに達するのは、九月7日のことで、視直径δ=8.4"、中央緯度φ=1°Sであり、その後はδ、φ共に増加して、十一月19日には、λ=350°Ls、δ=14.0"、φ=7°Nになる。この期間の途切れない監視が望まれる。
*1) http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO325.pdf
*2) http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/289Note02_03/index.htm
08° 北半球の山岳雲に関しては、λ=150°〜200°Ls頃に活動のピークがあり、オリュムポス・モンスなどの午後の雲の活動は2007年三月中旬ころ迄で終わってしまう。しかし、南半球に位置するアルシア山の活動だけは、第二のピークがあり、λ=300°Ls頃になる八月の終わり頃には再び活動が見られる。この期間の観測時には山岳雲の様子を毎回確認してほしい。
オリュムポス・モンスは年末から年始に再び明るく見えるようになる。これは衝効果で位相角の小さくなったときに、地表の反射で明るく見える現象であり、他の山々も明るくみえるだろう。アジア・オセアニア地域ではオリュムポス・モンスの中央通過がクリスマス頃の深夜(25 Dec 03h JST)に予想される。この時に正確な中央通過時を計ってみるのも意味がある。
09° 劉佳能効果(Canon LAU Phenomenon)*3と名付けた、朝方のアマゾニス地方(Ω=150°W~160°W,Φ=00°S~10°S)での朝霧の脱凝縮現象も注目される。これは既にCMO#279で取り上げているように、2003年に劉 佳能氏(Canon
LAU, 香港)が、λ=257°Lsで捉えたもので、朝霧の中にワインカラーの脱凝縮領域が見えているという現象である。
この現象は2003年には、λ=250°Ls〜300°Lsの期間で観測されている。2005年には、ビル・フラナガン氏(Bill FRANAGAN,、米国)が、λ=328°Lsで捉えており、長い期間の現象と考えられる。2007年では六月頃からこの期間となり、λ=330°Lsに達するのは十月中旬のことで、今期も観測されることが期待される。とはいえ、接近前半では位相の関係で朝方が観測出来ず、位相角が小さくなるのを待たなければならない。λ=330°Ls以降に観測されれば貴重な記録となる。
*3) http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/279OAA/index.htm
10° 今年度の火星は、年のかわった2007年一月始めでは、火星はまだ視直径は4秒角に達していない。一月中は「へびつかい座」から「いて座」へと動き赤緯は最南となる。北半球では日の出時には南東の空低く、光度は1.5等で明るい木星の右下にあるが目立たないだろう。日本では、二月末になると日の出時の高度は20度ほどになる。
11° 三月~四月でも日の出時の高度は低く、視直径が5秒角を上回るのは四月中旬のこととなる。五月になるとλ=230°Lsに達して、傾きもφ=25°Sと最大になり、南半球が大きくこちらを向いている。既に南半球は黄雲の季節となっている。2003年にはλ=215°Lsで、マレ・セレペンティスに発生していることもあり、視直径はまだ小さいが監視が必要となる。
12° 2007年には火星は明るい惑星との接近はない。四月14日には火星食があり、東アジア・南アジアからインドにかけて見ることができるが、日本からは昼間の出来事で、観測は難しい(δ=5.0" 月齢26.0)。また、十二月24日にも火星食が起きるが、こちらは、カナダからヨーロッパにかけての現象になる。
星雲・星団との接近は、一月にいて座の M20(三裂星雲、17日) M8(干潟星雲、17日) M22(球状星団、28日)に接近するが、朝方の低空の現象である。 また、九月17日には、おうし座の M1 (カニ星雲)と、十月3日にはふたご座の散開星団M35と接近する。九月~十月には北半球では火星の高度がかなり高いという証左である。
(To be concluded in mid-2007)
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