CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#09
2024年十一月の火星観測報告
(λ=354°Ls ~ λ=009°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#541 (
♂・・・・・・ 今回は今期九回目のレポートとなる。『火星通信』に送られてきた十一月中の火星画像は、視直径が10秒角を越えて大きくなったこともあり、詳細がやや見えるようになってきている。この期間に火星は北半球の春分(λ=000°Ls)を迎えて、おりから傾きが北向きになっていることもあり、明るい北極域の姿が大きく捉えられるようになっていた。北極雲からの北極冠の出現は中旬過ぎには部分的に起きていると思われて、北極雲を透かして見えている経度もまだある。
火星は十一月には「かに座」で順行を続けて、下図のようにプレセペに近づいていった。出は夜半前となり、夜半前からの観測対象になり、観測時間は伸びてきている。日本では秋雨前線が十一月になっても活動して、前半は不順な天候が続いた。
十一月には、季節(λ)はλ=354°Lsから009°Lsまで進み、北半球の春分(000°Ls)を12 Nov.(GMT)に過ぎた。視直径は、δ=9.2”からδ=11.6”と、やっと10秒角を越えて大きくなり、前接近の同季節の視直径を上回りそうになっている。傾き(φ)は15°Nを少し越えて、月末にピークになった。位相角はι=39°からι=32°に減少した。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。
前回接近時の様子は、上のグラフで比較してある。前接近の同じ期間には接近後半で視直径は、今接近よりは大きいが、月末にはあまり変わらない程度にまで小さくなっている。当時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#523
(01 Dec. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/523/2022repo_11.htm
* CMO#524
(01 Jan. ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/524/2022repo_12.htm
♂・・・・・・ 2024年十一月の火星面の様子
○
火星面概況
十一月には中旬に視直径は10秒角を越えて眼視観測にも十分な大きさとなった。この期間には大きな擾乱の発生はなかった。傾きは緯度(φ)は14°N台から北向きに大きくなり15°N台となり、北極域が大きく見えるようになっている。以下に取り上げる画像のように一部では北極冠が見えていると思われる。マレ・アキダリウム付近では北極雲の活動が活発で明るさが大きく拡がっている。高山のタルシス三山やオリュムプス・モンスには夕方には雲が掛かるようになってきていて、弱い活動が見られる。北極冠の縮小につれて今後は活発になって行く。
○ この期間の火星面と北極雲/北極冠の様子
先ずは、マレ・アキダリウム付近の画像を日付順に並べてみる。10月にはこの付近の北極雲は張り出し、ドーズのスリットを見せていたが、11月なっては顕著なスリットの画像は見られなくなった。しかし北極雲の活動は日々に変化している。ゴルチンスキー(PGc)氏の画像を中心に。B光画像と並べて北極雲の様子をしめす。北極冠が北極雲に透けているような画像もあるようになっている。
画像の大きさを揃えるために縮小している画像のあることをお断りしておく。PGc氏の画像は、P方向が左になり、少し右向きになっているのを修正していない。
次いで、少し東側の様子に移る。先月にも北極雲から低緯度側に離れて東西に連なる雲帯が確認されていたが、テムペ(Tempe)からアルバ(Alba)辺りまで伸びる雲帯が十一月始めから度々捉えられている。阿久津(Ak)氏の画像にグリッドをかけて、出現している緯度を確認してみた。40°N〜50°Nの間に拡がっているようで、暗帯を挟んで北側は北極冠が見えているようである。マレ・アキダリウム側は、北極雲がかかっているようである。27日のフォスター(CFs)氏の画像では、アルバよりさらに東にも延びているようである。グリッド図からの北極冠雪線緯度は65°N辺りと思われる。
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note
(3)
CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note
(7)
