新・歳時記村 (1) 

年年歳歳花相似

 

 今年は季節が早く進んでいるせいか、寮の庭の夏椿の白い花が六月の初旬から咲き始めた。三年前に藤沢に戻ったときに新しく植えたもので、細く伸びた株立ちの樹型がなかなか良く、花の季節の訪れを例年楽しみにしていた。連日つぼみが開く数が増えていき、鮮やかな緑色の薄手の葉とのコントラストが梅雨の晴れ間の光に映えて美しい。

 開いては翌朝には落花してしまうため、樹下は日が経つにつれて白い絨毯を敷いたようになるが、茶色く朽たって行く様は、盛者必衰に形容される沙羅双樹から、別名「ひめしゃら」と呼ばれるのに相応しく思う。

 

 廿年前に独身寮の管理人として藤沢に赴任して以来の住み慣れた場所を、この度移ることとなり、此の場所で過ごした歳月の間の様々な出来事を考えると感無量にもなる。黒点観測を始めたのも、『火星通信』に参加したのもこの地に来てからのことであり、娘もここで誕生している。この間にはハレー彗星も戻ったし、百武、ヘール・ボップの二つの大型彗星も出現した。火星の大黄雲も木星への彗星衝突も藤沢で観測した。しし座流星群の大出現はまだ耳に新しいところである。

 

 高校生時代から始めた天体観測だが、二十代には無頼の時を過ごし中断していた。そんな私を心配して下さっていた大崎正次先生が『続日本アマチュア天文史』の火星の項に観測者として私の名が挙げられているのを見て大いに喜ばれ、「此処までやるとは、思ってもいなかった」と仰有られたことがあり、面目をほどこした。御紹介下さった著者の南先生には大変感謝している。その大崎先生も今は星となってしまい、私自身も歳を重ねて、頭も薄くなってしまった。

 

 来年の夏椿の花は誰が愛でることになるのであろうか、タイトルの漢詩は「歳歳年年人不同」と対句をつくる。唐詩選から劉庭之作「代悲白頭翁」中の一句である。跡地が再開発にあって、「已見松柏摧為薪」ではないが伐られてしまう事がないのを祈っている。

 村上 昌己      

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