Forthcoming 2005 Mars
(14)
λ=320°Ls〜360°Ls頃の南半球水蒸氣縁雲とヘッラス
南 政 次Masatsugu MINAMI
1977年のヴァイキンの結果の中に、一寸唐突と思われるものが幾つかあって、一つはλ=270°Lsという南半球の夏至に南半球に水蒸氣が高密度で觀測されていること、もう一つ關係はあると思うが、λ=330°Ls邊りからλ=360°Lsに掛けて南極高緯度から次第に水蒸氣が北に降りてゆくことである(これに就いてはCMO #108 -25Aug1991-で採り上げた。B JAKOSKY et al, Icarus
73 (1988) 80、J POLLACK et al , Icarus 50 (1982)
259等に據る)。
ここで採り上げるのは、多分後者と関係することではないかと思うが、1990年のλ=344°Ls頃から(既に衝は過ぎている)南極冠から赤道帶に掛けて朝縁に霧の塊が幾つも見えていたことである。これについてもCMO #108 p933のNoteで報告してあるが、要約すれば、シヌス・サバエウスが南中する頃から、ノアキスが朝縁を通過し、ヘッラスが朝縁にある頃まで顕著な朝雲の塊が二つ玉、三ツ玉として並んだことで、當時の3Decから10Decまでの筆者Mnの65葉、6Decから10Decまでの中島孝(Nj氏)の29葉の觀測に基づいている。然し、同時に日本國内では多くの觀測があり、1Dec(λ=342°Ls)では、岩 崎 徹(Iw)氏がω=322°Wでの眼視觀測、ω=336°Wの阿久津富夫(Ak)氏のB光では高緯度とマルガリティフェル・シヌス上空に冩っている。3Decには宮崎勲(My)氏は三組の写真を撮り、ω=320°Wでは南極域の雲塊は二つに分かれ、ω=342°Wではマルガリティフェル・シヌス上空のものを加わって三ッ玉になっている。この朝縁雲塊の觀測者としては、上の三人(五人)の他、松本直弥(Mt)氏、伊舎堂弘(Id)氏、西田昭徳(Ns)氏(RD100)、村上昌己(Mk)氏、中島守正(Nk)氏などの觀測が擧がっている。Mt氏は9DecにはRD100でω=246°W、256°W、262°W、272°W、281°W、306°W、316°Wと追跡した。
日本からは10Dec(λ=347°Ls)あたりが最後になるのだが、ω=250°W邊りからヘッラスの南に雲塊が顕れ、そのまま濃くなり朝縁に殘るというパターンで、ω=310°W邊りでは二ッ玉になって行くが、デプレッシオネス・ヘッレスポンチカエが漆黒のように濃い爲、雲は二つに分裂してみえるのであろうと思う。このときのヘッラスの様子も異様で、ヤオニス・フレトゥムに沿っては明部の流れがある。
尚當時の外國でB光を撮影しているのは唐那・派克(DPk)氏だけであるが、これより前24Nov (λ=334°Ls)のカラー写真では稍認められる。DPk氏の一ヶ月後の24Dec(λ=254°Ls)ではTPのB光(B390)でもヘッラスの南に出ている。31Dec(λ=358°Ls) ω=280°W 邊りではコアはDec上旬より北へ降りた感があり、これはVikingの結果と合っていると思う。つまり季節變化である。
この頃は日本以外に集中した觀測は集まらなかった爲にノアキス中心になったが、水蒸氣の分布は南半球にグローバルに見られるであろうから、今回はもっと完璧なデータが集まると期待される。
一方、上で述べたヘッラスの異型の現象だが、これが同時に起こっているので、もう少し詳しく述べる(CMO#113p989にNote (3)として纏められている。左図はそのp989の部分でヘッラスの模式圖)。これは23Oct(λ=321°Ls)1990ω=303°W、313°Wで氣附いたことで、ヘッラスの北部はいつものように明部の「溜まり」になっているのだが、これとは別に、ここからヤオニス・フレトゥムに沿ってヘッラス内を棒状に南に明部が延びて異様な形に見えたのである。或いはゼア・ラクスから東南が暗くなっているということもあるかも知れない。「溜まり」は白色というよりもピンク色を帯びている。勿論異様なのは南に延びる明帶である。この現象は同時にIw氏やAk氏、Mk氏の觀測にも顕れている。あとで、調べたところでは、既に13Oct(λ=315°Ls)1990
ω=317°WのDPk氏の畫像にも表れているから、上に述べた縁雲の縁雲の現象より早いかも知れないので注意する。扨て、日本からよく観察されたのは十二月に入ってからである。1Dec(λ=342°Ls)には筆者の他Iw氏やId氏が觀測し、Iw氏によるとヘッラスは夕方に來ても明るくならない。写真ではMy氏は3、5、6、7、8Decでヘッラスを聯射し、Ak氏も5、6、7、8Decと撮っている。特徴はB光ではヘッラス近邊はさほどの映りはしないことで、縁雲とは相當に違う。一方R光ではMk氏の10cmによる8Decω=291°W、301°WのTP写真でも、北部の溜まり、棒状明帶も明確である。Mt氏の9DecのRD100でも白雲系は好く出ているがヘッラスは少し曖昧である。但し、R光像でのヘッラス全體は然程1988年と変化しているわけではない。
唐那・派克(DPK)氏は既にもっと視直徑の大きい状態で既に、19Nov、20Nov、23Nov1990などでこの現象を捉えている。
棒状現象は明らかに縁雲現象と聯動しているにもかかわらず、Bには顕れにくいというのは面白いことで、今回多くの觀測の集まることを期待する。