CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#08
2024年十月の火星観測報告
(λ=338°Ls ~ λ=354°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#540 (
♂・・・・・・ 今期八回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた十月中の火星の画像からの、火星面の様子を記述する。火星は十月には「ふたご座」で順行を続けて、月末には「かに座「へ入った。赤緯は少し下がったが、まだ20度以上を保っていた。日本では出は22時台となり、夜半からの観測対象になった。
日本では十月も天候は不順で、報告数は増えていない。
十月には、季節(λ)はλ=338°Lsから354°Lsまで進み、北半球の春分直前まで季節は進んだ、視直径の増加は、δ=7.6”からδ=9.2”と、10”近くまで大きくなってきた。傾き(φ)は09°Nから14°Nと、だいぶ北向きになって、北極雲の様子が捉えられている。位相角はι=41°からι=39°に減少した。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。
前回接近時の様子は、上のグラフで比較してある。前接近の同じ期間には最大視直径のδ=17.2”に達した期間で、だいぶ大きかった。当時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。
* CMO#522
(01 Nov. ~ 30 Nov 2022, λ=331~347°Ls, δ=15.0~17.2”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/522/2022repo_10.htm
* CMO#523
(01 Dec. ~ 31 Dec 2022, λ=347~003°Ls, δ=17.2~14.7”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/523/2022repo_11.htm
♂・・・・・・ 2024年十月の火星面の様子
○
火星面概況
十月には視直径は八秒角を越えて月末には九秒角に達して、眼視観測も始められる大きさになってきた。傾きも中央緯度(φ)は09°Nから14°Nと北向きに大きくなって、北極域が大きく見えるようになり、北極雲や周辺の様子の詳細が見えている画像も出始めている。この期間には大きな擾乱は発生しなかったが、火星面はまだダストが薄く拡がっているようで、高山のピークは午前中から暗く見えていることがあった。後半になると、アルシア・モンスの午後遅くの淡い明るさを捉えた青色光画像が捉えられて、夕方の山岳雲の弱い活動はまだ続いているようであった。タルシスあたりでは、赤道帯霧が弱く感じられる画像も出てきた。
○ この期間の火星面と北極雲の様子
北極雲はマレ・アキダリウム付近では、大きく南に張り出して、ドーズのスリットが度々捉えられている。別の経度でも北極雲のエッジより低緯度に雲の帯らしい明るさが東西に拡がっていることも時々捉えられていて、北極雲周辺の活動が捉えられている。
以下には、アメリカの観測者の、フラナガン(WFl)氏、ウォーカー(GWk)氏、ゴルチンスキー(PGc)氏の画像を中心に、火星面をひとまわり概観することとする。時系列でなく経度の増加して行く順に並べてみた。
先ずは、マレ・アキダリウム付近からの経度の画像を並べてみる。10月にもこの付近の北極雲は、マレ・アキダリウムに張り出し、ドーズのスリットを見せている。下旬になると北極雲と離れた東西方向の雲の並びとなっているように思える。月初めの画像では。低緯度側にマレ・アキダリウムを横切る明帯が感じられ、雲の並びのようにも見える。そのためかニロケラス(Nilokeras)の左側が明るく見えている。
タルシス三山やオリュムプス・モンスは朝方で暗点として見えている。まだ、ダストの影響が残っているようである。
次いで、東側の様子に移る。南半球にはソリス・ラクス(Solis L)が中央に出てきている。北半球は暗色模様の少ないところで、タルシス三山やオリュムポス・モンスが夕方側に動いてゆく。オリュムポス・モンスは夕縁に近づくと山体の影が暗い斑点として先行する。北側のアルバ(Alba)辺りも弱い明るさで捉えられている。アルシア・モンスには弱い夕方の山岳雲の活動が捉えられていて別稿で扱う。
北極雲の張り出しはそれほど大きくなく、周辺には暗帯が見えている。プロポンティスT(Propontis I)の暗点も廻って出てきている。南半球にはマレ・シレナム(M.Sirenum)m)も進んできた。
南半球では、マレ・シレナムの後にマレ・キムメリウム(M.Cimmerium)が出てきた。オリュムプス・モンスの影が、始めの画像の夕縁近くにハッキリと写っている。北半球には、プロポンティス1の暗斑が中央に進んで、後にはフレグラ(Phlegra)からケルベルス(Cerberus)に連なり、エリシウム(Elysium)の西側を区切る南北に拡がる暗帯が続いている。
北極雲は、この経度でも低緯度側に張り出して下の暗帯が透けているようで、東西に連なる雲帯に見えるときもある。
続いては、北半球に五角形の明るさのエリシウムが中央まで出てきているところで、東縁からは、シュルティス・マイヨル(Syrtis
Mj)が入ってきている。南半球の朝縁にはヘッラス(Hellas)の明るさも顔を出し始めた。ピーチ氏の画像には、マレ・キムメリウムのアリンコの足も捉えられるようになっている。
北極雲の様子はウトピア(Utopia)が入ってきて複雑になっていて濃淡が感じられる。ウトピアの朝方では明るさが強くなり活動的になっているのが窺える。
この図では、シュルティス・マイヨルが中央を通過してゆく暗色模様の賑やかなところである。南半球ではヘッラスの朝方から昼までの様子が捉えられている。ヘッラスの北東部の明るい秋分前の季節的な姿で、地肌の見えている様子である。白く明るくなるのは南半球に冬が訪れるλ=060°Lsすぎからになる。
北半球ではウトピアの三角頭の先にノドゥス・アルコニウス(Nodus Alcyonius)の小さな暗斑が捉えられている。13日の画像にはそこを取り巻くような細い明帯があり、フラナガン氏は、12日にウンブラ(Umbra)/ウトピア辺りでのダストイベントが発展したものとして、追跡観測をした画像群である。北極雲は濃淡があり、ウトピア辺りの連日の変化も捉えられている。
