94/95 Mars Note (3)

1995年2月上旬の青色光でのクリュセ−クサンテとテムペ


From -- 1994/1995 Mars Note (3) -- "C M O" #167 ( 25 Sept. 1995 )

☆31cm反射の石橋力(Is)氏は今シーズン中、火星は白黒・カラーそれぞれ十組に充たない撮影ぶりで、とても我々の期待する火星の連続觀測者ではないのであるが、ヴェテランの勘というのか、運が好いというのか、二度重要な機會に見事な紀録を残している。一度は三月上旬のアルバ周辺の描写(6 Mar) で、これは一月下旬のMk氏(26 Jan)やIw氏(27 Jan)、Mo氏(27 Jan)のアルバ白雲発現以来の懸案であり、もう一度の僥倖は今回採り上げるクリュセ- クサンテとテムペとのB 光での相違發現である(Is 氏は 7 Feb) 。

後者は特にB 光(B390 による) とR 光との対比によるもので、フィルター觀測ならではである。一方、連続觀測者の森田行雄(Mo)氏(25cm 反射) は当然兩機會とも撮影に成功していて、Mo氏の資料も貴重である。ただ、Is氏は印画に関するメモが丁寧であるため、私はこのメモによって眉を揚げた譯であるが、Mo氏は並べる写真が多く、逆にその整理に追われ、当時はご自分の写真を詳しくチェックする余裕がなかったものと思われる。ただ、今回の経験でB 光の重要性が好くお分りのことと思う(B光の伴わないR 光もこの期間中にもみられるが、R 光だけでは殆ど意味がない) 。

☆現象そのものについては、既に#156 p1571や#157 p1588 〜89に述べてあるので、それをご覧頂くとして、この欄ではこの觀測の状況の肉付けと、現象の強調を改めてしたい。

Is phot ISHIBASHI's Phot (Is 006B)
07 Feb.
ω=56゚W
Ls=056゚

☆現象は、簡単に繰り返すと、B 光でテムペがマレ・アキダリウムと同じくらいに暗く写るのに対し、クリュセ- クサンテはやや明るく見えるということである。本来、火星面は暗色模様も輝面も透過するB 分光を保たないという我々の考えによれば、マレ・アキダリウムとテムペの暗くなるのは自然で、むしろクリュセの邊りが確認できることの方が異常であって、異常と言うのではなくても、白色の浮遊物か堆積物の存在を暗示している筈ということである。北極雲や縁雲はB 光で極端に捕捉されることは好く知られている。あとはブルークリアリングなどという世迷言に煩わされないことである。

Mo phot MORITA's Phot (Mo 127B)
05 Feb.
ω=72゚W
Ls=055゚

☆先ず、二月上旬のOAA 側の写真觀測の状況を表にする。
5 Feb で(055゜Ls,ι=07゜) 、7 Feb で (056゜Ls, ι=05゜) であった。

Table 1: Photos by the OAA members
ョ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イ

カ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「コ

ここで、Mo氏の写真はBRG セット、Is氏の黒白写真はRGまたはInt とB のセットである。Is氏のカラーは400 プロヴィア、Mtは松本直弥氏(44cm 反射) のコードで、乳材はRD100 である。
MAはマレ・アキダリウム、T はテムペ、Thはタルシス、C-X はクリュセ- クサンテの略である。
他に7 Feb には笹本宰正(Ss)氏のω=045゜W、淺田秀人 (Aa)氏のω=040゜Wのカラー像がファイルされているが、前者は白の発色が悪く、後者 は印画を診るかぎり露出オーヴァー気味で微妙な処が出ていないと思う。

☆以上の写真で、少なくともこの時期、正午前後のテムペはB で光が遮断されてい るのに対し、クリュセ- クサンテは仄かに明るく朝端と夕端の靄を繋いでいることが 証明できる。

