Forthcoming 2005 Mars
(9)

北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)

南 政 次Masatsugu MINAMI


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2005年の觀測の指針に1990年を參考にするのは好く知られたように火星の接近の周期に15年というのがあるからで、このことは周知である。但し、回歸がキッチリ15年ではないことも好く知られたことである。

 この回歸周期については、もとは『天界』65 (1984) p187 に述べたことで(これは筆者のオリジナル)、要は、いま、m, n  を整數として、有理數n/mを無理數7.390...に近いように選ぶことが出來れば、2n+mが好い回歸周期になるというものである。これはCMO#106 (15 June 1991) p910でも累述したので、この英文の方はこのWebに再録してある

 

  非常によい近似は133/18=7.388でこれは2×133+18=285で、285年周期の以上のものは數百年單位では見つからない。15年周期は7/1=7.00017年周期は8/1=8.000で、實は皆それらしいものは、78の間に入る。そして7.390に近いもの程良いわけである。79年周期は37/5=7.4007.390に近く、なかなか好い近似であることが解る。

  今回は少し近似が悪いが、7.333を與える66/9を採り上げる。周期は141年である。つまり、2005-141 =1864年である。

 この年は、23Novemberが最接近で、最大視直徑は7.5秒角であった。從って、30Octが最接近の2005とは稍異なっている。實は7.444を與える67/9143年周期を意味し、1864年に加えると2007年となり次の接近にも近いことが分かる(2007年は18Decが最接近)。つまり、1864年は2005年と2007年の中間型と言えるわけで、此處で述べることは2007年にも參考になることである。

 1864年と1990年の差は126年だがこれは59/8 = 7.375から出て來て、こちらの方が好い近似であるかも知れない。つまり1864年に近いのは2005年より、1990年であったということであろう。勿論より近いのは、79年後の1943年であった筈である。

  尚、141年周期の66/922/3でもあるから、2×22+347年、つまり、15+17+15の再歸と變わりない。つまり、1958年の回歸と見るようなものである(1958年は8Novの最接近、最大視直徑19.2秒角であった)

 

 というわけで、今回は少し近似の好い1864年と近似としては最低の1990年を比較に擧げて、特に北極域の活動への注意を促す。

  因みに、1990年の最接近日20Novの季節はλ=336°Lsで、1864年の最接近日はλ=341°Ls程度であったと思われる(1958年はλ=320°Ls)。今回は何度も記述するが、λ=315°Lsである。

  これらの接近は必ずしも北極域を觀察するのに中央緯度の點からは適切ではないのであるが、然し、最近(A) λ=210°Lsからλ=230°Ls及び(B) λ=310°Lsからλ=350°Lsの期間に北極域發の黄塵の發生があって、時に赤道を越えるということが知られて來ているので、特に(B)期間の觀測に好い機會だということになる。これはクリストフ・ペリエ(CPl)氏の意見だが、2003年に見られた三つの黄雲は北極域から發したものという可能性がある。特に唐那・派克(DPk)氏發現のDec2003黄雲は上の(B)に属するもので、今回の範疇に入る。((A)期間に入るものは1986年等にも注目されている)。

 特に(B)期間の北極域の黄塵の動きについては2002年一月から九月までのMGSの週刊報告

    http://www.msss.com/mars_images/moc/weather_reports/

を丁寧に見ると好い。例えば、λ=315°Lsのクサンテ、λ=328°Lsのクリュセ、λ=342°Lsのウトピア、λ=350°Lsのクリュセの黄塵などが目に附くであろう。

 

  今回2005年は、λ=310°Ls21Octにやってくる。既に視直徑δ19.9"であり、λ=350°Lsは來年の年初であって、未だδ12秒を保っているから、觀測の好機であることが分かる。當然、マレ・アキダリウムの見える範囲、ウトピアの見える範囲は注意を向ける對象になる。

  實は北極雲の活動が好く觀察されたのは1864年であろうと思う。この年はフラマリオンのリストによると、GREENBANKSWILLIAMSKAISERDAWESSECCHI等の名前が見えるが、アントニアディはカイゼル(F KAISER)がマレ・アキダリウムの完全に白雲に包まれる様子を觀測していることを記述している(序でに、同じ處で、アントニアディは1990年の79年前の1911年の7Novにマレ・アキダリウムが北極雲に覆われている様子を傳えている(Fig100))

 

