CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#11
2025年一月の火星観測報告
(λ=024°Ls ~ λ=038°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#543 (
♂・・・・・・ いよいよ今接近期の最接近となった。火星は一月12日に「ふたご座」で最大視直径が、14.6秒角の「最接近」となり、16日には「衝」を迎えた。十一回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた一月中の火星面画像をもとに纏める。一月16日の「衝」をはさんで、欠けは南極側を廻って朝方に移った。最小の位相角(ι)はι=2.6°であった。位相角が小さい期間には満月状態となり衝効果が起きる。北極冠は融解が進んでいて、内部には陰りが出てきている。
火星は一月には「ふたご座」で逆行を続けて、出は早まり日没後には北東の空に明るく目立つようになり、天頂の木星、西空の金星・土星と明るい惑星が夜半前の空に勢揃いした。関東南部の当地では寒い晴天が続いて、老体には思うような観測は出来ず仕舞いであった、火星課には若い新人の参加はなく、日本からの報告人数は少なくなっている。撮影もカラーカメラが大勢を占めるようになり、RGB分解のフィルターワーク画像は少なくなってしまった。
季節(λ)は一月にはλ=024°Lsから038°Lsまで進み。視直径(δ)は、月初めのδ=14.3”から、最接近の時にはδ=14.6”と大きくなり、月末にはδ=13.7”まで小さくなった。傾き(φ)は12.8°Nからさらに小さくなって、8.2°Nと少し南向きになっている。位相角(ι)は、ι=13°から「衝」時の最小のι=2.6°を挟んで、月末にはι=12°と欠けが朝方に移動した。今後は朝方の明暗境界線が見えるようになり、夕方深くの火星面の観測が出来なくなる。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、一月のレポート期間の様子を示していて、この期間では2023年の同じ季節(λ)の視直径より大きいのが判る。
前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#525
(01 Feb. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/525/2022repo_13.htm
* CMO#526
(01 Mar. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/526/2022repo_14.htm
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。
視直径は今回よりも大きい。
* CMO #343 (25 Feb. 2008, λ=018°Ls
~λ=033°Ls δ=14.1~10.4”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO343.pdf
* CMO #344 (25 Mar. 2008, λ=033°Ls
~λ=046°Ls δ=10.4~7.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO344.pdf
♂・・・・・・ 2025年一月の火星面の様子
○
火星面概況
一月には最接近となり視直径は14.6秒角まで大きくなった。この期間には大きな擾乱の発生は観測されなかった。傾き(φ)は12°N台から南向きに戻って08°N台になったが、北極域は大きく見えていて、北極冠が明るく見えている。
一月には北極冠周辺でも活発な活動は認められていない。衝効果はわが国からはエリシウム・モンス辺りの様子が連日捉えられた。
マレ・アキダリウムの西側では、引き続きテムペ付近から雲帯がアルバ付近へと延びている。東側に拡がってマレ・アキダリウム中央にも懸かっているようなときもあった。高山のタルシス三山やオリュムプス・モンス、エリシウム・モンスには夕方に山岳雲が懸かり、B光画像ではっきり明るく捉えられるようになっている。高緯度側のアルバ・パテラなども明班に見えている。
南半球のアルギュレの明るさも弱まっているが続いている。ヘッラスにはまだ明るさは出ていないが、南縁には明るさが出ているようになった。
○ この期間の北極雲/北極冠の様子
一月には季節(λ)は、λ=024°Lsから038°Lsまで移り、この期間には『火星通信』が「ボームのプラトー」と称している北極冠縮小の停滞が起きる期間(λ=010°Ls〜040°Ls)に入っている。一月の北極域の様子を月初め・中旬・月末とWinJuposの極展開画像で比較してみた。マレ・アキダリウム(M
Acidalium)やウトビア(Utopia )付近では、北極雲の活動もあり盛り上がりも見られるが、月末の画像では丸くなってきている。雪線緯度の範囲は、月初めでは(60-68°N)、中旬では(62-67°N)、月末では(65-68°N)と読み取れ、先月末と大きくは変化していないようである。プロポンティスT(Propontis I)付近の経度ではあまり北極雲の活動が見られず、雪線は安定しているように見える。並べた図を眺めると縮小しているように見えるのは、北極雲の活動が弱まってきていることもあるのではと思われる。なお、北極冠の中央の高緯度域には陰りが出ている。
ボームのプラトーに関しては、以下の論攷を参照されたい。
* 2008年の北極冠 CMO #338 (25
November 2007) Forthcoming
2007/2008 Mars (14)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_14j.htm
○ 衝効果はどうだったか
「衝」の前後の位相角(ι)の8°未満の小さい期間には、満月状態になった火星面でオリュムプス・モンス(Olympus
Mons)などが午前側から明るく見えることがある。今接近での位相角が8°以下の期間は、一月7日から一月25日までの期間であった。
はじめにオリュムプス・モンスの様子を取り上げる。この領域は月初めにはヨーロッパ・アメリカ方面がオリュムプス・モンスを捉えられる経度だったが、あまり画像がなかった。7日のフラナガン(WFl)氏のB光画像で中央下よりにある明班がオリュムプス・モンスである。LRGB画像でも丸くカルデラの位置が判る。夕方側にはタルシス三山やアルバ・パテラやテムペ辺りも明班で見えていて、夕縁ではクリュセあたりも夕靄で明るくなっている。11日のモラレス(EMr)氏の画像では朝縁から出てきたばかりのところだが明るく捉えられている(マークの位置)。朝から夕方まで明るいのが衝効果の特徴である。しばらく間が開いて極東でも捉えられるようになってきて、20日の阿久津氏のB光画像にも少し夕方に廻っているが、フラナガン)氏の画像と同様の明班の並びが見えている。
