CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#10
2024年十二月の火星観測報告
(λ=009°Ls ~ λ=024°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#542 (
♂・・・・・・ 今回は『火星通信』に送られてきた十二月中の火星画像をもとに、今期十回目のレポートを纏める。一月12日の最接近をひかえて視直径が大きくなったこともあり、だいぶ詳細が見えるようになってきた。北極雲の活動は残っているものの、北極冠が明るく見えていて、融解の進んでいると思われる中心部には陰りが出てきている。
火星は十二月には「かに座」で7日に「留」となり逆行に移って、下図のようにプレセペの手前から「ふたご座」へと戻っていった。出は夜半前から早まり、月末には日没後には程なく昇っているようになっていた。日本では安定した冬型にはならずに周期的に天候は変化した。しかし関東南部の当地では全く雨の降ることはなく、農作物には被害が出ている。阿久津氏のセブ島でも晴れ間のある日が多く観測日数を伸ばしている。
十二月には、季節(λ)はλ=009°Lsから024°Lsまで進み、北半球春分過ぎの観測となった。視直径は、δ=11.6”からδ=14.3”と大きくなり、最接近に近い状況になってきた。傾き(φ)は15.5°Nから少し小さくなって、月末には12.8°Nになった。位相角はι=32°からι=13°と欠けが小さくなっていった。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示していて、この期間に2023年の同じ季節(λ)の視直径より大きくなっている。
前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#524
(01 Jan. ~ 31 Jan 2023, λ=003~018°Ls, δ=14.7~10.7”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/524/2022repo_12.htm
* CMO#525
(01 Feb. ~ 28 Feb 2023, λ=018~031°Ls, δ=10.7~8.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/525/2022repo_13.htm
♂・・・・・・ 2024年十二月の火星面の様子
○
火星面概況
十二月には視直径は12秒角から14秒角まで大きくなった。この期間には大きな擾乱の発生は観測されなかった。傾きは緯度(φ)は15°N台から少し南向きに戻ったが、北極域が大きく見えていて、明るい北極冠が見えているが、一部にはまだ北極雲が懸かっているところもあるようだ。マレ・アキダリウムの東側では、テムペ付近から雲帯が東へと延びている。北極冠周辺での短期間のダストの活動もあるようで、画像に捉えられているものがある。高山のタルシス三山やオリュムプス・モンス、エリシウム・モンスには山岳雲が懸かり、B光画像では夕方には明るく捉えられるようになっている。北極冠の縮小につれて南への水蒸気の移動が起こり、今後は山岳雲の活動は活発になって行く。南半球でもアルギュレに明るさが見られるようになってきている。南縁にも明るさが出ているようになった。
○ この期間の北極雲/北極冠の様子
この期間の、北極域の様子をWinJuposでグリッドをいれて、雪線の位置を比較してみた。白く明るい部分を北極冠とみて、月初めから月末までの様子を見ると、雪線緯度は、60°Nを越えたところからゆっくりと増加しているが、月末でも70°Nには達していないようである。マレ・アキダリウム付近では、盛り上がっているように見えて、北極雲の影響が残っているものと思われる。画像の大きさを揃えるために、大きさを調整している画像のあることをお断りしておく。
○ テムペ辺りから東に延びる雲帯
次いで先月にも取り上げたが、マレ・アキダリウムの東側のテムペ(Tempe)からアルバ(Alba)辺りまで伸びる雲帯が十一月始めから度々捉えられている。上の十二月1日のフォスター(CFs)氏の画像にもはっきり認められる。B光画像を下段に並べている。緯度は40°Nから50°Nの間に拡がっているようだ。
月初めから下旬までの同じような経度の画像に捉えられていて、一月に入ってもまだ見えている。14日の阿久津氏の画像ではさらに東にも延びていいるように見える。
○ 南半球のアルギュレとヘッラス
南半球の秋分過ぎのこの期間の λ=015°Lsころには、アルギュレ(Argyre)が明るくなりピークに達することが知られている。今接近での様子を並べてみる。
アルギュレ盆地の中央の位置は(045°W, 50°S)で、この期間は北への傾きがやや大きいために、南縁に接するような位置になっている。一番目立つのは十二月28日の阿久津氏の画像で、B光でも明るく捉えられている。λ=022°Lsである。今年は少し遅いか?