 ドーズ(William R DAWES, 1799-1868)のスケッチについては、未發表のものも含めて、理査・麥肯氏ら(Richard J McKIM and Robert A MARRIOTT)JBAA 95 (1988) No 6 p29416枚全てを發表した。これまで知られていた一部はリトグラフ版であったが、この論攷では写真版が初めて出されたわけである。フラマリオンによればDAWESのスケッチはKAISERと並んでこの年の觀測では秀逸とされ、當時評判を取ったようである(SHEEHANThe Planet Mars, 1996參照)

 これらのスケッチは北極雲を好く捉えている點でも重要である。20Nov26Nov(λ=343°Ls)ではシュルティス・マイヨルの北で捉えているほか、13 Nov15 Nov(λ=337°Ls)ではマレ・アキダリウムの北で北極雲を描冩している。15Nov 00:00 GMT(新システム)のスケッチ(δ17.3"φ=4°S)は既にCMO#106でリトグラフ版を引用したものであるが、此處で引用するのは理査・麥肯氏の好意で送っていただいた写真版である。DAWES自身も14Nov(12h)に北極近くに易々と"the short and rather thick dark line"が見えたが、12Novには見えなかったものだと記述しているようであり、理査・麥肯氏達もこれはマレ・アキダリウムの南部が北極雲から一時的に抜けたものだと指摘している。こうした北極雲の活動はこの時期特有のものであり、同時に先の(B)期間に入るから、黄塵活動を近くで起こすことも考えられる。DAWES20cmクック鏡を用い、258倍というから餘り高くないが、シーイングによっては155倍に落とすこともあるようで、随分低い、というか、視直徑の大きな時しか觀測しないということがあろう(眼鏡を掛けたドーズの鋭眼は有名であるが)

 

 DAWESのこのスケッチにはアリュンの爪(またはドーズの二股灣)が明確に捉えられている他に、マルガリティフェル・シヌスからニリアクス・ラクスに奔るヒュダスピス・シヌスとヒュダスペスが描かれている事に注意する。これは1858年から1871年まで觀測された様で、1858年のゼッキSECCHIの觀測が最初で、1862年にLOCKYER1964年にKAISERDAWESが觀測したようである。ヒュダスピス・シヌス(アントニアディ命名)はヒュダスペス運河(スキアパレッリ命名)の河口という趣だったようである。この一時的な暗線は當然、北極域起源の黄塵に因って齎されまた消失したと考えられる。ただ、當時はこうした聯關の觀測はないであろうと思う。

   マレ・アキダリウム周邊が重要であることは勿論だが、然し、過去に遡ると、ウトピア周邊の永年變化も激しく、これらは當然、北極域黄塵の仕業に因る筈である。ノドゥス・ラオコーンティスの發生は1946年に觀測されているが、黄塵活動のあったのは1943年であった可能性もある。ただ、この年は觀測の困難な時機に相當した。80年代に入って現在の様な形に整地されてきたが、案外とその移り變わりは把握されていない。1958年は兎も角1973年等は黄雲活動が激しくてこの時機を逸していると言ってよい。SECCHIがシュルティス・マイヨルを「蠍」と呼んだことは有名だが、これは北に流れるニロシュルティスを含んでいる。この邊りも黄塵によって相當變化を蒙っているのである。DAWES26Novのスケッチ等にもニロシュルティスは北極雲と連繋して描かれている。

 然し、何れにしてもこの地方、この時機の北極域の觀測は困難な要素が多く、從ってこれ迄データが揃っていないのであるが、今回の様な機會に挽回してゆくことが重要であろうと思う。特に北極雲の活動と連繋しているであろうから、北極雲がらみで觀測することが重要であろうと思う。

  ここで、(6)で觸れた1990年の例に戻る。引用するのは22 Oct 1990のもので、ここでも北極雲に透けてマレ・アキダリウムの一部が見えている。状況はδ=16.1"φ=4°SDAWESの場合と似ているが、季節はλ=321°Ls で地球日にして一ヶ月ぐらい早く、逆に言えば似たような状況は可成り長い間起こり得るということである。1990年の場合もこのように見えたのは一日だけであって、前後の觀測を見ると、(例えば

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/1990oct_nph.gif

を見られたい)動きは複雜で、このスケッチから見える單純さは寧ろ珍しいのであるが、實は複雑な動きこそ北極雲の活動の本領であろう。

 

  尤も、今回はφ(B)期間中15°Sを下らないから、可成り北邊の觀測が難しくなる。ただ、前半は視直徑が大きいので幾らか補えるかというところである。


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