アンタレス研究所･訪問

　§９: 真夏の太陽●微細�K点と粒状斑の識別をつけるために､写眞館のように頭からすっぽりと厚い布を被り、数分間投影像を見続けて確認する。夏の暑い日、これは地獄で、汗が観測用紙の上にぽたぽた落ちる。●今は昔のことだが、三十年から二十五年ほど前、6cm屈折を用いて毎日太陽�K点を追っていた。倍率60倍、10cm投影という方法である。夢中になって顔を近づけてスケッチを取っているうちに前髪を焦がしたりする。●大きな�K点が現れると、接眼レンズにサングラスをはめ込み、ただでさえ口径の小さい望遠鏡を、もうひとまわり絞ってスケッチを試みた。うっかり口径を絞らずに装着したサングラスが、一瞬のうちに音を立てて割れてしまったことも再三あった。●当時の観測報告を見ると1976年の一月の観測日数は31日、そのうち28日間すべて粒状斑の確認があり、晴天が続いていたことが伺える。この月の平均相対数Rは13.4。但し北半球の�K点出現数は皆無であった。この頃太陽活動は第20周期の終わりの極小期で、1968〜70年のピークから徐々に降下してくる活動の変化に興味を抱いていたためであろう、年間観測日数の記録を見ると1974年は231日、75年は237日になっている。相対数と群型変化中心の観測なので缺測ができず、遠出もままならず、新幹線で太陽�K点の観測のためにトンで帰るということもあった。後に視点を変えて、ピンポイント観測に変更してから、缺測のobsessionから漸く解放された。

●このたび火星の集中観測のため沖縄を訪れた時、CMO-OkinawaのHg氏から�K点観測のためにD76mm f500mm屈折赤道儀をご配慮いただいた。たいへん扱いやすく､良像の得られる優れた望遠鏡で、Hg氏はこの口径に合う対物フィルターも工作してくださった。ドイツ製のBaader Astro Solar Safety Filmというもので、S&T誌Sept2000号に紹介されている。多分QUARRAさんが日本に輸入されたものと同じであろう(#235 p2813)。●アイピースに付けるサングラスは危険が伴うという理由でPL法により姿を消し、直視観測が奨励されなくなって久しいが、細部の観測になると投影像はとても直視像に敵わない。金属メッキした対物フィルターに比べるとこのフィルムはいささか心許ないが、実際見ると白色に近い好感の持てる色合いの太陽を再現する。●滞在中の30 July 2001には、たまたま短時間のうちに�K点領域内に白斑の急速な変化が起こる興味深い現象に出会って、天頂のぎらぎら太陽のもと、数時間観測するはめになった。●陽射しの強い沖縄での太陽観測は超地獄であるが、しかし、如何にも真夏の観測という感じがする。Hg氏に用意していただいた大きな麦藁帽子着用だが、ときどき休憩をとらなければならない。こういうときはWk氏にセットしていただいたパラソルつきテーブルに避難するのであった。好天続きのもと久しぶりにobsessionなしに、毎日連続して太陽を観測できるという愉しい経験であった。(Ts)

････『火星通信』＃250（25 August 2001）

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