巻頭論攷

200511月に観測された輝くオリュムプス山

への“フラッシュ”バック

クリストフ・ペリエ (近内 令一譯)

CMO/ISMO #397 (25 April 2012)


English



  2005年の116日に火星はλ=320°Lsで近日点寄りの衝を迎え、その前後の日々にヨーロッパの観測者たちは非常に明るいタルシス火山群をとらえ、とりわけオリュムプス山は著しく輝いていた。115日から6日にかけての夜、著者はタカハシ210㎜ミューロンの眼視でこの火山を輝斑として容易に認めることができた。これは実に特筆すべき経験であった;オリュムプス山の素顔を小口径の望遠鏡で検出するのは全く容易でなく、何らかの要因で、たとえば低く照らす太陽光で陰影ができたり、山岳雲に覆われたりでその見え方が強調されない限りこの火山を見分けるのは無理だろう。

 この時期ヨーロッパで得られたCCD画像はこの現象を見事にとらえた。116日にCMOの観測者たちがとらえた画像を図1に示す。この現象は非常に顕著だったので様々な疑問が直ちに生じた。著者自身はいつものようにCCDの総ての波長帯すなわち赤外から菫外域で画像の撮り分けを実施した。すると驚いたことにこの火山は赤外を含む総ての波長帯で目立って明るく写った。火星の火山が明るく見えるときには古典的な山岳雲を被った状態と解釈するのはもちろん不自然ではない。しかしながらこのときの季節はそう考えるには少々早過ぎたオリュムプス山は冬の真っ最中で、午後の山岳雲を育むのに必要な水蒸気はそのあたりに存在しなかった。そしてもし、雲だったならば赤色光や赤外光では明るく写らなかっただろう。またDamian PEACH氏が116日から7日の夜にかけて撮った高解像度画像にはこの火山のカルデラを含む明るいドーム部分と、その周囲のやや明るさの落ちる山体部分が明瞭に見分けられて、雲に隠されずに火山体全体の素顔が直接見えていたことが明らかである(図2参照)

 となると、総ての色で白く、明るいというのは一体全体どういうことなのだろう? 通常火星上では氷(水の氷であろうが二酸化炭素の氷であろうが)だけがこのような特性を有する。あるフランス人の専門家はYahooグループのサイトにオリュムプス山の山頂はCO₂の霜でおおわれていたに違いないと書いており、筆者も同様の結論を2005年のSAFのレポートに書きとどめた。どのような理由にせよ、この高山の上にCO₂が凝結するのだと当時は思えたそれ以前にそのような考え方は聞いたことも読んだこともなかったのだが。

 東亜天文学会火星課長であった南 政次氏は折々これは単なる衝効果に過ぎないと述べてきた;彼我両惑星が一直線に衝で対峙した際に火星はより明るく輝く傾向があり、火星面のところどころに際立って眩しく太陽光を反射する場所があると。しかしながら著者にとってこの仮説は説得力に乏しく聞こえた。なぜなら2005年の衝時のオリュムプス山は恐ろしく明るく、2003年の衝のあたりの同火山よりもはるかに明るかったからである(加えて、2003年では青色光画像では同火山は暗かった)

 しかしながら、衝時の同火山の見え方の2003年と2005年との違いの矛盾については、2006年に早くも南 政次氏が解答を出している。すなわちCMO 2006425日号(318)“CMO 2005 Notice #03”によれば:『注目すべきはオリュムプス山は北緯18度に位置していて、またその山体は2030度の傾斜角を有していることで、これによってこの火山はあたかも実際よりも南寄りの(Ds+De)/2に近い緯度に位置するように見えることになる。衝のときには火星面はあたかも満月のような状態となり、そして高反射能の地域は何十パーセントも明るさを増し、従って上記の角度の差異は特定の地域の見え方を強調するように作用する(元々は衝効果という表現は短波長光で見た時の高反射能領域の明るさの増加を示すために使われた。今日ではいわゆるブルーヘイズの存在は疑問視されている)2003年には(DsDe)/2はさらに6度ほど南寄りで、そのためにオリュムプス山の山体の衝時の輝き方は今年2005年よりも明るくなかった(衝時の大気中に浮遊するダストの条件に差がないと仮定して)と考えても好いだろう。』

 


 時の経過につれて著者には霜仮説はますます奇妙に思えてきた。上記のCMONoticeによって著者は衝効果が正解と確信するようになり、2005年の衝のオリュムプス山の際立った明るさは特別に好都合な視角の条件がもたらしたと考えるようになった。さらに、図3に挙げたDave TYLER氏による赤色光の画像のセットを注意深く調べると、同日のうちにもこの火山の明るさは火星時間の経過につれて変化することが判り、午後の半ばから遅くにかけてオリュムプス山の山体がより地球方向に好適に向くに従ってその輝度が増していく様子が示されている。

 


 最後になるが、図4に同じ衝の当日(2005116)MGSが撮像した画像を示す。当然のように、当時この火山に全く霜がなかったことが明らかである;またこの撮像角度からでは、この火星軌道周回衛星は衝効果を知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 


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