λ=015°Lsころでは、メリッロ氏のB光画像には明るく写っているが、上段のカラーカム画像では、明るさはハッキリと写っていない。
下記に参考資料として、2007年の時の様子を南氏が纏められたものを取り上げてあるのでご覧いただきたい。朝縁近くでは朝靄の影響もあり、中央でも画像処理によっても目立たなくなることもあることが取り上げられていて、活発さの判断は難しいとされている。
上の一連の画像で、マレ・アキダリウムの北東側に濃度の濃い部分があるが、この黒みは2007年にも観測されていて、CMO#342 (Ser2-0851)にニロケラス北方での擾亂の影響として、少し取り上げられている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO342.pdf
今年の状況は、右図に取り上げた十二月9日のメリッロ氏のB光画像では、南側に明帯が取り巻いていて、その影響ではないかとも思われる。
ヘッラスの様子も並べてみる。夕方・中央・朝方の像を選んでいるが、日付の間隔は揃わなかった。
ヘッラスの活動はまだ弱いようで、朝方・夕方では朝夕の靄の影響があるが、中央では、北側の輪郭はハッキリしていて内部は地面の色が見えているようだ、東側の小明部は、ヤオニス・レギオ(Yaonis
Regio)である。これらの画像ではシュルティス・マイヨル(Syrtis
Mj)内部に縦に並ぶ暗斑列が目立っている。
○ 活発になってきた山岳雲の様子と、青色光画像の成果
十二月になっては、山岳雲の活動が活発になってきて、夕縁近くでの明るさが目立つようになっている。B光画像での描写がはっきり捉えられていて位置がよく判る。ここでも、どの画像にもB光画像を並べて水蒸気の振る舞いをご覧いただく。
はじめに、タルシス三山(Tarsis Montes)やオリュムプス・モンスなどの高山のある地域の画像を並べてみた。カラーカム画像では写りは鈍いが、B光フィルターでは夕方になるにつれて山岳雲が明るくなっているのが判り、合成カラー画像でも明るさが描写されている。
2日のゴルチンスキー氏の画像を使って、右のような案内図を作ってみた。オリュムプス・モンスの明るさは午後まだ早く目立たないが、タルシス三山の山岳雲はハッキリとしている。高緯度にある二つの明るさは案内図のように、テムペやアルバあたりの標高のやや高いところに懸かっている水蒸気雲のようである。前に取り上げた、テムペから東に延びる雲帯と同じものと思われて、これから活動が活発になると思われる。筆者の村上が1995年に、下記の論攷のようにアルバに伸びる明帯を眼視観測で捉えたことを懐かしく思い出す。
1995年一月のアルバの白雲活動 (051°Ls)
1994/1995 Mars Note (13) -- CMO #179 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note13j.htm
続いて、エリシウム・モンスの様子も並べてみた。十二月前半には良い画像が得られなかったが、下旬になってヨーロッパ・アメリカ側からの画像にはB光画像に捉えられているようになってきた。20日にはビーチ氏の画像とペリエ氏の近い時刻のB光画像を並べてある。ビーチ氏の画像には、エリシウム・モンスの北にも明点があり、ヘカテス・トーラス(Hecates
Tholus)と思われる。ギャラリーの大きな画像でご覧いただきたい。
エリシウム・モンスも午前の早い時刻では明るさは弱いが、午後になると明るくなって行く様子が捉えられている。午後に明るくオリュムプス・モンスの明るさも写っている画像もあるので、上段のカラー画像と見比べて混同しないでいただきたい。
○ 参考文献
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note
(3)
CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note
(7)
CMO#353 (25 December 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
「末期の北極雲と北極冠の境界」 Forthcoming 2007/2008 Mars (5)
CMO #329 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_5j.htm
「末期の北極雲と北極冠の境界。II」 Forthcoming 2007/2008 Mars (10)
CMO #334 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_10j.htm
CMO
2009/2010 Mars Note (19) CMO#389 (
「北半球早春の明るいエリュシウム・モンス」 (Ser3-#015 Japanese)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/2009_2010Note_19.htm
が参考になる。
07/08 CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming 2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
「北極地から赤道帯への水蒸氣の移動と赤道帯霧」 Masatsugu MINAMI
1996/97 Mars Sketch (2) CMO #200 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note02j.htm
○ トピックス
ここでは、十二月に捉えられた、特徴ある画像を紹介する。北極域周辺では、局所的なダストの活動がいくつか捉えられているように思う。特にハッキリしているのは右に取り上げたピーチ氏の部分画像で、北極冠の方までダストの拡がっているのが判る。
次には、阿久津(Ak)氏と森田(Mo)氏が同じ日に連続して捉えた北極冠に懸かる局所的なダストの様子をご覧いただく。右下には拡大図でY字型に見えているダストの拡がりを示した。形を変えずに自転と共に左側に移動してゆく。B光画像では、マレ・アキダリウムの西岸のカリッロエル・シヌスに沿って南に延びる淡い明帯も見えている。北極冠には懸かる部分に陰りが出ている。翌日にも熊森氏・阿久津氏・森田氏から観測が寄せられているが、活動は一日でおさまっている。
