新・歳時記村 (8) 

富 士 暮 色


 

 ★☆関東平野からは空気の澄んでくる冬になると、冠雪した富士山が良く見える。富士山は眺める山で登る山でないとよく言われる。季節の写真として例年新聞紙面を飾る。現在では都心からは高層ビルに上らないと見えないのだろうが、今年の正月には東京の友人から富士山遠望が添付された新年のメールが届いた。横浜や藤沢からは距離が幾分近いだけに富士は大きく見えて、散歩の途中で西に開けたところではよい眺めが得られる。夏でも透明度の良い日には、夜の登山道の明かりがジグザグに走っているのが双眼鏡で分かる程である。★☆この年明けに近所の高台に登って暮色の富士を眺めた。夕日は箱根連山方向に沈み、左手には伊豆半島の山並みも見える。手前の丹沢山塊に邪魔をされることなく主役は左右に大きく稜線を引いて低いところまで見え、雲がやや棚引いていたが見事な姿だった。丹沢の右奥に雪面を落日に光らせた甲州方向の高山が見えたのも新発見だった。★☆私の体験では八ヶ岳や南アルプスからの遠望も良いが、静岡県の田子の浦辺りから見たのが圧巻であって、海岸からの高度差もあろうが、万葉人が歌に残したのも納得できる威容のある姿で迫ってきた。ただし、私としては暮れていく西空に残るシルエットの富士山を好ましく感じている。関東平野からの姿が馴染み深いからであろう。
★☆
九段高校時代の天文部の部室からも良く見えた。当時完成したばかりの富士山頂レーダードームを10cm屈折で確認したこともあった。寒い中で木星の出を待ちながら、菫色に変わっていく空と共に連日眺めていたことも思い出す。私が漸く惑星観測が面白くなってきた頃の話である。

村上 昌己 (Mk)      

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