次には、エリシウム・モンス(Elysium Mons)の様子を取り上げる。この領域は、上旬から中旬にかけて日本から捉えられて、多くの画像が得られている。ここでは、夕方・中央・午前の様子を捉えた画像を並べてみた。他の画像はギャラリーでご覧ください。9日の阿久津氏の画像では夕方に廻り山岳雲も出ていると思われるが、カラー画像でもモンスの位置が明るく捉えられている。10日の石橋氏の画像ではエリシウム全体が明るくなっている。いつもはB光画像とのセットだがこの日はカラー画像だけであった。13日の熊森氏の画像ではまだ午前の火星面でB光画像に明班が判る。衝効果での明るさはB光でも明るいのも特徴で、山体等の反射太陽光によるものと考えられている。夕縁近くの明班はオリュムプス・モンスの明るさである。このような現象を捉えるにもB光画像による撮影が重要・不可欠であることが判ると思う。
衝効果に関しては、以下の論攷を参照されたい。
* ニクス・オリュムピカについての誤解 CMO/ISMO #389 (25 September 2011)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/Mn_389.htm#
○ 南半球のアルギュレとヘッラス
この期間にもピークは過ぎたが、アルギュレ(Argyre)がやや明るくみえている。ヘッラス(Hella)も北半球の冬至(λ=90°Ls)頃には、明るくなるのが知られていて、そろそろ活動が見られる頃になっている。
先ずはアルギュレの、夕方・中央・朝方の様子である。先月よりは明るさが落ちているように思える。似たような明るさだが夕方には、やや明るく見えているようだ。南端からの明るさの影響もあるかも知れない。
ヘッラスの様子も同様に並べてみた。北西側の輪郭ははっきり判り、ヤオニス海峡(Yaonis Fr)の暗帯をを挟んで、ヤオニス(Yaonis
R)の明るさも小さくみえている。B光での明るさは弱くまだ活動期には入っていないようである。
下旬のメリッロ(FMl)氏やウォーカー(GWk)氏の画像では、南端からの弱い明るさが拡がり始めている。
○ テムペ辺りから東に延びる雲帯
次いで先月にも取り上げたが、マレ・アキダリウムの東側のテムペ(Tempe)からアルバ(Alba)辺りまで伸びる雲帯が、一月にも同様に各氏により捉えられている。ここには、上旬と下旬の様子を並べた。いくぶん弱まっているようにも思える。
○ トピックス
ここでは、一月に捉えられた、興味ある画像を紹介する。
サイクロンか?
ルイス氏とメリッロ氏の別々の日の画像に、マレアキダリウム西側の高緯度に青味のある明るい明斑が捉えられている。両人共に気づかれて追跡した撮影をしている。朝縁に止まらず自転と共に内部に移動している。16日にはメリッロ氏とともに、ゴルチンスキー氏の画像もある。
下記の論攷は、もう少し季節が進んだ北半球の夏至(λ=090°Ls)過ぎの現象の考察であるが参考になると思う。
「1999年のバルチアのサイクロンは2014年に再現するか?」 Forthcoming 13/14 Mars (5)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/416/Mn_416.htm
赤道帯霧 (ebm: Equatorial
Band Mist)
春分を過ぎて北極が暖められて水蒸気が南下してゆくようになり、赤道帯では停留するようになって、低い気温で霧状になり赤道帯がB光域で明るく見えるようになってくる。活動的になるのは、λ=050°Ls以降のことであるか、はしりと思われるB光画像が下旬になって捉えられている。
参考文献として以下の論攷が取り上げられる。
「北極地から赤道帯への水蒸氣の移動と赤道帯霧」CMO #200 (25 February 1998) 1996/97 Mars Sketch (2)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note02j.htm
南極域の明るさ
一月下旬になって、南極域に薄いフードが懸かったような明るさが捉えられている。右に取り上げた30日のモラレス氏の画像に明らかである。この画像には、エリシウム・モンスが小さな明班で捉えられているのが判る。
このフードは31日のウォーカー氏の上記のシュルティス・マイヨル朝方の画像にも現れている。
○ 他の参考文献
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note
(3)
CMO#349 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note
(7)
CMO#353 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
「末期の北極雲と北極冠の境界」 Forthcoming 2007/2008 Mars (5)
CMO #329 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_5j.htm
「末期の北極雲と北極冠の境界。II」 Forthcoming 2007/2008 Mars (10)
CMO #334 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_10j.htm
CMO
2009/2010 Mars Note (19) CMO#389 (
「北半球早春の明るいエリュシウム・モンス」 (Ser3-#015 Japanese)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/2009_2010Note_19.htm
が参考になる。
07/08 CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming 2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
♂・・・・・・ 2025年一月の観測報告
一月は最接近となり、観測報告はいくぶん前月より多くなった。日本からは三名より23観測。フィリッピンの阿久津氏の60観測。アメリカ側から六名より38観測。ヨーロッパ側からは四名より16観測。アフリカからフォスター氏の2観測。合計して、十五名からの139観測であった。
今月に報告数が多かったのは、阿久津氏であった。カラーカメラとB光・IR光の組み合わせて、時々UV光も入った。熊森氏と同じような組み合わせである。熊森氏は、赤緯の高くなったこともあり上の階のベランダにけられるようになりながらも下旬まで撮影を続けられた。フォスター氏は観測数を減らしている。アメリカからも天候の悪さもあるのか報告数が減っている方がふえている。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak)