♂・・・・・・ 2024年十二月の観測報告
十二月の観測報告は、接近をひかえて前月より多くなった。日本からは二名より9観測。フィリッピンの阿久津氏の34観測。アメリカ側から六名より39観測。ヨーロッパ側からは二名より5観測。アフリカから一名の20観測。合計して、十二名からの107観測であった。
今月に報告数が多かったのは、アメリカ合衆国からゴルチンスキー(PGc)氏、アフリカのフォスター(CFs)氏と阿久津氏の三名であった。日本からは、なかなか報告数が増えないが、年末休みに処理が出来た森田氏から入信があった。撮影は進めているようだが、良い画像の得られることが少なく処理も進まず、報告数は増えないとしている。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak)
32 Colour
+ 18 B + 20 IR + 8 UV Images
(2~4. 6, 7, 10, 12~14, 19, 22,,24, 27, 28, 30,
45cm
Newtonian (F/4) "stopped 30cm" with a SV 705C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl)
5 Sets of LRGB
+ 4 Violet Images (12, 20~
36cm SCT @f/22 with a Saturn-M SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
14 Sets of RGB + 15
IR Images (1, 2, 6, 8~10,
14~17, 21, 23,24, 26,
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー
(PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
15 Sets of RGB + 7 IR
Images (1~3, 13~15, 18, 22. 23, 26, 27,
36cm SCT @ f/11 with a QHY5III 678M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_PGc.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km)
7 LRGB + 7 B
+ 7 IR Images (4, 8, 16, 19,
23, 26,
36cm SCT @ f/38 with an ASI 462MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
8 Colour
+ 5 B Images (4, 9, 14, 18, 23, 27,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
1 Set of RGB + 3 RGB
images (15, 16, 18,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA, Yukio
(Mo) Hatsuka-ichi,
2 Sets of LRGB
Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Mo.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the
3 Colour Images
(4,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl)
2 Sets of RGB + 7 various
filters Images (
31cm speculum with an ASI 462MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CPl.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
3 Sets of RGB
Images (4, 17, 23 December 2024)
25cm Mak-Cassegrain with a QYH5V200M-
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
4 Sets of RGB
+ 4 IR Images (17, 19,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 2025年二月の火星面と観測の目安
二月には火星は、24日に「留」となり、「ふたご座」から「かに座」へ向かって順行に移り、視直径は二月末には10.9秒角まで小さくなってしまう。傾きはφ=7°N台まで南向きに戻るが、下旬には再び北向きになり始める。季節の進みに合わせて縮小してゆく北極冠の観測が目標の一つである。縮小に伴って放出される水蒸気が、南半球に移動して行くときに起きる高緯度側からの山岳雲の活発化や、ヘッラスの南半球の冬至(λ~090°Ls)に向かって明るくなり目立ってくる様子や、南極雲の形成など今後に起きる現象は、来期の観測の予習になって行く。
二月中の火星面の様子は下図のように、いつものグリッド図で示した。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。
二月には、季節(λ)は、λ= 038°Ls〜051°Lsまで進み、傾き(φ:中央緯度)はφ=08°Nから07°N台を保つ。位相角(ι)は、ι=13°から29°へと増加して、朝方の欠けが大きくなり、朝の明暗境界線が見えている。火星面は午前の面積が大きくなり、朝方の観測へと移ってゆく。朝靄の中からの暗色模様の出現にも注目したい。