CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#12
2025年二月の火星観測報告
(λ=038°Ls ~ λ=051°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#544 (
♂・・・・・・ 今接近期十二回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた二月中の火星面画像をもとに纏める。火星は二月には「ふたご座」で逆行を続けて、日没後の東の空に高く昇っていて光度はまだマイナス等級で目立っていた。24日には「留」となり順行に戻った。日本では二月には偏西風の蛇行で、冬型の気圧配置が強まり北極寒気の南下が二度あり、北国では記録的大雪になった。日本付近の海水温が高いために水蒸気量が多くなったのが原因とされている。太平洋側では乾燥した晴天が続いたが、視相は良くなかったようである。
二月には季節(λ)はλ=038°Lsから051°Lsまで進み。視直径(δ)は、月初めのδ=13.7”から、月末にはδ=10.9”まで小さくなった。傾き(φ)は8.1°Nから7.1°Nに少し南向きになり、月末にかけて7.4°Nと北向きに戻っている。今後は北向きに大きくなって行くのが、右のグラフに現れている。位相角(ι)は、ι=13°から月末にはι=29°と朝方の欠けが大きくなっている
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、二月のレポート期間の様子を示している。
前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#526
(01 Mar. ~ 31 Mar 2023, λ=031~045°Ls, δ=8.2~6.5”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/526/2022repo_14.htm
* CMO#527
(01 Apr. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/527/2022repo_15.htm
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。
視直径は今回よりも大きい。
* CMO #344 (25 Mar. 2008, λ=033°Ls
~λ=046°Ls δ=10.4~7.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO344.pdf
* CMO #345 (25 Apr. 2008, λ=046°Ls
~λ=060°Ls δ=7.9~6.3”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO345.pdf
♂・・・・・・ 2025年二月の火星面の様子
○
火星面概況
「衝」を過ぎた火星は、二月には視直径を10秒角台まで落として、位相角も大きくなり、欠けは朝方に移っている。季節も進んでクリュセ(Chryse)付近には、朝靄・夕靄が少し目立つようになってきた。シュルティス・マイヨル(Syrtis
Mj)が青い夕靄に隠れていく様子も捉えられている。傾きは少し北向きで、南極地は見えていないが、薄いベールが懸かっているような画像も得られるようになっている。
○ この期間の北極雲/北極冠の様子
二月には季節(λ)は、λ=038°Lsから051°Lsまで移り、「ボームのプラトー」と称している北極冠縮小の停滞が起きる期間(λ=010°Ls〜040°Ls)を抜けてきている。二月にも極展開画像を並べて北極域の様子を月初め・中旬・月末と比較してみる。
λ=038°Lsから051°Lsまでの季節変化では、雪線緯度は平均値で66°N -70°Nへの後退が予想されている。この図からは雪線緯度の範囲は、月初めでは(67-70°N)、中旬では(68-71°N)、月末では(68-72°N)と読み取れ、70°Nより大きくなっているところがあり、一月より北極冠は少し小さくなってきている。北極冠は80°N -85°N以北では融け残り永久北極冠として存在していることが知られている。
二月にもマレ・アキダリウム(M Acidalium)やウトビア(Utopia )付近では、盛り上がりが観じられ、北極雲の活動も残っているように思える。報告数が少なくなり、良い画像が揃わなかったこともあるかも知れない。
ボームのプラトーに関しては、以下の論攷を参照されたい。
* 2008年の北極冠 CMO #338 (25
November 2007) Forthcoming
2007/2008 Mars (14)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_14j.htm
○ 夕方の山岳雲の活動
北半球春分過ぎの季節には、午後の火星面では北半球の高緯度から山岳雲の活動が活発になることが知られている。右図は、タルシス三山・オリュムプスモンス付近の高山の含まれるMOLAの地形図に地名を入れて索引図とした。
二月はじめの、ペリエ(CPl)氏の画像を並べてみた。B光画像では、夕縁に近くいくつかの白斑が並んでいるのがハッキリする。いずれも地形図との比較で標高の高いところにあたるのが判る。上からタルシス三山(Tharsis
Montes)・ケラウニウス・トーラス(Ceraunius Tholus)。アルバ・パテラ(Alba Patera)の 五つである。内側に一つ明るくなっているのが、オリュムプス・モンス(Olympus Mons)である。もう少し季節が進むと低緯度の白斑の明るさは増してくる。
中旬にかけてはメリッロ(FMl)氏が連続して多くのB光画像と共に夕方で発達する様々な山岳雲を追跡している。夕縁に近づいて行くに伴い明るさの増しているのが見て取れる。中央経度(ω)の値を見て比較してほしい。朝縁からはエリシウムあたりが朝靄に包まれて出てきている。
○ テムペ辺りからアルバに延びる雲帯
先月にも取り上げているが、マレ・アキダリウム東側の、テムペ(Tempe)からアルバ(Alba)辺りまで伸びる雲帯がλ=050°Ls頃から活動的になるのが知られている。
月初めのペリエ(CPl)氏の画像と月末の阿久津(Ak)氏の画像も取り上げてある。活動はまだ弱いようである。活動のピークは、三月下旬のλ=060°Ls頃であるのが、下記の参考文献の中に記されている。
* アルバ・モンスの山岳雲の一回目の極大 クリストフ・ペリエ