CMO#353 (25 December 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
が参考になる。
次いで、エリシウム(Elysium)が入ってくる経度を見てみる。西側をフレグラ(Phlegra)で区切られたエリシウムはやや明るく五角形の姿を見せている。Phlegraの西北の暗点はプロポンティスT(Propontis I)で、今接近期では濃度が濃いように思う。北の暗帯はギュンディス(Gyndis)辺りで、その北側が北極冠とおもわれる。下旬になっても朝方には北極雲の活動が認められる。
B光では、南縁の明るさも増してきているようで、南極雲の生成も始まっているようである。27日の画像には、アルシア・モンスに夕方の山岳雲の活動が捉えられていて別稿で扱う。
続いては、ウトピア(Utopia)あたりで、南半球にはシュルティス・マイヨル(Syrtis Mj)やヘッラス(Hellas)の見える模様の賑やかな経度である。この経度でも北極冠が見えていると思われ、北端は少し陰りがみれる。30日の熊森(Km)氏のLRGB画像には顕著である。ここでも朝方の北極雲の活動があり、特にウトピアの朝方では明るさが強くなっているのが判る。23日のフラナガン(WFl)氏の画像にグリッドを入れて北極冠の雪線緯度をみると、ギュンデスの北側で60°Nほどてある。
ヘッラスの午前から夕方までの画像も捉えられていて、B光でも明るさが感じられるようになって来ている。薄い靄が出ているようである。
○
○ 青色光画像の成果
今回はどの画像にもB光画像を並べて水蒸気の振る舞いをご覧いただいている。十一月にも引き続いてアルシア・モンスの夕方の山岳雲の活動が捉えられている。中旬には該当経度の画像によいものがなく、北半球の春分過ぎの下旬に飛んでしまうが、北極冠の融解により夕方の山岳雲の活動か強まってきたようで、北半球高緯度のAlbaあたりの雲帯や、タルシス三山やオリュムプス・モンスにかかる山岳雲も捉えられるようになって来ている。B光画像の重要さを理解していただきたい。
○ トピックス
ここでは、十一月に阿久津氏が捉えた、特徴ある画像をいくつか紹介する。
1) は、プロポンティスTの西に位置するディアクリア(Diacria)に懸かった朝方の雲の拡がりを捉えた画像である。
2) は、北極冠の南側に見られたダストの活動で、カラー画像では北極冠にも懸かっているように見える。IR画像でも明るさが感じられるが、B光では北極雲の明るさに取り込まれている。
3) は、マレ・アキダリウムの朝縁に明るい光斑が捉えられていて、季節はかなり早いが、以前にも見られたサイクロンかも知れない。
いずれの画像にも続く別の画像がなく経過の追跡が出来ていない。北極雲の活動はまだ続いている証左だと思われる。、
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming 2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
「λ=320°Ls to 360°Ls頃の南半球水蒸氣縁雲とヘッラス」 Masatsugu MINAMI
Forthcoming 2005 Mars (14) CMO#311 (25 October 2005)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO311.pdf p0222〜
「北極地から赤道帯への水蒸氣の移動と赤道帯霧」 Masatsugu MINAMI
1996/97 Mars Sketch (2) CMO #200 (25 February 1998)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note02j.htm
「2005年のアルシア夕雲」
"The Arsia Evening Cloud in 2005" CMO #321 (25 July 2006 )
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf (p0417-)
1999年四月下旬のバルティア朝の白雲 1998/99 Mars CMO Note (3)
"Early-morning white patch witnessed near at Baltia
in late-April 1999"
CMO#227 (25
Jan 2000) p2666-
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/note/9903/03j.html
1999年のバルチアのサイクロンは2014年に再現するか?