☆但し、Table 1 のコメントは字数上簡略され過ぎているのであって、例えばMo-124B 等、或いはMt-020C 等では朝方の靄はクリュセ- クサンテより強く出ているし、テムペも夕方朝方の動きは単純ではない。これはアルバの現象を考察する際に触れる。

☆尚、一ヶ月前にはどうであったか、というと、事態はまだ明白になっていなかったと思う。比較の為一例を挙げると

Table 2:
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Mo-091 1 Jan ω=72゜W: Npc large, MA dull
カ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「コ

はTable 1 のMo-127に対応する。Lsは前者で039゜Ls、後者は055゜Lsで季節の違いもあるかも知れぬが、後者は衝に近く視直径や衝効果と関係するかもしれない。しかし、後で触れるが、唐那・派克(DPk) 氏のMar やMay のCCD にも違いは強く出ているので、050゜Lsあたりからの季節的なものと考えてはどうか。

☆この間の眼視觀測について、特長的なものを挙げてみる。

Table 3: Visual observations associated
ョ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イ

カ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「コ

☆眼視ではテムペはCM前後で可成り明るく見えていて、マレ・アキダリウムとは当然格段に違うのであるが、赤味を強く帯びている。從って、地膚が見えている状態であろう。ただ、Mk氏の観察では、Mk-160D 等でテムペに明斑點が記録されている場合がある。これは多分全体の明るさが凝縮して見えるのではないかと思う(DPk氏のCCD 像との比較は後で) 。一方、クリュセ- クサンテはMk氏の観察では明るいものの、白味は感じられていない。但し、クリーム色が見えるようで、Mk-171D が典型である( 実際はMk-170D ω=030゜Wでシーイング透明度とも良くなり色が見え出したようである) が、この色合はIw氏も指摘するところである( 鳥の子色) 。これは地膚が白靄に透けて見えるからと考えてはどうかと思う。

☆尚、Iw-127D は視相透明度とも満点の觀測で、詳しい觀測やメモのなかにクリュセやテムペについての紀録が無いのは言語道断だが、良シーイングの許ではテムペもクリュセも目立たないということかもしれない。

☆扨て、海外での( 而も眼視での) この種のフィルター觀測では眼視觀測のラファエル(PRp) 氏( ベルリン) に依って14 Feb(059゜Ls)ω=070゜Wあたりで為されていることは、#158 p1613で指摘してある。一方、唐那・派克(DPk) 氏の觀測ではどうか。 DPk 氏の像はカラー合成で、青色光が分離していないが、クリュセ-クサンテとテム ペの様相の違いを眺めてみる。

Table 4: From D PARKER's CCD
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DPk CCD D. PARKER's CCD Images
Left..... 09 May ω=088゚w
Middle 12 May ω=077゚w
Right... 12 May ω=088゚w

☆Apr, Mayの小さな像ではクリュセ- クサンテとテムペに際立って違いが出ている(12 May, 097゜Ls の像では前者は真っ白である) から、当然青色成分でもはっきりしていると思われる。但し、その前の25 Febの大きな像では流石複雑で、クリュセ- クサンテも可成り赤味の部分を残しているし、テムペも西部の方に白斑點が見られる(Mk 氏の場合は東部) 。これはアルバの白斑と対をなす( この点はMk氏の観察と合致する) 。また、25 Febω=043゜Wでは実はニリアクス・ラクスからマレ・アキダリウムに掛けても赤黒く、クリュセ- クサンテも北部は赤味を見せている。

☆テムペとアルバは台地として略同緯度、略同高度であって、その気象の違いの可能性についてはアルバの白雲の論考の際にふれるつもりだが、今回のクリュセはテムペより低く、クサンテはタルシスに向けて坂になっていることと関係しよう。つまり、同じLsで気象上クリュセとテムペと違いが出てくるのは、緯度の違いと、この地形的な違いであり、今回はクリティカルな微妙なところで見られたのであろうと思われる。理論的にこの臨界を探せだせれば面白いところである。
( 南 )