ISMO 2011/2012 Mars Note #01 (CMO #399,
Ser3-p0344)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO399.pdf
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/399/ISMO_Note_2011_01.htm (Japanese) 近内 令一譯
○ エリシウム・モンスの山岳雲
同じような季節に、経度の離れたエリシウム・モンスにも夕方の山岳雲の活動が見られる。二月には良い画像が揃わなかったが、夕縁近くで明るくなっていく様子が捉えられている。
○ 赤道帯霧 (ebm: Equatorial Band Mist)
活動的になるのは、λ=050°Ls以降のことであるが、B光画像には弱いながら捉えられている。下図は経度順にほぼ全周を並べてみた。日付は無視している。下旬にはやや明るくなっているようである。
○ 南半球高緯度の様子 ヘッラスとアルギュレ
ヘッラスとアルギュレの様子を、夕方・日中・朝方と並べてみた。この期間にはアルギュレ(Argyre)の明るさのピークは過ぎたが、まだすこし明るくみえている。ヘッラス(Hella)もλ=090°Ls頃には、明るくなるのが知られているが、まだ活動は感じられない。いずれも夕方側では夕靄の明るさが漂っている。南縁の明るさもまだ弱い。
○ トピックス
ここでは、二月に捉えられた、興味ある画像を紹介する。
朝靄の中の暗斑
中旬のアメリカ側の各氏の画像には、朝靄の明るさの中にタルシス三山が暗点として捉えられている。「衝」をすぎて欠けが朝方に移り、朝のターミネーターが見えているようになり、季節的にも活動的になる朝方の靄の中から高山の頭がポークアウトしていたり、落とした影が暗く見えているものと考えられている。今後も朝方の様子には注意が必要である。
参考文献として以下のものが挙げられる。
* 「朝霧から突き出たタルシス四山 の暗點としての頂上」 南 政次
“Shadowy Summits of Tharsis Montes and
“CMO 09/10
Mars Note (2) (CMO#374 Ser2-1386P, Ser2-1386P
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO374.pdf
* 「タルシス高地内の明るい朝方の放射霧」 クリストフ‧ペリエ
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/405/ISMO_Note_2011_07.htm
(Japanese)
“ISMO
2011/2012 Mars Note #07, (CMO#405 Ser3-0410P,
“Bright Morning Radiation Fog inside Tharsis” Christophe
PELLIER
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO405.pdf
* 「タルシス三山とオリュムプス・モンスの朝夕雲」 南 政次
“1996/97 Mars Sketch (3) CMO #201 (
“Clouds at the Tharsis Ridge and
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note03j.htm
*
「天網恢々: 中島孝捕捉奥林匹斯山在上午?」 南 政次
“1996/97 Mars Sketch (12) CMO #209 (25 November 1998)”
“T NAKAJIMA Detected the Morning
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note12j.htm
北極冠に絡むダストイベント
また、上のウォ−カー(GWk)氏の18日の画像には、北極冠に伸び込むダストの様子が捉えられている。同日の数時間前には、モラレス(EMr)氏の画像があり、これにも捉えられているので並べて示す。下部には部分拡大した画像を載せてある。
前後の日には、該当する範囲を撮影した画像はなく、上の19日のメリッロ(FMl)氏の画像には大きく発展している様子は捉えられていない。
○ 他の参考文献
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note
(3)
CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note
(7)
CMO#353 (25 December 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
「末期の北極雲と北極冠の境界」 Forthcoming 2007/2008 Mars (5)
CMO #329 (25 March 2007)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_5j.htm
「末期の北極雲と北極冠の境界。II」 Forthcoming 2007/2008 Mars (10)
CMO #334 (25 July 2007)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_10j.htm
CMO
2009/2010 Mars Note (19) CMO#389 (25
September 2011)
「北半球早春の明るいエリュシウム・モンス」 (Ser3-#015 Japanese)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/2009_2010Note_19.htm
が参考になる。
同じような接近だった、07/08 CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming 2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
♂・・・・・・ 2025年二月の観測報告
最接近を過ぎて二月となり、毎接近時と同様に観測報告はだいぶ減っている。日本からは石橋氏より6観測。フィリッピンの阿久津氏の22観測。アメリカ側から五名より36観測。ヨーロッパ側からは三名より16観測。合計して、十名からの80観測であった。フラナガン氏とワレッル氏からの一月の追加報告が三観測含まれる。フォスター氏・ゴルチンスキー氏からの観測は入らなかった。熊森氏は。上階のベランダにけられるようになって撮影できなくなり、今接近の観測は終了している。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