この経度では、シヌス・サバエウス(S Sabaeus)からシヌス・メリディアニ(S Meridiani)のパイプ型の暗部が南半球の赤道沿いに入ってくる。ヘッラスは午後から夕方に廻るが明るさの変化は感じられない。
北半球では、ウトピアの東側からマレ・アキダリウムに掛かる北極雲の様子が圧巻である。この辺りでは北極雲の張り出しは大きくないが、明るさが強く感じられる。経度毎の姿の変化も面白く、マレ・アキダリウムが入ってくるところでは南に張り出して低緯度にマレ・アキダリウムを横切る明帯が感じられる。始めの画像に続くウォーカー氏のシリーズ画像である。
前回に取り上げた、九月30日のワレッル(JWr)氏の画像には、シュルティス・マイヨルの北から、マレ・アキダリウム方向に東西に伸びる北極雲と違う低緯度側の雲の帯があり、間が透けて暗色模様が見えている。ウオーカー氏の捉えた明帯も、此の現象の続きなのかも知れない。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/240930/JWr30Sept24.png
○
青色光画像の成果
アルシア・モンスの夕方の山岳雲の活動を、九月には捉えた画像がなかったが、十月になっていくつかの画像が寄せられている。B画像にマークをしたところに、弱いながら明るさが感じられる。
アルシア雲の、帯二のピークの終わりは、λ=340°Ls頃とされているので、活動はだいぶ弱くなっているものと思われる。
次には、ヘッラスの夕方・昼・朝の様子をB光像と並べて示した。B光でも淡い明るさがあり、薄い靄がかかっているのではないかと思われるが、日中の変化は少なく活動的ではない。
赤道帯霧の活動が強くなるのは、λ=090°Ls頃で、まだしばらく後のこととなるが、以下のようにタルシス付近の赤道帯がB光で薄明るい様子も捉えられている。
最後に、熊森氏からは、LRGB・B・IRのセット画像の報告が始まっている。天候が優れず、連続観測にはなっていないが、マレ・アキダリウム域を捉えた十月中旬の画像を紹介する。
マレ・アキダリウムにかかる北極雲の複雑さが捉えられている。
下記のリンク記事も参考にされたい。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて) 」
Forthcoming 2005 Mars (9) CMO#305 (25May 2005) p0088〜
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
「λ=320°Ls to 360°Ls頃の南半球水蒸氣縁雲とヘッラス」 Masatsugu MINAMI
Forthcoming 2005 Mars (14) CMO#311 (25 October 2005)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO311.pdf p0222〜
「北極地から赤道帯への水蒸氣の移動と赤道帯霧」 Masatsugu MINAMI
1996/97 Mars Sketch (2) CMO #200 (25 February 1998)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note02j.htm
「2005年のアルシア夕雲」
"The Arsia Evening Cloud in 2005" CMO #321 (25 July 2006 )
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf (p0417-)
♂・・・・・・ 2024年十月の観測報告
十月の観測報告は、日本からは三名より10観測。フィリッピンの阿久津氏の1観測。アメリカ側から六名54観測。ヨーロッパ側からは三名より15観測。アフリカから一名の11観測。合計して、十四名からの91観測であった。ピーチ(DPc)氏の追加報告も3観測含まれる。
今月には、アメリカ合衆国からフラナガン(WFl)氏・ゴルチンスキー(PGc)氏からの多くの画像が入信するようになった。他にもギリシャのカルダシス(MKd)氏、フエルト・リコのモラレス(EMr)氏からの入信も始まっている。
日本からは、天候の不順もあって、熊森氏以外は報告数は少ない、阿久津氏は45cm鏡の架台の不調で、観測数が少なくなってしまった。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak) Cebu island, The PHILIPPINES
1 Set of RGB
+ 1 IR Images (31
October 2024)
45cm
Newtonian (F/4) "stopped 30cm" with a Mars-M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl)
Houston, TX, the
8 Sets of LRGB
+ 2 Colour Images (11*, 12*, 13, 14, 17, 19~22. 25 October 2024)
36cm SCT @f/22 with a Saturn-M SQR & Uarnus-C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
Clyde (CFs) Khomas,
11 Sets of RGB + 9 IR Images (3~4, 14, 15. 17~20, 23, 24 October
2024)
36cm
SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー
(PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI,
Peter (PGc) Oxford, CT, The
2 Sets of RGB Images (23, 28 October 2024) 36cm SCT with a
QHY5III 678M
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_PGc.html
比嘉 保信 (Hg) 那覇市、沖縄県
HIGA, Yasunobu (Hg)
2 Colour images (22,
27 October 2024) 25cm Newtonian
with a Panasonic 4k video camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Hg.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI,
