1996/97 Mars Sketch
(14)
from CMO #211 (25 January 1999)
--濃紅領域:青色光でのソリス・ラクス、ニロケラス等--
・ はじめに・
『火星通信』では所謂ブルーヘーズとかブルークレアリングを觀測の對象として扱ったことはない。この點については#128
p1171 (Jan 1993)でお断りしている。要約すれば、火星の地面そのものがブルー光を出していないと見倣すのが正當で、所謂ブルークレアリングは白色の雲や霧の存在が暗色模様を際立たせる場合と考えた方が好いというものである。濃いWr47による觀測は混亂を齎している。 文獻を細かく調べている譯ではないが、最近では何處でも本氣でブルークレアリングを議論しているところはないと思う。 然し、『火星通信』でブルー光による觀測の意味を否定したことはない。特にブルーフィルターは写真やCCD撮影には必需である。それどころか、B光のない写真などは殆ど意味がない。三色分解とは別に、青色光は白雲などの検出に効果的だからである。・眼視においても矢張り短波長光の觀測は有効であろうと思われる。然しWr47の様な濃いフィルターでなく淡いもので充分であろう(後述)。 然し今回は眼視での青色光での觀測を奨励するというのではなく、総合光(Integrated light)でも、青色光に影響された觀測が存在し得るということを指摘・強調したい譯である。
HST images on 30 March 1997 (
left : blue right : red)
・赤黒い濃紅領域・
ところで、ブルー光の像が普通光に依る像と相當違う事は#191(May 1997)の最後の頁のHSTの比較圖で明確である。これは30Mar1997(097°Ls) ω=094°Wの像(20May配信)で左が青色光、右がカラー像の白黒版である。興味ある畫像なので、ここでもう一度同じ像を再現するが、今回は更に差を出す爲に、右側を赤色光からのものとした。 一方、#188p2050で記述したような“赤黒い領域”のことを思い出してほしい。所謂暗色模様とは別に、また白雲の白さとは別に、濃い赤色や珊瑚色に見える黝い濃紅領域が區別されるのであるが、實はこれが菫色光では暗く冩る部分なのである。赤色光では明るくトンでしまう。#188の範囲では、総合光で肉眼でこれが觀察出來るということであるが、もしブルー光で撮影すれば、當然赤黒い處は濃く冩る。
・ホヰットビィ氏のスケッチ・
・ホヰットビィ(SWb)氏の17Apr1997(105°Ls)ω=095°Wのスケッチが興味深いので引用する。このスケッチはWr21(橙)とWr80Aで觀測したもので、後者は青色系の色變換フィルターだが、然程濃くはない。筆者は似た日本製のものしか使ったことはないが、ミレッド變換値(註)-131のフィルターで、例えば3200Kを5500Kに變換する(タングステン燈で昼色用カラーフィルムを使用するとき、この青色フィルターを使う)。SWb氏のスケッチは明確に“赤黒い”領域を暗く描冩している。當然、青色系の効果である。 更に、このスケッチのLCM=ωは上のHST像のそれに近い事も比較に好都合である。テムペに白雲があるのも同様である。
・ ソリス・ラクス・
HSTのイメージに戻って、もう一つ興味深い點を指摘すると、ソリス・ラクスの形が青色光と赤色光では違っているということである。ソリス・ラクスの形は正確に言えば、赤色光のが正しい。青色光の似非ソリス・ラクスは、實はソリス・ラクスの南側の濃紅部分が濃く冩り、北側は靄っている爲に、南に移って茄子型にそれらしく見えるものである。 ここで指摘したいのはその違いではなく、實は肉眼の総合光による觀察でも、青色光の似非ソリス・ラクスが觀測される可能性が充分にあるということである。“赤黒い”領域は、色彩が明瞭であるようなシーイングの時は確かに“赤黒い”のであるが、並のシーイングでは寧ろ薄暗く見えている。しばしばガンゲスやデウテロニルスが暗帯として捉えられるのもその事に依る點は再三指摘した。 #201 p2247紹介のFig7(1982年)もω=092°Wであって、引用のSWb氏のスケッチに對應するのであるが、フィルターは使っていない。 更に、#201 p2243の伊舎堂弘(Id)氏のスケッチや、 #209 p2357の中島孝(Nj)氏のスケッチでのタルシス山系の黝い斑點が暗斑としてフィルター無しで捉えられるのも、肉眼が青色フィルターの機能を持っているからに他ならない。白雲が肉眼で容易に捉えられるのも同じ理由による。 #188の模式圖は25Mar1997の筆者のスケッチに基づいているが、ここでのソリス・ラクスも寧ろ青色光のソリス・ラクスに近いかも知れない。タウマジアには靄があったから、その可能性が強い。
・ニロケラス・
マレ・アキダリウムは描冩の難處であるが、ニロケラスについて、特にHST像のそれとズレを感じたことはないであろうか。これも多分に、ニロケラスは本來“赤黒い”暗帯である爲ではないかと思われる。これに対しイダエウス・フォンスなどは暗色模様である。
マレ・アキダリウムについて、シーゲル(ESg)さんのスケッチが問題になったことがあるが、これはESgさんが、特別な短波長系の視覚を持っている(長波長に強い)爲に、淡い白色帯などを簡單に検出するからだという可能性がある。肉眼に依る觀測は可成りの幅廣い波長領域を捉える爲に、所謂カラー像などとは違った模様を検出することもあり得るということは考えておくべきである。
・おわりに・
この項は青色光觀察の奨励ではないことはもう一度強調しておく。フィルターの効用は認めるし、奨励もしたい(SWb氏の例は好例)が、肉眼の能力は、可成りの範囲で、青から赤へと亙っていて、偏った写真などより幅廣いことを強調・確認したいわけである。
(註) ミレッド(mired=micro reciprocal degree)値は≒1,000,000/色温度で定義される。3200Kは mired=313、5500Kは mired=182。182-313 =-131。
(南 政 次)
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