96/97 report 002

1996/97 Mars Observation Reports

-- #002 -- 16 Sept. - 15 Oct. 1996


─ OAA MARS SECTION ─ 南 政 次 ─
♂・・・・・・・・今期二度目の報告である。16 Septから15 Octの一ヶ月間で、火星の季節は 010゚Lsから024゚Lsまで進んだ。北極冠は全貌を顕にしている状態で、中央緯度も16゚N から21゚Nと上がって來た。然し、視直径は4.6秒角からやっと5.1秒角になったところ である(今期の最接近は20 March 17hで視直径は14.2秒角まで回復する)。現在欠具 合(位相角)も29゚から33゚と深くなっている。位相角はこれから未だ大きくなる。

♂・・・・・・・・九月20日以降次のように観測報告を頂戴した。

  • HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk) 箕輪、長野 Minowa, Nagano, Japan 4 Drawings (27 Sept; 5, 12* Oct) 360×16cm spec / 340, 400× 20cm refr
  • ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha,Japan 1 Drawing (2 Oct) 530× 31cm speculum
  • MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn) 福井 Fukui, Japan 25 Drawings (18, 21, 24, 27 Sept; 1, 5, 11, 12 Oct) 340, 400× 20cm refr*
  • MORITA, Yukio 森田 行雄 (Mo) 廿日市 Hatsuka~ichi, Japan 8 B&W Photos (3, 4, 10, 14, 15, 18, 22, 26 Sept) f/100 25cm spec TP2415
  • MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk) 藤澤 Fujisawa, Japan 4 Drawings (11, 12 Oct) 340, 400× 20cm refractor*
  • NAKAJIMA, Takashi 中 島 孝 (Nj) 福井 Fukui, Japan 10 Drawings (21, 27 Sept; 5, 12 Oct) 340, 400×20cm refractor*
  • NIECHOY, Detlev デトレフ・ニーコイ(DNc) ゲッティンゲン Gottingen, Deutschland 3 Drawings (19, 25, 26 Aug 1996) 225, 229, 330× 20cm
  • SCHMUDE, Richard W, Jr リチャード・シュムード (RSc) ジョージア GA, USA 1 Drawing (12 Oct) 380× 51cm speculum 
  • WARELL, Johan ヨハン・ヴァレッル (JWr) ウップサラ Uppsala, Sweden 4 Drawings (1 Aug; 17, 25  Sept; 3  Oct) 250,430×36cm refr/ 400, 330× 16cm refr 
*福井市自然史博物館天文臺 Fukui City Observatory

  ♂・・・・・・・・18 SeptはHSTが火星を狙う日とされ、一週間前にJim BELL氏からCMOに前 触れが入り、筆者も含めてMk氏よりalertが出され(#179p1907参照)、 Mk氏やNr氏、Id 氏、Hk氏、 或いは阿久津富夫(Ak)氏なども待機されたようだが(Hg氏にはFAXが不通で あった由)、不成功で、今のところ報告を受けた限りでは、広島の森田行雄氏(Mo)と筆 者だけのようである。
HSTは18:26GMTから観測に入り、WFPC2は20:01から20:51迄作用 したようであるから、丁度日本からは好都合であった譯である(19hGMTにはかなり高く なっている)。その内20:25GMTにLCM=165゚Wとなった。既に報告の通り、筆者はこの時 点も含めて四回観測した。然し、視直径は未だ4.6秒角と小さく、これは儀式みたいな ものである。ただ、この日は少なくとも関西から北陸にかけて、好天で、火星も可成 りのイメージで、北極冠は輝いて見えた。タルシスも夕端で白く見え、南端もやや明 るい。HSTでは黄塵が捉えられている由だが、もちろんこの視直径での肉眼での確認 は無理で、寧ろ、肉眼では北極冠を取り巻く暗帯が太く巡っており、LCM=154゚Wではプロ ポンティスTがその先に入ってきているらしく見えた。黄塵はその北にあったわけで ある。季節は011゚Lsであるから、北極冠は出たばかりであろう。
唐那・派克(DPk)氏の同日の良質のCCD写真 (47kb)ではLCM=017゚Wで、北極冠を大きく上回る北極雲を冩している。 こちらのMo氏は20:07GMTより、20:22GMT迄数多くTP写真を撮られたが(Mo-006B)、流 石視直径の所爲で北極冠等も明確には出来なかった。ただ、20:22GMT(LCM=164゚W)のR 光は像が良い。


♂・・・・・・・・・・最近のデータを調べると、1994年の場合、プロポンティスTを肉眼で分 離可能になったのは、視直径δが7.4秒角まで快復したときであって(筆者の場合10 Nov 1994 LCM=180゚W)、これもシーイングの點で僥倖に入る部類であった。015゚Lsで 季節はそう違わないが、既に北極冠のダークフリンジは濃く出ていた(CMO#151p1493)。  HST發現の黄雲がどういう状態か詳細は判らないが、 55゚N〜70゚Nと言うから北極冠 の外側を覆っていることは確かだろう。1994年には續いて伊舎堂弘(Id)氏が14 Nov (017゚Ls)LCM=169゚W、183゚W、16 Nov(018゚Ls)LCM=162゚W、17 Nov(019゚Ls)LCM=157゚W等 で、プロポンティスTの検出と共に、その北に明るい靄状のものを観測しているので、 これも今回のHST観測のものと重なるかも知れない(CMO#151p1497)。また、ホヰトビ ィ(SWh)氏は既に3 Nov 1994(012゚Ls)で北極冠の朝方が二重になっているのを観測し ているが(CMO#151p1493,1495)、これらも可能性がある譯である。同じ様なこうした 光景は、視直径の大きいときには充分検出可能であり、例えばδ=13.1"の時4 Dec 1992(006゚Ls)等にId氏やNj氏、筆者他によって見られたもの(Mnの場合LCM=130゚W等) が候補に挙がる。これはテムペの後方を北極冠の暗線に沿って東西に恒常的に横たわ るものであった(CMO#126p1148)。尚、21 Dec(014゚Ls)には唐那・派克(DPk)氏のカ ラーCCDがあるが(『天文年鑑』1994年版参照)、これのプロポンティスTの北に出て いるのは白雲である。