23 Colour
+ 11 B + 11 IR Images
(1~4. 13~15, 18*. 22*, 26 February 2025)
45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm" & 36cm SCT*
with a SV 705C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl) Houston, TX, the
2 Sets of LRGB
+ 2 Violet Images (25, 26 February 2025) 36cm SCT @f/22 with a Saturn-M
SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
5 Colour + 3 B + 1 IR Images (9,, 20,
22*, 25, 27 February 2025)
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 462MC & an ASI 290MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK
2 Colour*
+ 1 IR(sG)B + 1 B + 1 IR Images (1. 3*. February 2025)
45cm Dobsonian, with an Uranus-C & a Mars-MII*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
9 Colour*
+ 2 Sets of RGB + 14 B Images (2, 5. 8. 11, 19, 22, 26 February
2025)
25cm SCT with an ASI 290MM & an ASI
290MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
6 RGB
images (1, 9, 12, 18, 26, 28 February 2025) 31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl) Nantes,
2 Sets of RGB
+ 1 Colour* + 7 various filters Images (1/2 February 2025)
31cm speculum with an ASI 462MM
& an ASI 462MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CPl.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk) Macon, GA, the USA
5 Sets of RGB
Images (5, 18, 22, 25 February 2025)
25cm Mak-Cassegrain with a QYH5V200M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
6 Sets of RGB
+ 6 IR Images (5, 6, 14, 16, 18, 19 February 2025)
53cm Newtonian @ f/15 with an ASI 462MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
6 Sets of RGB
+ 6 IR Images (1. 7, 23, 26. 28 February 2025) 28cm SCT with an ASI 678MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
追加報告
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl) Houston, TX, the
2 Sets of LRGB
+ 2 Violet Images (20, 22 January 2025) 36cm SCT @f/22 with a Saturn-M
SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 RGB + 1
IR Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
♂・・・・・・ 2025年四月の火星面と観測の目安
四月には火星は「ふたご座」を順行して、中旬には「かに座」へと戻る。視直径は8.3秒角から6.6秒角までだいぶ小さくなって、今観測期も終盤になってしまう。傾きは下旬にはφ=15°N台へと北向きに大きくなり、縮小してゆく北極冠が観測できる。中旬のλ=070°Lsの頃の雪線緯度は70°Nを越えて、北極冠が火星面ディスクの中に入ってくるようになる。
夕方の山岳雲の活動は、位相角が大きくなり難しくなって行くが、λ=060°Ls頃のアルバ付近の活動のピークを過ぎて、緯度の低いタルシス三山やオリュムプス・モンス付近の活動が盛んになってくる。B光画像での撮影をお願いする。朝方では朝霧からの高山の山頂が飛び出して見えたり、山の影が濃く見えたりするようになる。赤道帯霧のピークはλ=090°Ls頃に予想され、まだまだ先だが既に淡く捉えられるようになっている。ここでもB光画像の撮影が必要である。南極フードの様子など南半球高緯度の状況も興味がひかれるところであり、ヘッラスの明るくなってくる様子などが観測の目標となる。
四月と五月の火星面の様子を、いつものグリッド図で示した。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線の予想は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。
四月には、季節(λ)は、λ= 064°Ls〜077°Lsまで進み、傾き(φ:中央緯度)はφ=11°Nから16N台へ北向きにおおきくなる。位相角(ι)は、ι=36°台をゆっくり増加して、下旬にι=37.1°の最大となり、朝方の欠けは戻って少なくなって行く。