CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#13
2025年三月の火星観測報告
(λ=051°Ls ~ λ=064°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#545 (
♂・・・・・・ 今接近期十三回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた三月中の火星面画像をもとに纏める。火星は三月にも「ふたご座」で順行を続けて、日没後には天頂付近に昇ってきていた。光度は中旬にはプラス等級になり、都会ではだんだん目立なくなっていった。天候は三月になって周期的に変化するようになり、関東南部では南岸低気圧の通過で雨の降ることも多くなって、上旬には雪の降る日もあり寒暖の差の大きな季節になっていた。
三月には季節(λ)はλ=051°Lsから064°Lsまで進み。視直径(δ)は、月初めのδ=10.9”から、月末にはδ=8.2”まで小さくなった。傾き(φ)は7.1°Nから10.8°Nに北向きに大きくなり、北半球高緯度の暗色模様の様子が垣間見えてきた。位相角(ι)は、ι=29°から月末にはι=36°と朝方の欠けが大きくなっている
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、三月のレポート期間の様子を示している。
前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#527
(01 Apr. ~ 30 Apr 2023, λ=045~058°Ls, δ=6.5~5.4”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/527/2022repo_15.htm
* CMO#528 (01
May ~ 31 May 2023, λ=058~072s, δ=5.4~4.7”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/528/2022repo_16.htm
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO #345 (25 Apr. 2008, λ=046°Ls
~λ=059°Ls δ=7.9~6.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO345.pdf
* CMO #346 (25 May 2008, λ=059°Ls ~λ=072°Ls
δ=6.3~5.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO346.pdf
♂・・・・・・ 2025年三月の火星面の様子
○
火星面概況
火星は、三月には季節(λ)はλ=051°Lsから064°Lsまで進み、北半球の初夏になっていた。視直径は上旬に10秒角を切って、月末には8秒角台まで小さくなった。位相角も30度台を越して大きくなり、朝方の南半球の欠けが大きくなっている。
この季節には、北極雲の活動は弱くなり北極冠が明るく見えている。午後からの山岳雲の活動はだんだん低緯度にも進んできて、テムペ-アルバ辺りの活動がピークを迎えている。赤道帯に懸かる靄の明るさもややはっきりしていた。傾きは北向きに大きくなってきて、南極域は見難くなってきている。
○ この期間の北極冠の様子
三月も極展開画像を並べて北極域の様子を月初め・中旬・月末と比較してみた。視直径は小さくなり、報告数も減っていて、うまく組み合わせる画像が見つからなく、良い画像が出来なかった。
λ=051°Lsから064°Lsまでの季節変化では、雪線緯度は平均値で70°N〜74°Nへの後退が予想されている。この図からは雪線緯度の範囲は、70°Nより大きくなっていて、中旬では72°Nあたりのように思えて、先月よりは北極冠は少し小さくなってきていて、予想どうりの縮小のようである。この期間には、北極雲の活動も治まってきているようである。
○ 夕方の山岳雲の活動
北半球春分過ぎの季節には、午後の火星面では山岳雲の活動が北半球の高緯度から低緯度に移りながら活発になることが知られている。下図は、タルシス三山・オリュムプスモンス付近の高山の含まれる領域の上・中・下旬の様子を取り上げた。B光画像では、山岳雲の様子が明るく捉えられている。アルバあたりに比較して、オリュムポス・モンス辺りの明るさは弱く感じられる。下旬の画像は朝靄の中にタルシス三山の頭がポークアウトしている画像である。赤道帯霧(ebm)が明るくなっている様子も捉えられている。
○ エリシウム・モンスの山岳雲
次にエリシウム・モンスでも夕方の山岳雲の様子を集めた。位相角が大きくなり、夕縁近いところでの画像ばかりとなってしまった。B光画像ばかりでなく、右端のフォスター氏の、610nm
LongPass filter によるIR光画像でも明るさが判る。
○ 赤道帯霧 (ebm: Equatorial Band Mist)
あらためて活動的になってきてた赤道帯霧の様子を並べてみた。上旬・中旬・下旬の三段にしてある。B光画像ばかりなので、上には暗色模様の位置を示すカラー地図(Viking/NASA)を加えてみた。
クリュセからタルシス方面に伸びるebmがだんだんハッキリしてくる。クリュセが夕縁で明るくなっている。朝靄にも明るく繋がっていて、タルシス付近の高山の頭が飛び出して暗く見えている画像もある。
赤道帯霧(ebm)は今後も明るくなっていき、ピークは北半球の夏至 (λ=090°Ls) 頃になる。
○ ヘッラスの様子
ヘッラスの様子を、夕方・日中・朝方と並べてみた。上旬はアメリカ側、中旬はアジア側、下旬にはヨーロッパ側で捉えられている。ヘッラス(Hella)はλ=090°Ls頃には、明るくなるのが知られている。が、まだ活動は感じられない。先月よりは活動的になっているようで、午後側では白味の判る明るさが出ている。南端には南極フードの薄明るさも感じられて、境界はハッキリしない。朝方は欠けの大きなところに入っていることもあるが、明るさは弱い。
○ トピックス
ここでは、三月に捉えられた、興味ある画像を紹介する。
北極冠に絡むダストイベント