♂・・・・・・・・・扨て、この一ヶ月の観測であるが、日本からはプロポンティスTの邊り から以東、シュルティス・マイヨル邊りまで觀察された。Hk氏は27 SeptLCM=074゚Wで 夕端のマレ・アキダリウムを捉えているが、北極冠/北極雲の判断は付かない様であ る。同時刻福井では已に北極冠と観測している(016゚Ls)。Id氏の2 Octの観測はLCM= 038゚Wで、マレ・アキダリウムが正中して鮮やか、ニロケラスも濃い。ガンゲスも淡 く認められる程の好シーイングであった。アルギュレも南端で明るい。Hk氏の5 Oct はLCM=358゚Wで、シヌス・メリディアニが見える。但し、マルガリティフェル・シヌ スの方が濃いらしい。11、12 OctのMk及びHk氏の観測は福井でのWorkshopにおけるも ので、両者とも南中するシュルティス・マイヨルや夕方のウトピア、輝く北極冠、南 ではヘッラスなどを捉えている。12 OctのHk氏の観測は福井での最終の観測(LCM= 299゚W)で、シヌス・サバエウスまで見事に観測した。
 福井でのMnの観測は、18 SeptのHSTの合時を観測すべく待機中のところ偶然土星の EZ内に白斑とそれに續いて暗點と昆布のように流れるベルトを見付け、その先端の CMTを測定したお蔭で、豫定が狂い、以後三日毎ないし四日毎にその模様の後退を追 跡する羽目になり、從って火星はその居残り観測で、今回は特別である。その間、土 曜には多忙のNj氏と協同観測した。21 OctはMnは晴れだが低空、Nj氏は高空だが靄の 中という悪条件であったが、24 SeptはLCM=081゚WからLCM=110゚W迄観測出來た。北極 冠が大きく感じられないのは位相角の所爲であろう。太いバンドで囲まれている。南 端も明るい。この日は全体が橙黄色で綺麗であった。27 SeptはLCM=054゚Wからで、夕 方のマレ・アキダリウムが濃く、Nj氏も久々に堪能した。北極冠は白く輝いており、 ダークフリンジも明確である。クリュセは夕端で靄っている。南端も明瞭。南半球の 暗色模様は横たわるが、ソリス・ラクスは分離出來ない。1 Oct:視相は悪いが、アル ギュレが南端で明るい。5 Oct(019゚Ls)は後半視相が良くなり、Nj氏と交互の観測: シヌス・サバエウスが付け根まで明確で、マレ・アキダリウムがディスクに入ってく るのが追跡できた。もはや、朝方のテムペを侵す朝の濃い白雲はなく、北極冠はクッ キリしている。日本からのこの構図は1994年には007゚Ls(Oct 1994)と025゚Ls(Nov 1994)であった(前者では未だ残っている)。11 Octは気象が優れなかったが、12 Oct は観測時直前に空は快復し、Mk、Hk、Nj各氏及びMnが薄明まで好シーイングのもと交 互に観測した。シュルティス・マイヨルがの南中に出会うのは偶然であったが、南端 の輝きは円形ヘッラスそのものであることが判って幸いであった。
 Mo氏の写真観測は労作であって、実に多くの印画から成り立っているのであるが、 この視直径では矢張り像の形が出るのが関の山で、模様を捉えるのは困難であったよ うだ。唐那・派克氏のCCDと比べると矢張りCCDに早く切り替えるべき時機かと思う。

   ♂・・・・・・・・ NIECHOY, Detlev 氏(DNc)のスケッチは短い間にフィルターを替えながら数枚取ってしまうやり方で、 実際には報告を受けたスケッチ枚数は十二枚である。特に 25 Augは2:57GMTから3: 21GMT迄に五枚スケッチしている。フィルターはB(Schott BG28)とO(Schott OG550)を二回 使っただけで、三回はIntの倍率の違ったものがあるだけで、よく判らない(像の安定性 もなく、模様も同定出來ない)。同じ用紙に違った日付けが入るのも困ったものであ る。
RSc氏の12 Octの観測はLCMの記述がない。時刻は11:00GMT頃。いくつか模様はある が、同定していない。
JWr氏のスケッチは1 AugLCM=338゚Wでδ=4.2秒角ながら夕方のシュルティス・マイ ヨルが出ていて、なかなかであるが、北極雲はやたら大きい。17 Sept (010゚Ls)は3: 30GMTLCM=288゚Wでシュルティス・マイヨルがど真ん中である。北極冠は明確であるよ うだ。25 SeptはLCM=208゚W、3 Oct(018゚Ls)はLCM=127゚Wであるが、北極冠が小さすぎ るという印象である。スケッチ円を小さくしているのは好い。
(南)