Tsutomu (Is) Sagamihara,
1 Colour + 1 B Images (12 October 2024) 31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI
290Mc*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd)
アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
4 RGB Images (7, 8, 11, 14 October 2024 ) 28cm SCT with an ASI 183MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MKd.html
熊森
照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
7 LRGB + 7 B + 7 IR Images (1, 11, 12, 14, 16, 21, 30 October 2024)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 462MM & ASI 662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO,
Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
8 Colour Images
(4, 6, 11, 19, 21, 23, 27, 31 October 2024) 25cm SCT with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ
(EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
1 RGB
image (11 October 2024) 31cm SCT
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_EMr.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH,
Damian A (DPc) Selsey, WS, the UK
6 Colour Images
(3, 7, 11, 22~24 October 2024)
(36cm SCT with an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk)
ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER,
Gary (GWk) Macon, GA,
the USA
12 Sets of RGB Images (2, 3, 7, 8, 11, 17, 18, 20, 23, 29 October
2024)
25cm Mak-Cassegrain with a QYH5V200M-
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL,
Johan (JWr) Lindby,
2 RGB Sets
+ 2 IR Images (12, 14 October 2024) 53cm Newtonian @f/15 with
an ASI 462MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
21 RGB Sets + 21 IR Images (1~5,, 7~11. 17,
19~21, 23, 24,,26. 28, 29 October 2024) 21Days
28cm SCT with an ASI 678MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
追加報告
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH,
Damian A (DPc) Selsey, WS, the UK
3 Colour Images
(14, 15, 17 September 2024)
(36cm SCT with an Uranus-C)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_DPc.html
♂・・・・・・ 十二月の火星面と観測の目安
十二月には火星は「かに座」のプレセペの北で、7日20:59GMT (8日05:59 JST)に「留」となり、逆行に移り接近してくる。出は21時台から月末には18時台まで早くなり、夜半には地平高度は40度から月末には65度ほどにまで高くなり、夜半前からの観測対象になる。視直径(δ)はδ=11.6”からδ=14.3”までと大きくなり、来年一月中旬には「最接近」と「衝」を迎える。季節(λ)は北半球の「春分」過ぎの、λ=009°Lsからλ=024°Lsまで進む。傾きはφ=15°台の北向き最大を過ぎて少し戻っていくが、北極地が大きくこちらを向いて北極雲周辺の詳細などが興味を引くことである。北極冠の出現するのも、この期間になり北極雲との区別を正確に観測したい。
十二月の火星面の様子は下図のように、経度・緯度線のグリッドの表示になっている。ピンク色にしてあるところが欠けている部分である。←P は、モータードライブを止めたときに火星が移動して行く方向で、南極を正確に上に向けるときに重要な値(北極方向角)で、暦表ではΠで示している。まだ、北極冠は北極雲の下に隠されているので、極冠の雪線は示していない。
季節(λ)は、λ= 009°Ls〜023°Lsと進み、傾き(φ:中央緯度)は16°Nから13°Nへ少し戻る。位相角(ι)は、ι=32°台から13°台と小さくなり、欠けはどんどん目立たなくなってゆく。図中の赤点は太陽直下点で、右側が午前中の太陽面である。位相角の現象と共に午前の火星面が大きく見えるようになってくる。
北半球の春分(
λ=000°Ls)を過ぎて、図のように北極域が欠けから出て太陽に照らされるようになり、以後は北極雲の晴れ上がりで北極冠の出現と、縮小の様子が観測出来るようになる。
今接近から後の小接近の火星では、北向きの傾きの期間で北半球の観測となり、小さな視直径ながら北半球の様子を観測出来る期間となり、北極域の観測の可能な絶好の機会となる。