Forthcoming
13/14 Mars (5)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO416.pdf
♂・・・・・・ 2024年十一月の観測報告
十一月の観測報告は前月より少なくなった。日本からは三名より8観測。フィリッピンの阿久津氏の16観測。アメリカ側から五名より48観測。ヨーロッパ側からは二名より3観測。アフリカから一名の2観測。合計して、十二名からの77観測であった。今月には、アメリカ合衆国からゴルチンスキー(PGc)氏・ウィルソン(TWl)氏の画像が多く入信したが、ヨーロッパからの報告は少なくなった。フォスター(CFs)氏も自宅を離れていて、観測は月末からになっている。日本からは、天候の不順もあって、熊森氏も報告数は少ない、阿久津氏は45cm鏡の架台の修理が終わり、木星を含めてルーチン観測となり観測数を延ばしている。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
16 Colour
+ 11 B + 12 IR + 5 UV Images (2. 5. 8, 12, 14, 22, 24~27, 29 November
2024)
45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm" with a SV 705C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl)
Houston, TX, the
8 Sets of LRGB
Images (12, 14, 15, 20~24 November 2024)
36cm SCT @f/22 with a Saturn-M SQR
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER, Clyde (CFs) Khomas,
2 Sets of RGB +
2 IR Images (26, 27 November
2024) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
Oxford, CT, The
20 Sets of RGB + 8
IR Images (2~4, 8, 10, 12~14, 16, 17, 19, 24, 25, 27, 29, 30 November 2024)
36cm
SCT @ f/11 with a QHY5III 678M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_PGc.html
比嘉 保信 (Hg) 那覇市、沖縄県
HIGA, Yasunobu (Hg)
1 Colour
image (4 November 2024) 25cm Newtonian with a Panasonic 4k video
camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Hg.html
石橋 力 (Is)
相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
2 Colour + 2 B Images (3, 12 November
2024) 31cm Newtonian (F/6.4)
with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
3 LRGB + 3 B
+ 3 IR Images (12, 20, 30
November 2024)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 462MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
8 Colour
Images (2, 8, 10, 14, 16, 19, 25, 29 November 2024) 25cm SCT with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK
1 Colour Image
(29 November 2024) (36cm SCT with an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk) Macon, GA, the USA
2 Sets of RGB
Images (17, 24 November 2024) 25cm
Mak-Cassegrain with a QYH5V200M-
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 RGB Set
+ 1 IR Images (15 November 2024) 53cm Newtonian @ f/15 with
an ASI 462MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
10 RGB Sets + 10 IR Images (1, 2,, 6, 7. 11,
12, 15, 20, 29 November 2024)
28cm SCT with an ASI 678MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 2025年一月の火星面と観測の目安
十二月に「留」となった火星は「かに座」を逆行して、「ふたご座」との境で一月12日に「最接近」となり、16日には「衝」を迎える。逆行をしていることもあり出は早くなり、夜半前の東の空に高く昇っているようになって、視直径も今期最大の14秒角台に大きくなり観測の好機となる。40分インターバルの観測をお勧めする。
傾きはφ=15°台の北向き最大となり、北極地が大きくこちらを向いて北極雲周辺の詳細などが興味を引くことである。北極冠の晴れわたるのも、この期間と思われ北極雲との区別を正確に観測したい。
一月には、いよいよ最接近の時を迎え事もあり、「最接近」と「衝」の時刻の画像を示す。いつものグリット図とWinJuposの画像を重ねたものである。
今回の接近は最大視直径が15秒角にとどかない小接近だが、図のように北極域がこちらを向いていて、縮小して行く北極冠の様子を観測できるチャンスである。北極雲が晴れわたるのは、λ=015°Ls頃とされているので、雪線が65°N程度になっている北極冠から観測することになる。λ=030~040°Ls頃までは、大きく雪線が後退することはなく、我々はボームのプラトーと呼んでいる。一月いっぱいはその期間に入っている。
ボームのプラトーに関しては以下の論攷が参考になる。
2008年の北極冠 Forthcoming
2007/2008 Mars(14) CMO #338 (25 November 2007) 南 政 次
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_14j.htm
一月中の火星面の様子は下図のように、いつものグリッド図で示した。位相角の最小値はι=2.6°ほどで、欠けは南極側を廻って朝方に移ってゆく。
下図でピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で暦表ではΠで示している。北極冠の雪線は図には反映されていないが、SnowLineの数値で示した。
一月には、季節(λ)は、λ= 024°Ls〜038°Lsと進み、傾き(φ:中央緯度)は13°Nから08°Nへ戻ってゆく。位相角(ι)は月末には12°台まで進み朝方の明暗境界線が見えてくる。朝靄の中からの暗色模様の出現に注目したい。