三月には、マーチン・ルイス(MLw)氏が、北極冠廻りのタストイベントらしい現象を捉えている。3日の吹き出しが明確で、極座標展開図をそえてある。前日にも同じ領域で弱い活動が捉えられている。9日にも北極冠周辺の朝方に、白い明るさが捉えられている。
マレ・アキダリウム北部に懸かる明帯
二月にもマレ・アキダリウム北部の北極冠に絡むダストイベントを取り上げている。三月になっては、上旬・中旬には良い角度の画像が少なく判然としないが、下旬には、アメリカ側でマレ・アキダリウム北部に連日明帯が捉えられた。下画像の右図のウォーカー(GWk)氏の画像に見られるように、R光画像では明るく判るが、B光画像ではそれほどでなく。ダストの活動のようである。ウイルソン(TWl)氏の極展開画像からは、50°N程度の緯度にあることが判る。
また、メリッロ(FMl)氏の画像には、この季節に活動的なテムペからアルバに伸びる明帯が捉えられていて、各氏のB光画像にも感じられる。
♂・・・・・・ 2025年三月の観測報告
三月には、前月より観測報告はやや減った。日本からは石橋氏より3観測。フィリッピンの阿久津氏の15観測。アメリカ側から4名より32観測。ヨーロッパ側からは2名より14観測。合計して9名からの72観測であった。ルイス氏からの二月の追加報告が3観測含まれる。フォスター氏からの観測報告が復活している。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak)
14 Colour
+ 6 B + 6 IR Images
(1#, 10, 15,
16*,17, 25*. 27,
45cm Newtonian (F/4) with an ASI224MC. an ASI071MC*, & a
SV 705C#
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
4 Sets of RGB +
5 IR Images (11, 14, 15, 27
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
石橋 力 (Is)
相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
3 Colour + 3 B Images (9*, 20,
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI
462MC & an ASI 290MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw)
7 Colour
Images (2. 8, 9, 20, 24, 26,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
12 Colour* + 4
Sets of RGB + 5 B Images (1, 4. 8#. 11#,
19#, 22#, 26,,28 March 2025)
25cm
SCT & 20cm SCT# with
an ASI 290MM & an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
4 RGB
images (3, 14,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
6 Sets of RGB
Images (4, 12, 14, 22, 28 March 2025)
25cm Mak-Cassegrain with a QYH5V200M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
3 Sets of RGB
+ 3 IR Images (6, 8,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
6 Sets of RGB
+ 6 IR Images (10. 11, 12,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
追加報告
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw)
3 Colour Images
(18, 24,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html
♂・・・・・・ 2025年五月の火星面と観測の目安
火星は「かに座」を進み五月1日に「東矩」を迎える。五月はじめには、右図のようにプレセペ散開星団(M44)の中を通過してゆく、半日毎の位置を示した図を掲載する。
その後は、順行を続け下旬には「しし座」へと入る。日没後の夕空に低くなって、六月中旬の接近を目指してレグルスに近づいて行く。
視直径は6.6秒角から5.5秒角まで小さくなって、今観測期も最終盤なってしまう。傾きはφ=16°Nから下旬にはφ=20°N台へと北向きに大きくなり、縮小してゆく北極冠は、まだ観測できるであろう。
五月には、季節(λ)は、λ= 077°Ls〜091°Lsまで進み、北半球の「夏至」を過ぎる。傾き(φ:中央緯度)は北向きに大きくなり、φ=16°Nから21°N台へ。位相角(ι)は、ι=37°台から減少して、朝方の欠けは小さくなって行く。
夕方の山岳雲の活動は、緯度の低い領域に移ってきて、タルシス三山やオリュムプス・モンス付近の活動が盛んになっている。B光画像での撮影をお願いする。赤道帯霧(ebm)のピーク(λ=090°Ls頃)も近づいてB光画像ばかりでなくカラー画像にもはっきり捉えられるようになっていく。朝方では朝霧からの高山の山頂が飛び出して暗く見えたり、山の影が濃く見えるのが続いている。
南半球では、ヘッラスが降霜で白く明るくなり始める時期である(ピークはλ=090°Ls頃)。朝方から夕方までの変化を追跡したい。高緯度の南極域の状況も興味がひかれるところであるが、北向きが大きくなり詳細を捉えるのは難しくなる。
五月の火星面の様子を、いつものグリッド図で示した。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線の予想は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。