55 Colour
+ 29 B + 29 IR + 5 UV Images 45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm" with a SV 705C
(1~3. 5, 6, 8, 9, 11, 14, 15, 18~26, 29~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl)
1 Set of LRGB
+ 1 Violet Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
1 Set of RGB +
2 IR Images (10,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー
(PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
7 Sets of RGB +
1 colour* 1mages (3, 4, 12, 14, 15. 24* January 2025)
36cm SCT @ f/11
with a QHY5III 678M & 13cm refractor. F/8 (SVX127D)* with a QHY 5III-715C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
4 Colour + 3 B Images (10, 13, 22,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd)
アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
3 RGB Images (1, 2,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MKd.html
熊森
照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km)
16 LRGB + 15 B
+ 15 IR Images (1, 4, 6~8,
10, 13~15, 17, 18, 21~ 24.
36cm
SCT @ f/38 with an ASI 462MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw)
5 Colour*
+ 3 IR(sG)B + 2 B + 3 IR Images (3. 10/11, 15. 22,
45cm Dobsonian, with a Mars-MII & an Uranus-C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
11 Colour + 9 B
Images (4, 12, 16, 18, 21, 24, 28 January 2025) 25cm SCT with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
9 RGB images (7, 11,
12, 14, 18, 21, 25, 28,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA, Yukio
(Mo) Hatsuka-ichi,
2 Sets of LRGB
+ 2 Colour* Images (1,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Mo.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK
1 Colour Image (3 January 2025) (36cm SCT with an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl) Nantes,
3 Sets of RGB
+ 1 Colour* +7 various
filters Images (13, 14/15 January 2025)
31cm speculum with an ASI 462MM
& an ASI 462MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CPl.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk) Macon, GA, the USA
5 Sets of RGB
Images (4, 25, 26, 31 January 2025)
25cm Mak-Cassegrain with a QYH5V200M-
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
4 RGB
Sets + 6 IR Images (2. 17, 28 January 2025) 28cm SCT with an ASI 678MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 2025年三月の火星面と観測の目安
二月24日に「留」となった火星は順行に移り、三月には「ふたご座」を「かに座」方向へ足早に移動する。視直径は10.9秒角から8.3秒角まで小さくなってしまう。傾きは下旬にはφ=10°N台へと再び北向きに大きくなる。縮小してゆく北極冠と周辺の活動が観測目標の一つとなる。夕方の山岳雲の活動は、位相角が大きくなり午後遅くの火星面が見えなくなってゆくので、だんだん難しくなって行く。朝方の高山でも朝霧から山頂が飛び出して見えたり、山の影が濃く見えたりするようになるのも興味がひかれる現象である。赤道帯霧のピークはまだ先だが、そろそろ淡く捉えられるようになってくる。B光画像が判断の根拠となる。傾きが北側に戻ってゆくために、南半球高緯度の様子は掴みづらくなってゆくが、ヘッラスの明るくなってくる様子や、南極地方の雲の形成などが観測の目安となる。
三月中の火星面の様子は、いつものグリッド図で示した。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線の予想は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。
三月には、季節(λ)は、λ= 051°Ls〜064°Lsまで進み、傾き(φ:中央緯度)はφ=07°Nから10°N台へ北向きに戻る。位相角(ι)は、ι=29°から36°へと増加して、朝方の欠けが大きくなり、朝の明暗境界線が見えている様になる。火星面は午前の面積が大きくなり、朝方の観測へと移ってゆく。朝靄の中からのシュルティス・マイヨルなどの暗色模様の出現にも注目したい。